進化した『ねぴらぼ』 NEO PIANO CO.LABO. “Invention” 前編

2月11日、この日は発明家、トーマス・エジソンの誕生日。2021年の同じ日、4人のピアニストたちが ”音楽のINVENTION~発明~” に挑戦した。

全18曲、約2時間30分という特盛イベントのため、前後編に分けて記事にすることになりました (後編はこちら

【Invention to Syimphonia】by All Pianists

18時30分、宵の幕張アンフィシアターにけいちゃんが奏でるチェンバロの音色が響く。イベントのサブタイトルにもなっているバッハの『インベンション第1番』だ。古典楽器独特のビブラートが耳に優美な歴史の風を運んだかと思うと、グランドピアノやドラム、ベースといった現代楽器が加わった途端、魔法がかけられたように会場が明るく輝きだす。

まるでおとぎの国か、もしくは夜毎に内緒で開かれるおもちゃたちの大行進のような、この上なく心が踊るリズムとメロディ。観客をもてなすために考えつくされたスペシャルなオープニングが華々しくイベントの始まりを告げた。

公式サイトの画像そのままのレトロな衣装に身を包んだ4人が、次々に個性的な演奏を織り交ぜる。特にショパン国際ピアノコンクールを控えたかてぃん(角野隼斗)の華麗な『ピアノ協奏曲第1番(ショパン)』が印象的だった。曲の終わり頃、『It’s a Small World』と『第九(ベートーヴェン:交響曲第9番)』をMIXしたような期待感の高まるフレーズが登場し、観客のボルテージは一気に最高潮へ。「Welcome to the world  of "Neo Piano Co.Labo. Invention"」とアナウンスが流れると、ライブ画面のチャット欄が滝のような拍手で埋め尽くされた。

【ドラえもんのうた(小曽根真Cover)】by Cateen

再び暗転したステージ上でスポットライトに照らされたグランドピアノが浮かび上がり、トップバッターはかてぃん。ジャズアレンジのドラえもんが、未来からInventionを届けにきた。青いスーツが似合うドラえもんに手を引かれ、ピアノ型のどこでもドアで南米とかカリブ海の高級マリンリゾートに連れ出してもらう。ドラムの高橋遥平とベースの兼子拓真(熊吉郎)の安定感の上で、かてぃんとパーカッションの直井弦太が軽快に跳ねまわる、心も体も弾むナンバー。

【Spain】by Kikuchi Ryota

続いては、菊池亮太がオープニング曲の引用をしながらバッハの『主よ人の望みの喜びよ』へとなだらかにつなげる。そして美しくクラシカルな前奏から一転、前回のねぴらぼでは全員で弾いた情熱の『スペイン』へと移る。ストリートピアノ界隈やピアノユーチューバーの間で定番とも言える連弾ナンバーだ。今回は敢えてひとりで、という菊池なりの ”インベンション” だと後のMCで振り返っていた。時折、膝を上げて熱く弾く菊池に観客の興奮が高まる。リズム隊も熱を帯びた骨太なサウンドで菊池を盛り上げる。最後はベートーヴェンの『エリーゼのために』を含めたグリッサンドで激しく締めくくった。

なお作曲者チック・コリアはこの日の2日前にこの世を去ってしまった。訃報があったのは公演より後で、菊池はじめメンバーは知る由もなかったと思う。月並みな言葉だが、遺された音楽は誰かが弾き続ける限り、そして誰かが聴き続ける限り、永遠に生き続ける。この場を借り、氏に敬意と感謝を込めた哀悼の祈りを捧げたい。

【新宝島】by Goza

ござの選曲はサカナクションの『新宝島』。彼の透明感あるタッチが原曲を更に洗練された大人の雰囲気へと変える。スイングジャズのテイストが洒落たBARにいるかのようで、粒立ちの美しい音色に酔いしれる。ライムグリーンの照明と小刻みなシンバルが粋に寄り添う。後のMCでかてぃんから、前回の『宝島』から「新」になったことを指摘され「触れていただけるんですねそこ!」と全身を使って喜び、チャーミングな一面を見せていた。

【World & Me】by All Pianists

言わずと知れた、けいちゃんの人気曲『World & Me』を、全員で大胆にアレンジ。けいちゃんが後のMCで「すごっ!」と大絶賛したのも頷ける、最高にエキサイティングな演奏だった。ライティングや初手の背中合わせの "合宿ペア" が憎らしいほど熱い。ハモンドオルガンを自在に操る菊池や、エレクトリックピアノで華を添えるござ、けいちゃんと連弾していたかと思えば前回同様に隙あらばマラカスを持ち出すかてぃんも、ひとたびグランドピアノに戻れば全員おそろしいまでの速さと精度できらめく即興を奏でる。

かてぃんのソロではけいちゃんとの合作『KABURAYA』が、菊池のソロでは、同じくけいちゃん作曲の『動き出すラボラトリー』も飛び出し、まさに音楽は自由だといわんばかりの大爆発を繰り広げた。ござに至っては、神々しすぎて背後からメンバーに拝まれる有様。もちろんけいちゃん本人の見せ場は最大の盛り上がりを見せ、2ndのピアノを代わるがわるに演奏するメンバーの楽しそうな姿も必見で、目がいくつあっても足らない。かてぃんの新兵器であるシンセサイザーもスクラッチノイズで一層のグルーヴを添えた。オープニングも含め、こうした全員での演奏の様子から前回よりも仲間感、一体感が格段に増しているのがよくわかる。

【MC】

ここで最初のMC。体感時間は15分も経っていないように感じたが、開演から既に40分が経過していることに驚く。曲数を考えれば当然なのだが、楽しい時間というものはこうも短く感じるのだと思い知らされる。
「挨拶しておきます? 一応」というかてぃんの仕切りのもと、それぞれがかきくけこ順で自己紹介。かきくけこ順、というのはメンバーの頭文字が「か」てぃん、「きく」ち、「け」いちゃん、「こ」゛ざ、になることを公式が利用している便利な並び順だ。けいちゃんの「やりたい曲をふんだんに詰め込んだ感じですよね」に対し菊池が「やりたい放題」とツッコむなど、ここでも仲の良さを垣間見ることができた。

【ラフマニノフメドレー】by Kikuchi Ryota

オーケストラパートも同時に弾きこなす重厚な『ピアノ協奏曲第2番』から始まり、菊池の十八番ともいえるラフマニノフがメドレーで紡がれる。タブレットには手書きの譜面が映しだされ、彼の日ごろの努力を物語る。『鐘』『プレリュード 23-5』『ソナタ第2番』『パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏』『交響曲第2番 第3楽章(アダージョ)』と巡ってラフ2の第3楽章で締めくくるという、贅沢な構成で会場をドラマティックに染め上げた。

【Everything】by Kikuchi Ryota & Goza

菊池のメドレーの中で弾いたアダージョにはこの曲と似た形があるが、強調するように聴こえたのは伏線だったのかと、その洒落心に唸らされる。2台のピアノだけで作り上げる世界がたまらなく切ない。MISIAの原曲にある恋のやるせなさを一層深めたようなアレンジが、まるで男たちが還らぬ誰かを悼むような映画のワンシーンを彷彿とさせる。この2人が超絶技巧に代表されるようなテクニックだけでなく、心で弾いているからこそ聴く者の胸を打つのだと、涙がとめどなく溢れる。

【ソーラン節】by Kei-chan & Goza

次にセレクトされたのはなんと民謡。しかもただの民謡ではない。菊池が主催するYouTube上でのピアノフェス『ネピサマ』で、音声トラブルに見舞われたござがこれを踊って乗り切ったという、いわば彼のトラウマ曲である。そのトラウマを払拭すべく、見事にアレンジされたワイルドなナンバーに仕上がった。冒頭でござが拳を打ち付けて弾く様子が、漁の活気や荒々しさと当時のござの悔しさを表現しているようにも見えた。和の要素はしっかりと残したまま、ねぴらぼらしいスタイリッシュなリズムとフレーズが激しく繰り広げられる。

【Caribe】by Cateen & Kikuchi Ryota

黒い衣装にチェンジして現れたかてぃんと菊池にチャット欄が沸く。妖しいパープル基調の照明の中、前回の『On Fire』を作曲したミシェル・カミロの最高にホットなジャズナンバー。サポートメンバーにパーカッションが加わったことで前回よりもビッグバンド感が高まって、興奮のるつぼに。観客のいないはずの会場が熱気で温度を上昇させたような錯覚に陥る。菊池はここでもエリーゼやパガニーニをチラ弾きして、遊び心を炸裂させていた。

【浄土】by Kei-chan

衣装替えをしたけいちゃんのソロは、埼玉スーパーアリーナの熱狂が蘇る神曲『浄土』。ピアノユーチューバーの中では珍しい【オリジナル曲を歌うピアニスト】として彼が満を持して進撃を始めた渾身の1曲。これを書いているのは角野ファンだが、正直このけいちゃんを埼アリでみた時は「やってくれたな」と謎の武者震いがした。何度見ても全方向に隙がなく、恐ろしいまでに完成されている。近い将来、彼の人気はとんでもないことになると言っても過言ではないだろう。

【Lingus】by All Pianists

ここでござも黒服に身を包んで登場。かてぃんがこの曲のために30万円近くするシンセサイザーを購入したという、Snarky Puppyのジャズ&ファンクな曲。まさかクラシックのピアニストを追いかけていてシンセサイザーの音を聴くことになるとは。とどまることを知らない彼の鍵盤楽器に注ぐ好奇心たるや。サポート含め7人が淡々と、しかし熱く、自由でありながらも完璧に変拍子を操り整った音を重ねてゆく。途中、ござがチャイコフスキーの組曲『くるみ割り人形』から金平糖の精の踊りを投入。全く印象の違う曲が違和感なく挿入されるのもさすがだ。


ここで二度目のMCとなる。ここから先の様子は後編に続く……。

■■■アーカイブ2022年6月11日(土)23:59まで配信中


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