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【創作小説】佐和商店怪異集め「HappyBirthday Violet」
※菫の誕生日は6月30日です。
「菫ちゃんお誕生日だって!?おめでとう!仕事してて良いの!?」
いつもの佐和商店。
普通に仕事してたら、店長の吉瑞さんが店に来るなりそう言ってくれた。榊さんは呆れた顔をしている。
「それ店長が言うのかよ」
「いやー榊に無理やり引っ張り出されたのかな、って」
「んなことするか。シフトだよ、シフト」
「特別なこともありませんし。一人でいるより榊さんといた方が良いので」
「さらっとそういうこと言うー。俺心の準備出来てないけど?」
榊さんが顔を手で覆い、そっぽを向く。吉瑞さんが爆笑した。
「お祝いのケーキ持って来たから、冷蔵庫入れとくね。仕事終わったら食べて!」
「え!?そんなお気遣いいただかなくても……」
さっさと事務所の冷蔵庫にケーキを入れて来た後で、私は吉瑞さんに抱き締められた。
「私がお祝いしたいのー!おめでとう!良い一年にしてね!」
ふわりと、甘やかな香りがする。優しくて暖かくて、少しくすぐったい。
「……ありがとうございます」
じっ、と後ろから視線を感じる。少し見上げると、吉瑞さんが私の後ろの方を見てにやにやと笑っていた。
「私だって菫ちゃん好きだもん!そんな顔したってハグくらいするわよ」
そんな顔って。
「榊さん?」
肩越しに振り向くと、凄く不機嫌そうな顔をした榊さんが見えた。
「ええ……」
「菫ちゃん引いてるじゃん」
「引いてはいませんけど」
「店で堂々とハグされると腹立つな」
そう言う榊さんの目は据わっている。
「恋人の誕生日にガチ切れする男とか、嫌われるよ?」
真面目に指摘され、榊さんが一気にバツが悪そうな焦ったような、そんな顔になる。
榊さんのあんまり見ない表情ばかり見る気がした。吉瑞さんはまたさっさと店を出てしまい、私と榊さんだけになる。
「榊さんって、ああいう表情もするんですね」
「ん?何の話だよ」
まだ若干複雑そうな顔の榊さんが、私を見た。
「いえ。ちょっと嬉しかったので」
「嬉しい?俺妬けてどうにかなりそうなんだけど」
榊さんと店内でハグ、ってしたこと無いわけじゃないけど、事務所とか外に見えないとこだったと思い至る、当たり前だけど。
「せっかく誕生日に不愉快な思いをさせるのもあれですね……」
「ん?」
私は少し考えて、榊さんの小指に自分の小指を絡めて繋いだ。お客さんが来ても、カウンターで私たちの手は直ぐには見えない。
「この後も一緒にいるんですし、とりあえず今はこれで機嫌直してください」
うーん、でもこれ私が恥ずかしいやつかも。解こうとしたら、ギュッと繋がりが強められた。
「そういうとこだよ、本当」
小指ごと、少し身体を引き寄せられる。見上げたら、榊さんがにやっと笑ってた。いつもの榊さん。
「面白くて可愛くて全然目が離せねぇ、すみちゃんは」
屈託無い笑顔が眩しく見えて、あんまり直視出来ない。顔が一気に熱くなる。
「誕生日おめでとう、すみちゃん。これからも側にいてくれ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
繋いだ暖かな小指は、まだ解けそうに無い。
良い誕生日だし、また一年頑張ろ、って思えた。