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2.「少年、降臨ス。」

2024年8月2日、尾道市市民センター むかいしまこころホールにて行われた、尾道中学校・高等学校演劇部 第70回公演「少年、降臨ス。」を観劇させて頂きました。
尾道高校演劇部は、私の好きな声優さん「細谷佳正」さんが、その立ち上げ時に在籍していた場所。細谷さんの著書「アップデート」の言葉をお借りすれば「スタートライン」となった場所。
そして今回の上演作品は、同演劇部の立ち上げ人「ハラダサトシ」さん(ハラダ先生)の作・演出で、細谷さんもメインキャストを演じられたとのこと。言わば「自分の好きな役者さんの原点」です。

当時より大幅な改訂があったそうですが、好きな役者さんの原点を、当時の演出家の方の演出で、当時の上演場所に限りなく近い場所で観劇できるなんて、なかなかある機会じゃないなと思いまして。仕事を終えて家事を済ませ、岡山から車を飛ばして駆け付けました。

事前にハラダ先生のポストで見て、また実物も当日受付で頂いた、「1945年8月1日(水)現在の世界」という、相関図が書かれた資料。歴史物で戦争絡みで、警察や軍機関まで…。複雑そうな内容に少し緊張。そんな私をよそに、みるみる埋まる客席。部員さんの家族の方か、小さい子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで。どこか和やかな雰囲気の中、いよいよ幕が上がります。

以降、ネタバレを含みます。


舞台上には少し高くなった段、鉄柱のような柱が四本。雑踏なのか、足早に上手下手を行き来する人々。待ち合わせた一人に一人が駆け寄り、事件が起こる。人通りのせいなのか、よほど上手くやったのか、雑踏はしばらくそれを気に留めないが、やがて異変に気付いた声が騒ぎを大きくしていく。

レストランで誰かを待つ女性も、外の騒がしさに気付く。だがすぐに待ち合わせ相手がドアから入ってくる。仲睦まじそうながら、どこか距離感を感じるやり取りの後、映画(演劇だったかな?)に行くという。恋人だろうか。

雑踏での事件と、関連が疑われる案件を取り扱う、ロス市警のシーン。個性的なキャラ達の中、細谷さんも演じた「ハラダ警部補」にやはり目が行く。
少し気だるくて面倒くさそうな、ベテラン刑事感が絶妙。本当に高校生が演じているの?と何度も思うような…とてもいい枯れ感が出ていた。
そんなロス市警にある日新しく派遣されてきた「モチヅキ刑事」が、この物語のカギを握る。

続いて、食事を取る家族の場面。上手下手で一組ずつの家族が、それぞれ何気ないひと時を過ごしている。
話題はそれぞれの長男、長女の今日のデートについて。会話の内容から、この二組の家族は、冒頭レストランで待ち合わせていた二人のそれぞれの家族だと察する。離れているはずの二つの家族の会話が、時折交錯したりステレオになったりしながら交わされる。目と耳がもう一組欲しかったくらい、舞台ならではの楽しくて惹きつけられる演出。客席からも絶えず笑い声が聞こえてくる。

やがて、それぞれの家族の抱える秘密と、そこから逃げようと画策する愛し合う二人、その二人に背負わされた重大な国家機密、それを追う刑事と謎の組織…とどんどんと物語は深層へ向かう。
市警側だと思われていたモチヅキの謎の組織との接触により、モチヅキの存在に疑念が生まれる。問い詰めるハラダ警部補に、モチヅキは一連の事件の黒幕と、自身の出生についての衝撃的な真実を口にする。そして全てが明らかになった時、「少年、降臨ス。」の「少年」とは…という問いに答えが出る。


本格的な舞台をほとんど観たことのない素人ですが、一言感想をどうぞと言われたら
「めちゃめちゃ面白かった!」
に尽きます。ストーリー、お芝居はもちろんのこと、構成、演出、テンポ…かなり練り上げられたものを感じました。「舞台ってこんなことができるのか!」とも思ったし、「これは舞台じゃないと表現できないかも…」とまで思う場面も。がっつりアクションもあったし、何より演者さんのお芝居、素晴らしかった…。ハラダ先生の作品に魅せられ、ハラダ先生の作り上げる「演劇」に全身全霊で応える若い演者・スタッフの皆さん。みんな本当にいい顔してました。

自分が中学・高校の頃に、ここまでのことが果たしてできただろうかと、帰りの車の中でずっと考えていました。一番、他人の目が気になる年ごろです。とにかく周りのことばかりが気になっていた学生時代を過ごした者としては、全力で「演じる」ということができるこの「尾道高等学校・中学校演劇部」という場所が、本当に眩しく感じました。

そして子を持つ親として。自分の子どもが、ここまで一生懸命になれる場所を見つけることができたなら、それ以上のことはないな、としみじみ思いました。我が長男はこの春から中学生。吹奏楽部に自分の居場所を見出し、厳しい練習にも今のところ耐えています。仲間と一つのものを作り上げ、ステージ上でパフォーマンスを「見せる」感覚。なかなか体感できることじゃない、大事にしてほしい。そんなことすら思わせてくれました。

ハラダ先生と思われる方、劇中機材席にいらっしゃったのですが、笑っておられるように見えたんですよね。
本当に、演劇がお好きなんだろうな…。
この人と、作品を作る楽しさを、演じることの楽しさを知ったんだろうな…。

スタートラインを切ったばかりの在りし日の細谷さんの姿を、そこに見ることができたような…なんとも言えない、至福の時間でした。これはなかなかできない推し活だったのでは、と我ながら思います。どうか細谷さんをお好きなサンズの皆様にも、いつかこの体験を味わえる日が来てほしいと願いながら、拙い感想文を締めようと思います。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。


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