一番身近な人達を大切にしていくと満ち溢れた世界になった
今年3月の半ばから約4ヶ月間、私が住むニューヨーク市内はロックダウンが続きました。
8月を過ぎた頃から少しづつ人と会って話ができるようになると、その都度、色んなトラブルに巻き込まれ誰かと争いになった話を耳にする事がよくありました。
つい最近、ある人が私に
『今こんな時代に、あなたからは悲壮感を全く感じられない。』
と告げたのです。
私が体験したこの4ヶ月間は物質的にはたくさんのトラブルがあり、どうしようもない状況にはなっていたものの、以前より穏やかに過ごせるようになった私がいます。
ー郵便局からの郵送物が一切届かなくなってしまった
ロックダウンが始まってから数日経つと、郵便局からの郵送物が一切届かなくなってしまいました。
ここアメリカの郵便局はUSPS (United States Postal Service)といいます。
オンラインストアで購入した物、政府からの給付金の小切手も一切届かなくなってしまったのです。
USPSへの予算をトランプ大統領が削減したのも大きな理由で、職員たちは過酷な雇用条件で働かなくてはいけなくなってしまったのが原因とされています。そんなことを報道では言っていましたが、長年ここニューヨークに住む私が自信を持って言えるのは、ここニューヨークの郵便局のサービスはコロナが流行する前からよくありません。(私が住んでいるエリアだけかもしれません。)
荷物が届かない、失くされる、そんな時窓口に行っても問題を解決してくれることはまずありません。
オフィスの窓口でカスタマーサービスの電話番号を渡されるのがほとんどで、その番号にかけても数時間繋がらない事はザラにあります。
そんなUSPSからの郵送物が何一つ数ヶ月間届かない状況に陥ってしまったのです。
ロックダウン中に一番困ったのは2歳になったばかりの息子の痙攣の発作の薬が届かず、(今も紛失されたままで届いていません)窓口に行きましたが、薬を送った方が保険をかけて追跡もつけてないからこっちには責任がないし、荷物は届いているはずと逆ギレされた時です。
(一つの機関が機能しなくなるだけで、こんなにも私たちの生活に直接影響するものか…)とガツンと思い知らされた経験でした。
今住んでいるアパートに住んで5年が過ぎました。
このロックダウンのお陰というのも変な話ですが、私と隣に住む管理人家族、下の階にあるオフィスの人たち、同じビルの中の住人達との絆はとても強く築き上げられていったのです。
ある日我が家の郵便受けと玄関に下の階にあるオフィスの郵送物がごそっと大量に届いた日がありました。
私の勝手な憶測ですが、おそらくUSPSの配達員は郵送物の届け先をこのビルの中のそれぞれの場所にきちんと確認せず配達していたんだと思います。
その頃の私は、毎日郵便受けや荷物を何度もチェックしていました。
アメリカ全土で税金を払っている人すべてに支給された一時給付金の小切手、息子のお薬、その他オンラインストアで購入して届かない日用品を待っていたからです。(小切手も未だに届いていません。)
郵便局員の間違えによってうちに届いたその大量の郵送物を持ち、私は下の階にあるオフィスに初めて行きました。
荷物を手渡すと同時に、そこのオフィスのおばさんに我が家の小切手や息子の薬が届いていないことを告げました。
そうすると、そのおばさんが、
『あなた、小さい男の子がいたはずよね?ここにあなたんとこの物が届いたら必ずあなたのところに持ってくから!気をつけるのよ。』
と言ってくれたのです。
同じように、隣に住んでいる管理人さんの奥さんにも声をかけました。
奥さんは『郵送で送られるはずの家賃の小切手が全く届かないでいる。うちにも全く何も届かない。』と言いました。
そして私は、郵便局に問い合わせに行った時にその管理人さんのお家の荷物や手紙も保管していないか尋ねに行きました。
隣に住む管理人ご夫婦は年配な為、郵便局に問い合わせに行くのもリスクが大きい...。
『私がついでに聞いてくるから。』という事になったのです。
結局管理人さん宅の郵送物も保管されていなかったのですが、それを機にお互いの荷物がFedexやUPS、Amazonから届いているのを見たら、すぐにテキストメッセージで『荷物来てるよ』と知らせ合うようになりました。
ロックダウンが始まる頃から、ここニューヨーク市内の治安は一気に悪化したせいか、郵送物の盗難事故が多発しています。
それもあって、管理人さんや奥さんがうちに届いた荷物を盗まれないようにきちんとロックがかかった内側のドアの奥まで入れてくれていることもあります。
私も管理人さん宅の荷物を見ると、彼等の玄関のドアの前まで持っていくようになりました。
お互いの郵送物を確認し合い、守り合うようになったのです。
そうしていると、ある日を境に管理人さんの娘さんがわざわざうちの猫の為におやつを持って来てくれるようになりました。
このアパートに住んでいて、私は隣に住んでいる管理人さんのご家族とロックダウンが始まるまで4年以上、全くきちんと話しをしたことがなかったのにも関わらずです。
彼等以外にも、下の階に住んでいる演劇関係のお仕事をしている、フランス人のおじいちゃんがいます。
そのおじいちゃんには若いガールフレンドがいて、ロックダウン前までは、晴れた日の夕方にはよくアパートの前でマリファナを吸っていました。アパート中にマリファナの匂いが蔓延し、管理人さんが犯人のおじさんを怒りに行くという茶番劇が何度も繰り返されていたトラブルメーカーのおじいちゃんです。
おじいちゃんはいつも極度の人見知りをするうちの息子を見ては
『彼は将来天才になる。この子は素晴らしい才能を持っている。普通じゃないんだよ。天才だ!この子は!』と言いながらよく息子に話しかけてくれていました。
その都度、(また、ハイになってんのかなぁ。。適当なこと言ってるんだろうなぁ。。)と笑顔で適当に交わしていた仲でした。
ロックダウン中に私がポストやアパートの入り口付近を郵送物が来てないかいつものように確認しに行くと、よくそのおじいちゃんが立っていました。
おじいちゃんにも自分の状況を伝えると、彼は「郵便局の配達員が来たら毎回声かけてやる」と言ってくれました。
おじいちゃんも年金の小切手や給付金が全く届かずにいて困っていました。
それを聞いて、毎週のようにニューヨーク市が光熱費、家賃の補助や年配者への食材や食事の宅配といったサービスをオンライン上でアップしていたので、私はその都度おじいちゃんに受給資格がありそうな情報をプリントアウトして彼の郵便受けに入れていました。
こんなに必死になってアパートの住民達とお互いをケアしあった事は今までありせんでした。
原稿料が支払わられる仕事がなくなってしまったシングルマザーの私は失業保険を5月の初め頃に申請しましたが、2ヶ月以上経っても国や市から何の連絡もありませんでした。
もう期待もせず、諦めかけていた7月の終わりに下の階のオフィスの職員さんが間違えて届いたていたウチの郵送物を大量に持って来てくれたのです。
何とそこにニューヨーク市からの失業保険入金の為に必要な書類が紛れ込んでいました….。
その書類が届いたおかげで、ロックダウン期間の分も全て国と市からの失業保険がやっと振り込まれる事になったのです。
ロックダウン中にも関わらず、幸い犬の散歩は法律で許されていました。
毎日朝と午後、息子と犬を連れて短い散歩に行く度、『届いた?』って誰かが私たちにいつも声をかけてくれました。
この記事を書いている今でも、隣の管理人の奥さんと私のテキストは続いています。
ーご近所のママと工夫して協力しあう
アパートの住民以外にも、近所に住むうちと同じくらいの男の子がいるご家族とも考えて協力していました。
お互いが食材の買い出しに行く日はテキストして、必要な食材をついでに買って玄関まで届け合うのです。
特に日本食材は、電車かバスに乗って日本食専用のスーパーに行かないとここニューヨークでは手に入らない食材がたくさんあります。
その時は電車の駅で待ち合わせて、頼まれた食材を手渡していました。
ロックダウン中は家族以外の他人ともなかなか話せないでストレスも溜まりやすいですが、この引き渡しの時にマスクと手袋をしたまま、微妙な距離を置いて、数分だけお互いの安全を報告し合うだけでも心が随分と軽くなりました。
このような些細な会話だけでも、当時の私たちにとってはとても貴重な時間になりました。
私が妊娠中の頃から、そこのご夫婦からたくさんのお下がりを頂いていたので、何かお返しがしたいという気持ちもあって、私が買い出しに行く時は積極的に連絡していました。
色んな規制が解除された今でもこちらから買い物に行く時は連絡を入れています。そして又、たくさんのお下がりやおもちゃや絵本を頂くので、息子の衣服やおもちゃに困ることは未だにありません。
今ここニューヨークは徐々にリオープンの段階を歩んではいるものの、飲食業や観光、美容、エンターテイメント産業に関わる人たちは解雇されてしまう人が増えてきてとても厳しい状況が続いています。
だけれども、私はロックダウンの経験で学びました。
世の中がひっくり返るほどの何かが起きたとしても、まず自分の身近な人と心から支え合い、守り合い、励ましあうことができればいつでも心を健全に保って行けます。
コロナウィルスの感染の恐怖や収入が途絶えた恐怖よりこの力は遥かに勝っていました。
みんなそれぞれ、大きな不安や恐怖を抱えていても、心を強く持って毎日笑顔で他人を思いやることの大切さ。
お互いの安全を確認し、励ましあう言葉や行動は補助金の金額や感染者の数字なんかよりもっと強いエネルギーを持ち合わせていたのです。
ロックダウンの解除が始まっても、私たちを支え合う行為は未だに続いています。
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