あやめた話
あ、ネズミのことです。
ある夜に突然トイレに現れた8cmほどの小さなネズミ。
よく見ると可愛けれど、排水口から抜け出してきて現れたという不衛生極まりない輩なので、見過ごすわけにはいかず、その時はなんとか駆除して家の外に出さなきゃいけない状況でした。
息子がトイレで叫んでいるので何事かといってみれば、
便器の中で小さなネズミが蠢いていました。
なんで?と思いましたが、とにかく不衛生なのですぐに駆除しなければ!となり、息子と二人で作戦を練りました。
便器の中にいるのは気持ち悪いけど好都合。
いったん蓋をして服を着替えて準備して、まず手袋マスク装備しました。
その時身近に使えそうなものは、スズメバチ駆除用の強力スプレー。
7mも射程の有る強力なもの。あの獰猛で大きなスズメバチをやれるのなら、0距離射撃で一発でしとめられるのではと考えました。
しかも便器の中なので、周りにはあまり飛び散らないので好都合。そこでもししとめられなくても、弱ったものを金鋏でつまんで袋に入れて、
とどめは寒い屋外のバケツの中にためた冷水に沈めて溺死させるという残酷で冷徹な作戦です。
こうやって書いてみると、そして思い出してみると
やはり随分残酷で執拗でなんか怖いです。
でもそのときはへまこいて、もし部屋の中に逃げられたら、と思うと
必ずしとめなければならないと強く思っていて、、、、
まあ、とにかくその作戦を実行しました。
なんだかんだ慌てながらも作戦はうまくいき、複数回の0距離射撃で小さな体はぐったり。予定通り外のバケツに沈めました。
万が一バケツから出てこないようにと念入りにさらに蓋をしてブロックまで乗せる始末。
何故そこまでするのか自分でもよくわからないけど、
どうしてもそこまでやる必要を何故か強く感じていたのです。
息子も同じく思っていたようで、水をたっぷりためたり、石で重しをしたりと、なんだかたかが小さなネズミ1匹に生き返るのではないかという恐怖とそのために必ずあやめなければという使命感を感じていたのです。
さて、翌朝。
バケツの中のビニール袋にはいった小さな屍を
ゴミ袋に入れて捨てるんだなと思い、
スプレーで亡くなっていたものをさらに冷水につけこむなんて
我ながら残酷で執拗でやりすぎたかなと後悔の念も起こりながら、
ドアを開けてみると、
あ、、、、なんでそこにいるの!?
玄関の前の真ん中に堂々と、
その小さな身体を横たえて亡くなっていました。
まるで、自分の最後をお前らに見せてやるといわんばかりの堂々さで。
おそらく彼はスプレーで気を失っていただけで、
その時はまだかろうじて生きており、冷水のバケツの中に入れられたあと、失神から起きたあと、最後の力を振り絞り、
押し込められていたビニール袋を食いちぎり、外に出たところで、
息絶えたということだと思いました。
それはまるでチェーンソーマンの一コマに見開きで登場しそうな
いかにも漫画的なトラウマチックな絵柄でした。
玄関の真ん前センターに横たわるその堂々とした、
しかし苦しかった最後のあがきを想像させるに容易い姿は、
僕らをいい意味でも悪い意味でも震わせるのに十分でした。
気を取り直し、屍をゴミ袋に入れて処理しました。
でも、そこからじわじわと、後悔の気持ちが沸き上がってきました。
あの方法でよかったのかな
もっと苦しめずに排除する方法はなかったのかな
大の男二人がかりでそこまで執拗にあやめたのはなんでだろう
寒くて苦しかっただろうな、、
と様々な気持ちがうかびあがって来ました。
そしてそれらは心をざわつかせる
あらかじめの何かのメッセージのような気もしました。
作戦を立てるときに息子はスマホで素早く調べながら、
確実にやる方法を探していました。
そこには様々な方法がきっと情報としていろいろあったと思います。
それは情報として。
でも玄関の前で最後の姿をみせつけるということから、
悔恨や亡骸への哀れみ、自分の残酷さや、命の尊さまで、
様々な気持ちがぐんぐん思い浮かんだのです。
それはリアリティとして。
その夜、家族3人で自然とそのあたりの話になり、
リアリティてなんだろう、知識として知ることと、フィジカルに直接感じることの大きな違い。
アサド政権崩壊をはじめとした世界各国で起こっている人間の殺し合い、
憎しみの連鎖、自分中心の独裁などニュースの裏にある
無限の命の喪失や横暴さ、暴力性、、、、
なんかもうそこまで話が膨らんであれやこれや密な会話を続けたのでした。
害虫駆除だとはいえ、何よりも自分自身であやめた、
執拗に行ったという悔恨が、これからの人生でも時々思い出すような、
良くも悪くもある意味非常に貴重な体験となりました。
リアルって情報や知識では到底カバーできない心の震えなんだ。
小さな亡骸がそう教えてくれた気がしました。
なんかありがとう、そしてごめんなさい。
安らかに。
いや違うな。