「一流」という言葉をかみしめる

「クラシックでダメだったからジャズやポップスやアニメを弾いている、と捉えてもらっては困る。だから、クラシックでも一流である必要がある」

これは、とある大企業の会長を目の前にして一人の若者が放った言葉。

イープラスの代表取締役会長・橋本行秀氏インタビューで氏の口から語られた角野隼斗の言葉だ。

橋本氏のインタビューは氏の魅力にあふれていて、アイデアや実行力に優れ、柔軟で、そしてやはりしっかりとビジネス(お金)の匂いをかぎ分ける能力とエネルギーがみなぎっている。

お金の話は嫌う人も少なくないと思うけれど、これは本当に大切なことで。橋本氏はポップスが持つような市場をクラシックでも実現できるはずとみていて、基礎を築き上げ、それを若者たちに託そうとしているのだと感じた。

ちなみに世界で最も売れたアーティストはビートルズとエルヴィス・プレスリーの6億枚で、続くマイケル・ジャクソンやマドンナの3.5億枚と競える位置に指揮者カラヤンの2.5億枚がある。つまりそもそも、クラシックとポップスの間に(売上面で)越えられない隔たりなどないのだ。ポップスのアンビエント化(カラオケ需要の歌モノ一強ではなく、カフェや家でまったり聴けるBGM的なものの人気の高まり)もあって、作業用的にもちょうどいいクラシック音楽の需要はうまく高めていければ大きな市場になると私も思う。

しかも、J-popと世界との間に尚も存在する隔たりが、クラシックにはない。世界で通用する日本人の音楽は、日本の伝統音楽やクラシックが強い。そうでないジャンルで活躍するアーティストも少なくはないが、お茶の間まで聴こえてくるのはだいたいこっちだ。橋本氏がどこを目指しているかは私にはわからないけれど、会場の座席数に縛られないストリーミングプラスはやろうと思えば世界中が顧客になる。そんなとき、始めから世界に出ているクラシックアーティストたちはやはり強いはずで。

インタビューの中で反田さんや角野さんのことを語る氏の言葉には彼らに対する信頼や尊敬、そして愛が見えた。自分が歳をとってきて思うのは、とにかく若い人たちが眩しいということ。子供たちは可能性に満ちていて、なんかもう、命のバトンをありありと感じる。私はもう渡したんだなと。

もちろん、私自身も小説家を目指す道半ばの者なので、自分が現役であることも忘れてはいないし、小説家になった上でまた渡せるバトンもあると思っている。橋本氏と私なんぞを並べて考えるのも如何なものかとは思うけれど、私でさえこんなふうに感じるのだから、親世代である氏は確実に「渡す」時期にある。

だからインタビューを読んで、もの凄いものを見てしまったと思った。この事業は、一流から、一流を目指す者へと受け継がれる命のバトンだ。音楽の歴史を変える一幕を見ている。革命のような、進化のような、そういうものを私たちはこの目で、この耳で知ることになる。

橋本氏はきっとワクワクしていると思う。ソクゾクしていると思う。外野で見ている私がこんなに感動しているのだから、まさに歴史の中心にいる橋本氏は最高に高揚していることだろう。冒頭の角野隼斗の言葉を聞いた時、この若者に自分の持つすべての「一流」を託したい、そう思ったのではないだろうか。

反田恭平、角野隼斗だけでなく、志の高い若者たちがこれからも橋本氏の、イープラスのもとに集まることを願う。橋本氏がこれまで走り抜けてきた、そしてこれからも築き上げて磨き上げてゆく、命のようなバトンが未来へと繋がっていってほしいと強く願う。



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