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文庫Xを通して思うこと

岩手県のとある書店から始まった企画「文庫X」

著者、題名、出版社など、その本に関する基本的な情報を伏せ、代わりに文庫Xを始めた書店員が如何にその本をお勧めしたいと思っているか、推したいと思っているかをびっしりと綴ったカバーをかけて、さらにコミックスのようにビニールで覆って中身を読めない状態で店頭に並べて売る。

かなり大胆な売り方だと思う。

私もそれなりに本を読んできたという自負はある。自信を持って他人に「面白いです!」と言って勧められる本も沢山ある。

ただ、それでもその本の基本情報を伏せた状態で勧められる本はなかなか思い付かない。

もしも私が書店員だったとして、勤務先の店長が「うちの店でも文庫Xをやるから何を推すか、考えといて」と言われたら、私は何を推すだろう?

その本の基本情報を伏せて、「私はこの本を推したいんです!」という熱い思いだけを前面に押し出す。そんな思い切った企画に出してでも売りたい、また、そんな企画で売るに相応しいと私自身が納得できる本を私は何冊挙げられるだろう?

岩手県の一書店員が始めた文庫Xはやがて全国の書店に広がり、メディアでも取り上げられ、売り上げも大幅にアップした。

個人の情熱が全国に届いたのだ。あまり世間に知られていなかった本に光を当てることになった、その強い思いには本当に頭が下がる。

また、一読者として読書会やnoteで本について語るようになった今だからこそ、思うことも色々ある。

通常とは異なる売り方を実行できる度胸。
そうしてまで売りたい本に出会えた幸福。
こうした企画を実行に移せる立場にいることへの羨望。
努力が実を結んだ時に感じたであろう喜び。

世の中にはまだ私が知らない面白い本が沢山ある。でも、それを自力で探すにも限度がある。だから、文庫Xに限らず、自分が面白い、推したいと思った本を色々な形で教えてくれる書店員が必要なのだ。

私の地元にも名物書店員と呼ばれる人がいる。「あの人が推すなら」と、買った本も何冊もある。そうした形で買うことを後押ししてもらったのだ。それらの本は私一人ではきっと見つけられなかった。

全国の書店ではそれぞれのやり方で本を売っている人たちがいると思う。彼らの努力が実ることを一人の本好きとして願う。

#創作大賞2023 #エッセイ部門


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