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SUBARUの読書感想文#3『みんなの現代アート』グレイソン・ペリー
大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために
<概要>
アートの入門書。もっと正確に言うと、デュシャンに始まる20世紀以降のアート業界について論じる本。
著者はロンドン芸術大学の学長であり、現役のパフォーマンス・アーティストとしても知られるグレイソン・ペリー。
とはいえ、全く硬い本ではなく、もともとはラジオでの講演の内容なので、語り口は軽快で、アート業界特有の何を言っているかわからない単語も出てこない。
アートが大好きな人が読む本と言うよりは、アート業界や美術大学の必要性とか構造が気になる人、それからアートってあんなに高値が付けられている意味がわからない!みたいな人におすすめの本。
<感想>
かなり面白い。アーティストの本だから、絵がところどころあるがどれも象徴的で、かつユーモラスだ。しかも軽快な口調で語るから読み進めやすくて、真面目な美術の本を読んだら、次にアートの裏側を知るための良書だと感じた。
特に良かった部分を引用すると、
幼い頃、アートは真剣な遊びだったはずだ。子ども時代の私は、自分のテディベアを王とする精巧なファンタジー世界を作り上げ、いざとなったら逃げ込める場所にしていた。[...]確かに、最も重要なアートの目的はそのような遊びと同じく、子どもたちが避けられない困難に対峙した時、手助けすることでもある。
アートというと、そして俺はこれに哲学とファッションも追加したいが、形容詞の名詞化が多すぎる(本書では国際アート言語と呼んでいる)。例えばビジュアリティ、グローバリティ、エクスペンシャビリティなどだ。だが、これを無理に覚える必要はないと思う。
著者が言うように、子どもの手助け、アートに時間を割けないような大人の手助けになるものも用意してなければいけないと思う。
美術館に置いてある作品は美しい。「モナリザ」は美しい。でも、写真を横で撮るために見るモナリザはアートじゃなくてアクセサリーな気もするし、2mくらいある写真だったらアートっぽく見える。
つまり、美術館はいろんな演出と観客から出来上がっているのであり、その意味で既にギャラリー(観客向けの大衆演技)だ。だから、必ずしも美術館の全てを好きになる必要も、全て理解する必要もない。むしろ、理解したと主張する人だけがアートを理解していないかも。
アートも一つの業界であること。それは純粋な芸術への情熱で動いてはいないこと。けれど、資本に服従する奴隷でもないこと。アートに対して、上手に茶化しながら教えてくれる本だと思った。
最後に、著者は現代のイズム・主義は多元主義だと言う。これは私も常々感じていて、多様性を意識しない人はインターネットをやっている人なら存在しないだろう。しかしこれもただの主義だ。アートはそれ以前にもロマンや写実、いろいろあった。現実もそうだろう。私たちは多元主義の中でアートを見る。孫の世代はきっと違う見方、違う主義の作品を愛するのだろうと考えると、笑えてくる。だが、主義が永遠でないからこそ、作品を真剣にやる価値がある。