吉村宗浩氏の絵画について

2023年に、私は吉村宗浩さんの絵を知った。Instagramのおすすめにあがってきたのだ。
吉村さんがメディアに載り始めたのは90年代あたりらしいから、自分のことに忙しくて気づかなかったのかもしれない。当時はインターネットにおすすめされることはなかったし。

Instagramでも多くの作品を気前よく見せてくれているが、2023年に画集が発売され、それを丹念に拝見することができた。実物は未見である。

まず、色彩構成が美しい。温かみのあるグレイッシュな色味が多い。(訂正: 改めて見直したが、グレイッシュな色ではなく、影の印象に引っ張られてグレー感が心に残ってたのだった。)何とも言えない安定した組み合わせに、心を掴まれる。そこに配置された色自体が幸せを感じているのではないかと思うほど。チャーミング。

そして、モチーフにおかしみがある。意外で、思いがけない人物やシチュエーションは、「え?」と二度見三度見に応えてくれる耐久性を持つ。一瞬を切り取られた表情は、曖昧で、感情が読めない。それを補う、驚くべきタイトル(「パーティー失敗」が特に好き)。

つまり、何度でも表現に感服し、何度でも情景に遊べるのだ。右脳と左脳に公平な刺激を与えられ、両脳で絵画世界を想像することになる。
繰り返し描かれるパロマー氏や問題神父、北方の旅行者、引率教師という人物にも興味は尽きない。これらの人物には最低限の呼称は与えられているものの、素性がわからない。描かれたビジュアルに目を凝らす以外ないのだ。物理的な背景として、その世界は何故か写真スタジオのそれのような書割感がある。影が極近くに迫っているのだ。サーフィンをしても。スキーをしても。異様だ。

肖像画のように顔がアップになっても、彼らの内面は、簡単には明かされない。
常に謎めいた怖さを湛えながら、それでいて緩やかな寛容性も感じる、不可思議な世界観。怖いもの見たさと癒しって同時に満たされるものなのか?!信じがたい。

恐らく、画家は、これらの印象を綿密に意図している。うまいなあって思う。

だから、何にも不満はないんだけど、この画集の終わりにある画家の言葉が、ちょっと意外。子どもの頃のエピソードは納得できる。「ああ、そう言う景色が見える、心に引っかかるんだな」と。でも、作家自身の言説する「〇〇を描きたい」と言ったその〇〇は、作品に描かれているものはではないと感じる。そんな単純なものじゃなかったよ!なんかもっとすごいよ!と伝えたい。
でもそのズレもまた、謎めいた奥行きを広げて行くものであるのかも。作家自身が何を描こうとしているか知らずにいるなんて。それがツボを押さえた絵になってるなんて!

何重もの驚きに満ちた絵画、面白いです。

(追記)
どんな音楽聴いてる人か知りたい。
村上春樹の装丁や挿絵やったらぴったりだと思う。出会わないかなあ。

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