死の舞踏

どうも。興奮すると記憶が飛んでしまうオタク、寿すばるです。

ユーチューバーかてぃん、ことピアニストの角野隼斗さんのね、クラシックコンサートを見たんです。これが初めて! といっても、このところの事情を踏まえ、会場は無観客のオンラインコンサート。

元は杉並公会堂で行われる予定だった「角野隼斗×亀井聖矢 2台ピアノコンサート」。新型コ口ナウイルスの影響で中止になってしまったけれど、それがオンラインに姿を変えて実現したもの。

いや本当に凄かった。圧巻。あっという間の2時間。サーバの不具合とかもあったけど、連弾もそれぞれのソロも綺麗でかっこよかった。もうね、最高の極み。通常のホールコンサートでは見られないアングルのカメラとか、楽屋トークまで! 随所に生で観られない代わりの工夫がされていて、本当に楽しませてもらった。

記憶を飛ばしてしまう者として、アーカイブは本当にありがたい。公開されている期間内でなら、何回でも観ることができるんだから。生で観たいという気持ちもすごくあるんだけど、全体的に楽しかったとか、断片的にMCでこう言ってたなとか、そういうのしか残らない。観て、感動するのに全部の脳が使われちゃって記憶する場所がないみたいな。入り込みすぎちゃうのかも。トリップだよね。クラシックでも余裕で飛べるw というか角野隼斗は私にとってもはやドラッグ。平沢進並み、ううんそれ以上の聴くドラッグ。

おまけにチケット代ね、2000円! イープラスのストリーミングプラスっていうシステムなんだけど、安い! いいのかなこんな安くて。この価格でこの品質はありがたすぎる。とはいえ頻度も不明だから、これくらいがちょうどいいという感じはする。4000円で月イチとかあったらちょっと大変!

ということで、今回はこのコンサートについて少し書こうと思う。本当は全曲の感想を書きたいのだけど、とてつもない分量になりそうなので1曲だけ。アーカイブを繰り返し観ながら。

語りたいのは「死の舞踏」。サン・サーンスが作曲し、リストがピアノのために編曲したものらしい。
原題だと「Danse Macabre」。フランス語なのかな? Macableは英語にもあって、気味が悪いとかって意味らしい。死を思わせる不気味さ、みたいな。英英辞典でもう少しほどいてみると、奇妙、非日常、不快、みたいな文字が並ぶ。

同じタイトルの寓話やそれを基にした絵画がたくさん存在してて、昔の人も二次創作みたいなことをしていたんだなぁと思ってみたり。時代が離れすぎているからこの曲との関連は分からないけど、普遍的な題材ではあるよなぁという感じはする。

ちなみに交響詩の死の舞踏はわざと調律を狂わせたようなソロヴァイオリンの音がものすごい不気味で、これ下手な人が演奏したら作品崩壊するやつ! とビビる。サン・サーンス、すごいチャレンジャーだったんじゃないかな。

直前のMCで、「今回ダンス系が多いプログラム」「じゃ(ダンスが)裏テーマで」みたいなこと言ってたのが面白かった。ダンスの中でもワルツというとやっぱり絡み合いもつれあう男女のドラマを思い浮かべる。異性愛じゃなくてもウエルカムだけど、とりあえずリストは女性大好きだったみたいなので男女で笑
さて角野版はどうかな?

先にお断りしておきますが、本当に個人の感想ですというやつです。曲を聴いてのイメージを二次創作的にお送りいたします。
なのでこれがかてぃんさんの考えた死の舞踏だ! なんてことでもないです。特に、ご自分のイメージを大切にされたい方は読まない方がいいかもしれない! ではいきます。

1:10:00頃。弾き始めに左手が鍵盤をそおっと撫でる。まるで目に見えないものを描こうとでもしているように、耳に聞こえない音符から曲がはじまった。そして厳かな鐘のような音へと続く。

なるほど日本の怪談でいったら、ヒュー、ドロドロドロ、みたいな人魂飛び交う墓場のような音だ。それが洋風で、古城のような佇まいを見せてくれる。ホーンテッドマンション的な。

開始から30秒くらいのあたりで、かてぃんさんお得意の「きらりん☆」が入る。だけどこのきらりんが不思議な音色で。どこか不穏な空気を感じるというか、少し灰みがかったような、くすんだ輝き。この曲を一つの物語に例えるなら、主人公が非日常の扉に手をかけた瞬間だと思う。

そしてその扉の向こう。ファンファーレに迎えられ、始まったのはワルツ。

このワルツの始まりのところ! かてぃんさんは手首を交差させて左手で三拍子を刻むの。で、交差を戻してもう1フレーズ。メロを右手、拍子を左手と割り当てる弾き方だけど、いくつか見た他のピアニストは交差させてなかった。音域がくるっと入れ替わるから、交差させないで割り当てを交代させた方が少ないアクションで弾けるってことなのかな?

個人的にはかてぃんさんのように左右で割り当てを決めて弾く方が脳にとっては合理的な気がする。2フレーズが流れるように繋がってて、途切れる感じがしないし。(音だけ聴いても左右どっちで弾いてるかとかわからないだろうから、ここはたぶんホントに繋がってる気がする、ってだけだと思うw)

それにこういうアクションの派手さも、ワルツっぽいというか。手のポジションを戻すとき、ドレスの裾を広げてくるりと回る華やかな美女が見えた気がした。

それに続くフレーズが、急に妖艶さを纏う。ああ、やっぱり美女だった。しかもとびきりの美女。そんな感じ。主人公が美女に手を引かれ、大広間の中央へと誘われる、みたいな。かてぃんさんの表情も音の中に入り込んで恍惚として見える。思い通りの音を出せているんだろうなぁ。

そして不穏な音色の中で、甘い、恋のようなフレーズが登場。ペダルの音がまるで主人公の胸の高鳴りを表すように心拍音を刻む。ホールにいたら、この音聴こえるのかな? 録音ならではだと思うのだけど、偶然なのか、意図的なのか、とにかくこの心音がすごく場面の雰囲気に合っててヤバかった。おもわず「心臓の音」ってチャットに書き込んだら、共感してくれる人がいたりして、だよねだよね! と思ったり。

次第に恋の炎が燃えるように激しく加速するような音の中、かてぃんさんが完全にトリップしてる表情。音の中に全身を深く沈めて弾く時の彼の音は、聴いていてこっちもゾクゾクする。本人的にはあとから自分でみたら恥ずかしいのかもだけど、表現者はやっぱこうであってほしいなと思う。だって音が全然違うんだよ。普通のYouTubeライブの時にもこういう時あって、本当にヤバいなと思う。臨界だよね、ある意味。一番ヤバいところでその昂りが続く緊張感というか。観てるこっちは溢れていつも臨界事故なんですけどね。

その臨界のまま、さらに昇っていくかてぃんさん。もう危険域。また3拍子のフレーズに入って、まさにピーク。甘くて、激しくて、ゴージャスで、なんかもう湿度と糖度がすごくてドロドロに溶け合ってく感じ。そしてまた甘い恋のときめきと心臓の音。さっきよりもちょっとだけ早いような。もしかしたら、だんだんテンポが上がってるのかも? それで高揚感というか興奮が増してるように感じるのかも。聴いてる自分が興奮してるからそう聴こえるだけかもしれないけど。しかも激しいだけじゃない、絶妙な緩急。

1:14:43のあたり、鍵盤から離れた両手が画面から見切れたところで祈るような感じで手を合わせている? 擦り合わせてるようにも。見えないからわからないけれど何してたんだろう。鳴らし過ぎて指痺れたとか? (わかる方いたら教えてください!)

そしてそこからの糖度200パーセントコーナー。なにこれすごい。美女が女神のような甘い優しさで主人公を包み込む。かてぃんさん、ここ数か月でこういう甘いやつめちゃめちゃ得意になった気がする。華やかで、なんだか良い香りまでしてきそうな音。良かったね主人公ラブラブだね! と思ったら。

そう、タイトル回収のお時間がやってきました。ときめく音に不穏が覆いかぶさる。また二人が激しく腕を絡ませ合うみたいな綺麗な音なのに、美女がおぞましい何かに姿をかえて主人公をとりこもうとしているような、不気味な美しさ。まさにMacable!

始めは驚きと恐怖のあまり逃げ出そうとする主人公、追いかける美女の化け物。だけどやっぱり恋してしまった主人公、ひとつになれるならそれでもいいよ、と命を差し出そうとする……そんなドラマティック極まりない音。激しい恋と死、悲劇的で耽美。そして甘美な死が主人公に訪れようと――

……ここで目覚ましアラームの音。鳥の声かもしれない。とにかくそんな、切り替えの音。「ゆーめでーしたー」みたいな。あとで調べたら原曲的にはコケコッコーなんですって。たしかに当時は目覚ましアラームないもんね。でもすごくない? 鶏の声でもアラームでも、とにかくここでお目覚めですっていう合図を現代人も感じるということ! むしろただ鶏の声だと感じるよりもダイレクトにピンポイントに夢から覚めた瞬間が時代を超えて伝わってくることがすごいと思う。これはたぶん、コメディだったりドラマだったりの中で脈々と受け継がれ、刷り込まれてるってことでもあるのかも。

熱く燃えて命を差し出すほどの覚悟で恋したはずなのに、え? え? まさかの夢オチ?

そんな、主人公の呆然とした取り残され感。

怖い思いをしたラストから解放された安堵より、美女が存在しなかったという事実が受け入れられないような。

彼女いない歴=年齢の妄想男子へのレクイエムのような物悲しいフレーズ。お葬式会場はここですか的な。

そして最後の「ちゃんちゃん」が革の表紙がついた古い洋書を閉じたようなおしまい感。「~でしたとさ。おしまい」って、シンプルでさっぱりしていながら、ものすごい高級感。かつ、どこかコミカルで。パタン、と本を閉じられたその時、聴いているこっちも夢から醒めるのです。鶏の声のとこでも書いたけど、この音を「ちゃんちゃん。おしまい」と受け取れる刷り込みの歴史、まじすごい。

それにしても、かてぃんさんが弾くと、物語の起承転結のようなものをより明確に感じる。まるで組曲みたいだと思っていたけど、これは本当に組曲。1曲聴き終えると、バレエとか歌劇の舞台を見たような気分。脚本とオケ譜を全部表現してるくらいの緻密な構成力がすごい。

最初の30秒、きらりん☆までが序幕
美女と出会って恋に落ちて汗まみれの舞踏が第一幕
女神的に甘く優しい中間部が第二幕
美女が豹変して悲劇に向かう第三幕
そして夢オチと終演のお知らせ

こんな感じで。あああ、本当に何度でも聴ける。一生聴いてられる。好き。大好き。

ああ、また4000字も語ってしまった。
それでもこうやって、時々「好き」を少しずつ放出しておかないと溢れすぎておかしくなりそうなんだ。もう充分おかしいのかもしれないけど。

ちょっとnoteに書く時間がなくて貯めてたとこに燃料投下されて暴走したり。

だってかてぃんさんからホロヴィッツて名前が出るとか! 本編終演後に亀井さんのYouTubeチャンネルでやってくれたアンコール配信でも「かっこいい」って言ってた。そうだよホロヴィッツかっこいいんだよ! ファンの方から、かてぃんさんがホロヴィッツのピアノでコンサートやったというお話を教えていただいたり。もうね、一晩中かてぃんさんから見たホロヴィッツがどんなか聞いてみたい。語り明かしたい。一晩じゃ尽きないかもだけど。

少なくとも、この「死の舞踏」の編曲については、かてぃんラボで語ってほしいなぁ。サン・サーンス/リスト/角野ですよ! 萎縮しないで大丈夫!
そりゃ音楽史のお歴々はみんな本当に偉大すぎて、そう思うのも当たり前のことで。私みたいな聴き手側よりも弾いているからこそわかる凄さもあると思うし。けど、かてぃんさんはそこに名を連ねる人になるよ。きっとなる。

アンコール配信といえば。私の書いたコメントに亀井さんがツボってた。
『ホロヴィッツ越えましたよ!!!』って書いただけなんですけどw
お二人の最高にイイ笑顔が見られたの最高(≧∇≦)ノ

ああ、ここにアーカイブの「死の舞踏」を貼ってみんなに観てもらいたい!
でもチケット買った人しか観られないの。代わりにPTNAのときの貼っとく! これも本当にかっこいいから! でも新版はこの100倍かっこいい!

あとこの日の演目にあって、先行配信したラフマニノフの2台ピアノも貼っとく! これ初めて観たときヤッバ! て思ったんだけど、本番こんなもんじゃなかった! 亀井さんの天国まで昇っていくような澄んだ音と、かてぃんさんの大地と大空に畏怖するような壮大な音が混ざり合って、この2人はすごくいいなと思う。全方向に空間が広がる感じ。すごいよ本当に。語彙力が足らない。尊い。もうただただ尊み。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

2022.3追記
今更だけどこの日の公演で演奏した2台ピアノ版「花のワルツ」と終演後の配信のせときます


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