理不尽な要求ほど強気に頼む
ユウカはアキに自分の地を認められたみたいで、むしろ気持ちよかった。ちゃんと自分のことを理解しても態度を変えないところに、アキの優しさがあった。
「そろそろ、もっと自分の地を出してもいいんじゃない? その方がみんな楽よ」
アキはそう言ってくれたが、ユウカは「まぁ」と愛想笑いを返すしかなかった。自分が思うように生きると、悪いことばかりが起きる。これがユウカがiいま
大人しく過ごしている理由だった。
ある日、アキと一緒に家に帰ってくると、リヴィングのソファに竜平さんが座っていた。
「あら、帰って来てたのダーリン!! 連絡してくれればよかったのに」
「ははは、驚かそうと思ってね。これはお土産だよ」
竜平さんはアキと40歳も離れた夫だ。仕事で海外によく行っていて一ヶ月ぶりにシンガポールから帰ってきたところらしい。アキはソファに座っている竜平にしなだれかかって、ユウカの目も気にせずにイチャイチャし始める。
「ね、今夜いいでしょ。それとも疲れてる?」
「はっはは。そんなことないさ。私も急いで帰ってきたよ。君のいない寝床は寂しいものだったからね」
「私も。竜平さんが帰ってくるのを本当に待っていたんだから」
竜平もアキも、今すぐにでもリヴィングでセックスを始めそうな勢いだ。ユウカは目も耳もやり場に困る。
この間、このリヴィングであったことを考えると複雑な思いだが、2人ともそれをわかってやってるんだから、この夫婦って不思議だ。知ってて受け入れてる竜平さんは確かにすごいと思う。
「そうだ、ユウカさん。今も昼間は一人で過ごしてるのかい?」
突然、竜平から話を振られてユウカは肩にかけていたバックを落としそうになった。
「あ、……はい」
「ユウカは、私の手伝いをするようになったから、もう心配しなくても大丈夫なのよ」
アキが横から口を挟んだが、竜平は真面目な顔して返答した。
「そかそか。衣食住の心配はしなくてもよいとはいえ、何もしないと心が年老いてしまうからな」
「あ、あの私のことは気になさらず……。今日はお二人でごゆっくり」
確かに竜平の言った通りだ。
アキに頼まれた仕事は大変だけど、自分の力を活かせる感じがして、ボランティアをやってた頃よりも充実してる気がする。
心が年老いるというのは、竜平らしい表現だ。
何もしないと人は考えだけが先走って、口さかしくなって、自分の行動を縛るようになる。あれがダメ、これがダメ、何もしないのに勝手に判断して、ますます行動しなくなる。そんな考えに支配されたら、人の心はやがて年老いていくのだろう。
その点、竜平は年はとっているが、忙しく飛び回ってるせいか、心はずっと若い気がする。
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その翌日、午後、お店に行く準備をアキと一緒にしていると、アキの携帯が鳴った。
なんだか切羽詰まった様子で、アキが電話の向こうの相手と話している。
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