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クランチロールがソニー傘下でも主要企業10社以上 北米アニメ配信最新状況

【ソニーのクランチロール買収で独占は強まったか】

 ソニーグループがユーザー数世界最大のアニメ専門配信サービス「クランチロール(Crunchyroll)」の買収完了を2021年8月9日に発表しました。買収総額は約1300億円、長年ニッチと思われてきた「ANIME」の海外ビジネスとしては破格の金額です。
 今回の買収は2020年12月に既に発表されており、買収完了まで約8ヵ月もかかりました。時間がかかったのは、米国司法省による独占禁止法の審査に時間がかかったとも言われています。
 グーグルやアマゾンといった巨大IT企業が存在する米国で、なぜクランチロールが問題視されたのでしょうか。それこそがソニーグループが今回の買収の理由であり、この件がアニメ業界で事件とされる理由です。

 クランチロールのユーザーは世界1億2000万人、有料会員数が500万人。特に北米で強さを発揮しています。アニメ専門配信の業界シェアで、同業のファニメーション(Funimation)とトップを争ってきました。
 そのファニメーションも2017年にソニー・ピクチャーズに買収されています。そもそも今回の買収もファニメーション・グローバルを通じたものでした。トップ2がソニー傘下になることでいっきに寡占が強まったのです。今後、ソニーグループは北米を中心に、世界各地のアニメビジネスで圧倒的なパワーを発揮するはずです。

【配信プラットフォームのビジネスタイプは様々】

 なのですが、今回本当に北米の日本アニメの配信は寡占状態になったかについて考えてみようと思います。
 実はいまでも日本アニメを北米で配信するプラットフォームは、主要なものだけで10以上もあります。もちろん海賊サイトは含みません。いくつものプラットフォームが共存するのは、それぞれが異なったビジネスモデルを取るからです。ここでは主に3つのタイプに分類してみました。

① アニメ専門・定額見放題タイプ
■クランチロール
■ファニメーション
■HIDIVE
② 総合型サイト・定額見放題タイプ
■Netflix
■Amazon Prime VIDEO
■Hulu
■HBO max
■Disney+
■AppleTV
③ アニメ専門or総合・基本無料広告型タイプ
■RetroCrush
■CONtv Anime
■Tubi

【Netflix、Amazon…総合サイトでもアニメ】

 配信プラットフォームの寡占の状況は、①のタイプに限定した場合です。この分野では2016年にVIZ Mediaの「Neon Alley」、2017年に日本資本の「DAISUKI」とアマゾンの「Anime STRIKE」が撤退、事実上クランチロールとファニメーションの2大サービス、より規模が小さくマニア志向の「HIDIVE」の3社に絞られました。上位2社がソニーグループとなったことが、競争が弱まるとされる理由です。
 ただアニメ専門配信のなかでは寡占は強まりましたが、配信ビジネス全体を考えれば必ずしも圧倒的な優位を築いたわけではありません。それは総合型サイトの存在です。Netflix、Amazon Prime VIDEOなどが手強いライバルが存在するからです。

 一昔前であればアニメは、一部の熱心なファンが観るジャンルです。配信プログラムとしてあまり気にする必要はありませんでした。
 ところが2010年代を通じて、各社が「ANIME」が非常によく視聴されることに気づくとメインストリームのひとつと言われるほどになりました。この結果大手プラットフォームがアニメのラインナップ充実に力を入れ始めています。

 大手プラットフォームはこれまでファニメーションやクランチロールなどが獲得した作品を、サブライセンスで配信してました。しかし現在は目玉となるタイトルを独占で獲得するなど、新たな動きにでています。
 Netflixの『攻殻機動隊 SAC_2045』などのオリジナルアニメの重視は知られていますが、この8月にはAmazon Prime VIDEOが日本公開したばかりの大ヒット作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の世界独占配信権を獲得、定額見放題で視聴できることが話題になりました。権利獲得に相当の金額が支払われたと想像されますが、それだけ投じてもビジネスに合うといった判断があったわけです。
 すでに日本アニメスタジオによる「スターウォーズ」シリーズのスピンオフ作品を配信する「Disney+」や「Hulu」、「AppleTV」、「HBO max」といったプラットフォームも日本アニメをライナップしています。今後のさらなる充実に無関心とは思えません。日本のアニメ企業への働きかけも活発化しそうですから、ここでは新たな日本アニメの獲得競争が起きそうです。

【見逃されている無料広告型での日本アニメ配信】

 もうひとつ見落とされがちなのが、広告収入を主体にしたサービスです。実はクランチロールも有料会員は500万人ですが、1億人以上は無料視聴です。無料広告型のビジネスモデルも無視できません。
 このなかで「RetroCrush」はとりわけ異色です。2001年にスタートしたサイトは必ずしも大きくありませんが、『少女革命ウテナ』『シティーハンター』『うる星やつら』といった、大手が手をつけない往年の傑作を中心にユニークなラインナップを構成しています。有料サイトに較べると収入に限りがあることを逆手に取ったニッチ戦略でしょう。

 「CONtv Anime」は、もともとはアニメを得意としたViewsterが前身で、現在は総合サービス型サイト「CONtv」のアニメ部門です。以前より勢いは落ちてますが、依然ビジネスは継続しています。
 「Tubi」も見逃せません。こちらは総合サービス型でフォックスが保有する広告型無料プラットフォーム大手としてIT業界から注目されていますが、やはりアニメに力がはいっています。『NARUTO』『AKIRA』『ワンピース』『進撃の巨人』『ペンギン・ハイウェイ』といった有力作品があります。アニメファンまでいかないけれど、アニメは気になるといった視聴者に便利がよさそうです。

 アニメの視聴者の多様化もあり、現在は配信でもアニメが見られる場も多くなっています。同時にアニメ専門のプラットフォームだけで北米のアニメ配信動向を追うのも難しくなりつつあります。また一社で全てをカバーするのはなかなか難しそうです。
 むしろそれを一番知っているのは、ソニーグループ自体かもしれません。彼らが目指すのはアニメ専門チャンネルを視聴するような、より熱心なアニメファンの分野でのパワーです。そこはユーザーの特性がグローバールでも似ており、またメディアミックスを展開することで収益を拡大しやすいとの狙いもあるでしょう。

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