お題頂戴エッセイ大喜利⑤ サクマのドロップス
サクマドロップス、あるいはサクマ式ドロップス。
会社が異なるらしい。
わたしの記憶のなかでは深緑色の缶に入っている。
それはサクマドロップスのほうらしい。
いちばん好きなのから順に、オレンジ、レモン、グレープ、
いちご、メロン、はっか。
てのひらに二つか三つ出して、好きな色のを口に入れて、あとは戻す。
好きな色は戻して第二希望を食べるときもあった。
それでもいつかはメロンとはっかばかりになってしまう。
いやいや食べるメロンは、やっぱり好きじゃない味。
口を開けて、うえー、といってみる。
はっかは早いうちからおかあさんにあげる作戦を取るのだが、
はっかじゃないのもちょうだいよお、といわれて、
しぶしぶまた缶を振る。
そんなときに限ってオレンジが出てくるのだった。
缶のひんやりした手触りと、蓋のあたりから漂う金気の匂い。
深緑色はなんだかかっこわるいように思えた。
サモンピンクのこたつ板の上にのっているのを思い出す。
紺色地のこたつ布団の表面はつるつるしていた。
部屋の灯りは黄色くて、窓には緑のカーテンが下がっている。
ドロップスの缶がまるで映写機のように、
あたりの景色を映しだし、空間を再現する。
アパートの六畳の部屋。
そこにいるのは七歳のわたし。
レモンのドロップをなめながら、動物の図鑑に引き込まれている。
めずらしい動物のページにいるオカピのことを考える。
キリンと鹿とシマウマの綺麗なところを合わせてつくったみたいな不思議な動物。
夢のなかに住んでいるんだ。
会えたとしたら、それは夢なんだ。
一日じゅう考えていても飽きない。
おかあさんがお使いにいこうという。
図鑑を閉じて、ジャンパーを着て、マフラーを巻かれて。
ドロップをもう一つ、おくちに入れていきましょう。