短編:【雨男の娘】
『父さんは雨男です。
私が産まれた日も、
入学式も卒業式も、
運動会の日だって、
父さんが参加する日は
決まって雨が降ります。
一度だけ、晴れた日がありました。
私が高校一年生だった頃…
母さんの葬式の日です。
カラッと爽快な晴天でした。
父さんは大号泣をしました。
空から雨が降らない分を、
父さんは目から流したのでは
ないかと思うほど、
涙が溢れていました。
あの頃、ふたりきりの家族なのに、
キツく当たってゴメンなさい…
そして、今日は快晴だと思います。
昨日の予報でそう言っていました。
私の結婚式。
きっと父さんは泣いていることと
思います。
父さん。
男手で今日まで育ててくれて、
ありがとう…』
……
「出来た?」
お煎餅をかじりながら娘が言う。
「なんで父さんが、結婚式で娘が読みあげる感謝の手紙を書かなきゃならんのだ?」
「だって父さんの職業、コピーライターでしょ!?文章作るの得意じゃん!」
「それは仕事だからね…」
どれどれ…とパソコンを覗き込む娘。
「あ!母さん!父さんが勝手に母さんがいないことにしてるよ!もう!これだから売れない妄想作家もどきは!当日母さんも参列しているのに…どうするのよ!参加しているお客さんに『見えてますか?』って言うの?」
「…まああれだ、最近のテクノロジーってのは大きく進化しているし、結婚式場の仕掛けも色々あると思って見てくれるさ…」
「テクノロジーって…余興じゃないんだから!」
「…感謝の手紙だって余興だろうさ…それに感動的なドラマ性を感じたいだろ?」
キッチンから笑顔でふたりを見ている母。
「それに昔っから、父さんは仕事が忙しいって、あんまり学校行事も来なかったし…ダメ!全然ダメ!書き直し!誇張し過ぎ!ちゃんとホントのことを書いてよね、私の晴れ舞台なんだから!」
「…父さんが雨男なのはホントだぞ…」
「そこじゃなくって!」…
晴れ舞台に何で雨男の話なのよ!と詰め寄る娘。仲良し父娘に微笑む母。明日の演出のために涙がわりの目薬をこっそり用意している父なのであった…
「つづく」 作:スエナガ