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マネジメントの外道
マネジメント。
諸外国ではわかりませんが、こと日本においては
「マネジメントをするための明確な条件」
というものがありません。だから誰でもやろうとしてしまうし、誰でもやらせようとします。やる人にとって「自分はマネジメントできるだけの能力があるか」を測る指標のようなものもありませんし、やらせようとする人にとっても「こいつはマネジメントを任せるに足る(あるいは期待できる)能力があるか」と判断するための指標もありません。
結果、「なんとなく」「経験則で」「自分なら(こいつなら)できると思って」といったまったく根拠のない理由でマネジメントを担う役を任せてしまいます。実際、これまで逢ってきたプロジェクトマネージャーなどはPMBOK(Project Management Body of Knowledge:プロジェクトマネジメント知識体系)を(使いこなすかどうかは別として)理解どころかロクに知りもしない人が大多数でした。
マネジメントしなくてはならない対象業務は経営から組織、プロジェクトまで多様ですが、本質はどれも同じです。定められた期間までのあいだに、限られたリソース、制約された条件の中で、目標を達成するための運営・指揮・実行するものを総じてマネジメントと言います。
経営だって、年度ごとに目標を定め、計画を立て、状況・状態を常に管理し、時に指示、時に自ら動いて、立てた計画から大きく逸脱しないようコントロールしますよね。部下である管理職層だって必ずしも全員が優秀で、何もしなくても組織を最も理想通りに運営し、売上や利益を最大化してくれるわけではありません。
部長や課長といった管理職層も、会社の経営と同じ周期で部や課に対し、似たようなことを求められていることでしょう。コストセンターではない部署では売上や利益などが目標となっていますが、そこに配属された社員はロートルから新人まですべて優秀で、彼らの能力を100%以上引き出すための環境がすべて整っていて、最も理想的な組織マネジメントが常に実施できる状態などというものはありません。むしろ、そうなるように組織を熟成させることこそ、あなたに与えられたミッション(目標)であるはずです。
そしてプロジェクトもまったく同じです。発足した時点で目標(成果、期限、予算)が決められていますし、そこに関わる人も決まっていることでしょう。スタートする時点で前提条件も明確になっています。企業だって毎年新人を採用していたりするのですから、条件に見合っていない要員をアサインされることだってあるでしょう。新規顧客との今後の関係性構築のために多少は無理して予算や期限が潤沢に用意されていないケースだってあると思います。また、エンドユーザーにせよ元請けのSIerがいるにせよ、企業ごとに提示できる条件は異なります。契約時点で条件が確定している以上、その条件のなかでパフォーマンスを最大値化させ、目標を達成できるようにコントロールすることができなければなりません。
そもそも、経営にしても、部や課などの組織にしても、スポーツのチームにしても、プロジェクトにしても、それをマネジメントする者にとって
すべての条件がそろっていて
すべて自分に都合いいリソース(人、モノ、金、時間、etc.)が潤沢にある
という状態からスタートできるシチュエーションというものはまずありません。というかむしろそんな条件が整っていたらマネジメントの必要性すらなく、それこそ冒頭にもいいましたように、「マネジメントをするための明確な条件」を満たしていない人でも成功するでしょう。ですが、そうはならないから世の中には
倒産
左遷や降格、部や課の解体
トラブルプロジェクト
と言ったことが絶えないし、むしろ増え続けるわけです。
ゆえに、マネジメントにおいては
限られたリソースや与えられた前提条件の中で
自らの責任において、自ら(の率いる組織)が主体的にマネジメントを行い
目標を達成することができるマネージャーは一流。
と呼ぶのだと思います。
要するに「やりくり」上手な人こそがマネジメントのプロと呼べるわけです。たとえばみなさんに旦那さんや奥さんなどのご家庭があるとして、家計のやりくりって誰がやっていますか?自分でできますか?身近にあるやりくりさえしない/できないという人は、おそらくそれよりも規模の大きいやりくり(マネジメント)はできないでしょう。
家計のやりくりにしたって、金、時間、人、etc.…自身の生活を取り巻くリソースはプロジェクトや組織、会社の運営と何も変わりません。変わらないにも関わらず、小規模な自身のやりくりすらできない人が、それよりも大きなやりくりをできるわけがないじゃないですか。
いやまぁ、一流も何も本来はこれこそが
「マネジメントをするための明確な条件」
であり、これが「理解できない」「実践できない」人はまだまだマネジメントをする資格を手に入れられていないと判断できなければなりません。
では三流は何かというと、
自分を中心に据え、自分が必要と判断するリソースや前提条件をすべて揃えないと
「できない」と判断してしまうほどやりくりのスキルが不足または全くなく
すべて与えられないと行動が起こせない人は三流。
金も時間もそれ以外の条件も、あればあった分だけより良くなる…なんてのは当たり前のことで、その前提が満たせるなら、新人だって成功できます。そうならないからこそ、マネージャーには相応の権限や待遇を与えられているわけです。当然、権限や待遇には「義務」や「責任」も伴うのですが、それらを顧みず権限や待遇だけ受容して、さらに甘えようというのがこうした三流の姿勢です。
案外、私が見てきたトラブルプロジェクトでは、こうしたプロジェクトマネージャーやリーダーが必ずプロジェクトに1~2人いたような気がします(少なくともパッと思いつく限りは、いた)。
ですが、タイトルにもありますように、三流以下…「外道」と呼ばれるマネージャーというのも世の中には存在します。それは三流の要素に加え
自らのマネジメントの稚拙さには目もくれず
上手く進行できない理由を他者に求める人はマネジメントの外道。
ということです。
再三申し上げていますように、マネジメントというものはそもそもその対象である企業や組織、プロジェクトなどが生じた時点で限られたリソースや与えられた前提条件というものが必ず決まっています。
そのなかでやりくりする「義務」をマネジメント責任者は擁していますし、その義務を果たす「責任」を拝命した時点で負っているはずです。その責任が負えないならマネジメントなんて最初からする資格はありません。
こういう資格すら持ちえないような行動しか起こせない人も、残念なことに世の中にはたくさんいます。マネジメントの資格もないのにマネジメントを担う者…これを私は『マネジメントの外道』と呼んでいます。
こういう人は、大抵性根が「真面目」じゃありません。
真面目気質であればあるほど、そもそも他責を用いません。
プロ意識が高ければ高いほど、自ら解決する術を模索します。
実際、過去を振り返ってみると…私も厳しいリソースや条件のプロジェクト(まぁ私は20代後半からほとんどトラブルや炎上プロジェクトにばかり関わってきたんですけど)というものが非常に多かったと思います。そしてそうした中で、私は私の責任において上手くやりくりしようとしてきたという自負があります(結果が常に上手くいったかどうかはともかく)。
1つ例を挙げると、思い返せば東日本大震災の直後なので2011年だったかと思います。
当時、超大手SIer(元請け)のプロジェクトに協力会社として参画したT社(二次請け)がいました。そのT社の下請け(三次請け)でプロジェクトマネージャーとして私が加わったことがありました。要は、三次請けの私が、二次受けのT社のメンバーをマネジメントする…という構図ですね。
プロジェクト自体はリリースの2年前から発足していたのですが、データ移行だけあまりにも難解すぎ、またハードルが高すぎる状況のためにどの協力会社も撤退してどこも引き受けようとせず、そうこうしているうちに残り半年強…という時点で、無理やり引っ張られたような状況でした。もちろん私自身は断ったんですけどね。話を聞く限り、とてつもなくハードルが高いことは即理解できたので(整合をとるためのキー情報が存在しない20近くのシステムを1つに統合するという…)。ですが、そこは企業間のパワーバランスのような見えない力が働いて、泣く泣く強制参加させられることになりました。
この時点で時間的リソースはカツカツどころか圧倒的に不足している状況です。
公共系のシステムでしたので従来のビジネスモデルも通用しませんから、過去の凡例から参考にすることもできず、1から業務理解をはじめデータ内容を把握しなければなりませんでした。
しかも、開発チームは移行のことなど何も考えずに、自分たちの思うようにデータモデルを構築するので、当然現行システムと次期システムとの間でのデータマッピングは難航することになります。
国の運営するシステム(しかも外交問題にもなりかねない機密情報だらけのシステム)ですから、あらかじめ実データを確認することも容易ではありません。毎回、霞が関にお伺いを立てに行って、ごくわずかな説明だけですべてを理解する必要がありました。実際、本番移行時にはジュラルミンケースに鍵かけて、SPが数名ついて移動した…なんて話を聞いたので、どれだけ「データ」理解までに要した状況が困難を極めたかは想像に難くないでしょう(ま、おかげで実データを実際に見なくても確認するノウハウが色々身につきました。要はなんでもアイデアと工夫次第ということです)。
そのような中、二次請けのT社のメンバーのなかに進捗がゼロで何もしない子が途中参画してきました。どんなに簡単な仕事でも進捗はゼロ。本人の希望する仕事を任せても進捗はゼロ。状況は逐一報告しはしますが、二次請けの会社の問題ですので勝手にリリースすることもチェンジすることもできません。しかも当時は元請けである超大手SIerの拠点で常駐して作業する形でしたし、毎週のように進捗状況は聞かれるわけです。
当たり前ですけど「1名、作業してくれないので遅れてます」とは言えません。それこそ無責任であり他責です。当然、二次請けの会社で何かしら対応するまでは、プロジェクトマネージャーとして限られた人的、時間的リソースのなかで、計画通りに進行させる責任が私にはあります。
結局、私はその働かないメンバーには仕事を依頼するものの、それとは別に「いなかったとしても支障がないよう」、元請けの期待する成果(質や量)を勝手に変えることなく、残りのメンバーと私に負担を寄せることもせず、計画を組み替え、品質を落とさずに仕組みをスリム化する方法を構築し、働かないメンバーが居続けた数か月を乗り切ることができました。
この間、元請けのSIerにも、二次請けのT社にも何もしてもらっていません。
T社には状況だけは常に伝えていましたが、実際に対処したのは私の「やりくり」とそのやりくりについてきてくれた他のメンバーだけです。
結局、数か月ののちに、そのほぼ働かなかった子は「実家を継ぐ」からとかなんとかって理由で退職されていったそうです。
このように、理想的な状況なんてのは基本的に存在しません。実際には希少でも存在するかもしれませんが、そういうマネジメントを担当する機会なんて数万人に一人…しかも一生のうちに1回あるかないかというところです。
それでも自らのマネジメント能力を駆使して、実現性の高い計画を構築し、常に計画に寄り添うようコントロールするのがマネージャーの責務です。
その前提を無視して、口先だけの「べき論」を唱え、上手くいかなければ自らのマネジメント能力不足を棚に上げて「他責」ばかり行い、自らの責任でコントロールする努力を放棄するような人は、だいたいステークホルダー間の害にしかなりません。マネジメントを担う立場に立っている関係上、そういう人はなまじ中途半端に色々な権限を持ってしまっているものだからなおさら質が悪い状況を生み出します。
こういう「外道」にマネジメントを任せると、必ず周囲に不幸を招くことになります。
少なくとも私はそういう人とは絶対に仕事をしたくないし、企業に属していた頃なら企業が改めなければ即辞表を提出していたことでしょう(実際、そうやって何社か辞めてますし)。もちろんそういう人がどんなにひどい状況を作り出し、そういう人の採用を改めなかった企業が損害を被ったところで助けてやろうという気にはなりません。自業自得もいいところです。
末端のメンバーであればいくらでも対処の方法はありますが、マネジメント組織のトップに立たれるとこれほど始末に負えないものはありません。私の実力ではイメージできないだけかもしれませんが、こういうケースでは「マネージャーをチェンジする」以外に対策はないのではないかな?と思っています。
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