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短編:【魂の面接官】

私は彷徨さまよい歩いていた。

『生きるってね…』
いつの間にか隣にいた男性に、声をかけられる。
『幾重もの選択肢を選ぶ、その連続なんですよ』
「え、あ、そう…なん、ですね?」
『最初の選択が、なにとして生まれ出るか』
なにとして?」
『人として、犬や猫、動物として、昆虫として、草として、物として…』
「はぁ…そう…なんですね…?」

私は彷徨い歩いていた。

「ここはどこですか?」
昔の映像で見た、朝の通勤ラッシュのように同じ方向へと歩き続ける人波。
『ここはどこでもない場所。あの世と呼ぶ人もいれば、天国、極楽、三途の川と言う方もいたか…、はたまた宇宙空間、魂の居場所…』
「魂の、居場所…」
『一度人生を終えた魂が、次の生を受け取るために集う場所と言えばよろしいでしょうか…』

私は彷徨い歩いていた。

「その、…選択がどうのって」
『まずはこの度の人生、お疲れ様でした。いかがでしたか?』
「え、あ、…疲れました」
『そうですか』
「疲れて…自分から、…人生を、終えてしまいました…」
そうだ。私は浴室で手首を切って…
『それも選択ですから。命ある者は必ず死が訪れます。自然死、病死、自害、あるいは殺害…。ご自身で選ぶ場合もありますが、他者たしゃに選ばれてしまう場合もある…』

隣にいる男性は一緒に歩く、というより、宙を浮いている。
『次を考えましょう。次はどうしますか?』
「次?」
『人として、犬や猫として、昆虫として、草として、物として…』
「え、あ、そうですね…」

私は彷徨い歩いていた。

『選択の時間は無限にあります。迷う時間もある。ゆっくり考えてみてください』
「…あの、その前にアナタ様は…?」
『私は何者なにものでもない者です。あの世の番人、閻魔、死神、守護霊などと呼ぶ方もいらっしゃる。…まあ、あなたに寄り添う存在です』
歩いていないということ以上に、男性は一切、口を開いていない。
「先ほどから気になったのですが、アナタ様は歩いてもいないし、口も開けていない。なのに言葉が聞こえる…というか、しっかりと届いて来る…」
『ええ、あなたの心に直接語りかけていますから…』
「直接、心に?」
『なにせ魂あるもの、すべてが人とは限らない。国や環境も違う。動物や物の場合もある。だから言語という概念を越えてお伝えしなければいけない…』
「あ、だから次は“何に”なりたいか、と質問されたワケですか」
『私は何者なにものでもない、と言いましたが、明確な役割はあります』
「役割?」
『はい。“魂の面接官”です』
「魂の面接官?」
『いわば次の進路を明瞭にする存在です』
「だから閻魔様だと思う魂もいるんですね…」
『ご存知かどうか…?この世界、魂の数に限りがあるんです。その魂が何度も何度も何度も生まれ変わって時代や時間、世界を形成している』
「世界を形成?え、でも人口は時代で増減していますよね?」
『ええ。いまいる空間と、この状況、時間は無限にあると言いましたが、次の生き方を模索して、なかなか答えの見いだせない人や、すぐに生まれ変わりたいなど、それぞれ魂によって時間の使い方が違えば、タイミングも変わって来る。なに、長い歴史時間においては微々たるものなのですよ…』
「魂に限りがあって、何度も生まれ変わっているだけ…」
『前世でひどい一生を終えた魂は、しばらく世に戻りたくないと思ったり、一度は物として静かに過ごしたいと考えたりと、それぞれ悩まれるようです…』

つまり、この目の前にいる『魂の面接官』は、私という魂の面接をしているワケか…

『あなたがまっとうできる人生を早めに切り上げるという選択肢を選んだ。次の人生に賭けたのか、しばらくこの地で休みたいというのか。私としては、そこを見極めたい』
「それを言いますと…」
悩んでいた。
「ちょっと失敗したかな…と」
『失敗?失敗とは?』
「私、優柔不断なんです!選ぶのが苦手というか…、仕事も男性関係も、違う方ばかり選んでしまって…。今回の人生、あの、人として、女性として生まれて、自害しちゃったけど…もう少し頑張っていても良かったんじゃないかと…」
『頑張っても良かったんじゃないかと…?』
「いや、そこまで悪い人生じゃなかった。…疲れたけれど、終わらせる必要はなかったかも…と…」
『なるほど』
「少し、後悔を…」
『なるほど…』
「もう一度生まれ変わるなら、同じく、人間の女性で…」
『それも選択肢です。私は面接官として、生きるも死ぬも、あなたの選択を尊重いたします』
そういうと、男性は光となって私の目の中へ飛んで来た。


「わかりますか〜?」
お医者さんがペンライトの光を目に当てる。
医者せんせい、黒目が!」
病院のベッドサイドに人影。
「もう!バカだな!自殺するなんて!」
目の前で親友の真奈美が泣いている。
「あ…ごめん…」
戻って、来た?
「ちょっと意識が朦朧としているようだが…」

真奈美が下の売店から帰って来る。
「魂の面接官にね…」
「魂の面接官?」
「ううん…何でも無い…」
『これからの人生、今度はちゃんとあなたがまっとうするか、見守らせて頂きますから…』
「え?何?」
真奈美がニタ〜と笑ったように見えた。
『自分で選んだ選択ですから…』
いや、真奈美は一切喋っていない。
「ね、ほら!どっち?プリンかゼリー!」
「悩ましい選択…」
「じゃ、私プリン!」
「私もプリン!」

私の心はもう、彷徨ってはいなかった。

     「つづく」 作:スエナガ

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