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のりこちゃんとパパ①
清和荘の一階に同い年ののりこちゃんというともだちがいた。
のりこちゃんも一人っ子で、おとうさんとおかあさんと暮らしていた。
今回の話は、半分くらいは母から聞いたものである。
おとうさんはテキ屋だったそうだ。
がっしりした体つきで、元気がよかった。
手にはいつも白いゴムボールを持っていて、それをちぎっては口に入れて噛んでいた。
チューインガムみたいなものだったのかも知れないが、ゴム臭くないのかな、とわたしは思った。
わたしはその頃髪を伸ばしていて、母が毎朝ポニーテールにして三つ編みにしてリボンをつけていた。
癖っ毛で細いので、それは父に「豚のしっぽ」と呼ばれていた。
のりこちゃんのおとうさんは、その様子とかわいと感じたらしく、おかあさんに
「のりこも三つ編みにしてやれ」といった。
のりこちゃんは髪がまっすぐでしっかりしていた。
三つ編みにしても太くなる。
「なぜこんなに太くなるんだ。いくちゃんみたいに細くしてやれよ」
(いくちゃんというのはわたしの本名での呼び名である)
おかあさんは、いい返した。
「のりこの髪でいくちゃんみたいに細くするにはね、10本ずつくらいで編まなきゃだめなのよっ」
おとうさんはそれで細い三つ編みをあきらめたという。
のりこちゃんと表で三輪車に乗っている写真があるが、わたしは豚のしっぱで、のりこちゃんは市松人形のように髪を垂らしている。