ドイツの家、湿気との終わりなき闘い。
僕の住んでいる家は、テュービンゲンの3階建てアパートです。その1階に住んでいます。このアパートは斜面に建っており、実際に道路に面しているのは2階です。そのため、1階とは言いますが、半地下のような様相を呈しています。1日のうち、陽の光が直接部屋に差し込むことはなく、常に薄暗いです。テュービンゲンもようやく夏らしい気温になってきましたが、部屋にいると朝は未だに少し寒く感じられます。かけ布団も寝巻きも春仕様のままで、日本の家族にも驚かれます。気温に関しては自分の努力次第でなんとか乗り越えられると思うのですが、より重要な問題があります。それが、湿度です。
ドイツの家の換気性能は、控えめに言ってもひどいです。窓を開けないと、ほぼ完全な密閉空間と化します。基本的に、短くそれほど厳しくない暑い時期よりも、暗くて長い寒い時期をどう乗り切るかに焦点が置かれているのでしょう。換気扇は一つもありませんし、窓にも網戸はついていません。大家さんに、朝の起床時と夕方の帰宅時の1日最低2回は、窓を大きく開けて空気を入れ替えるようにとかなり強めに忠告されています。大家さんが強く忠告してきたのには、理由がありました。以前この部屋に住んでいた人が、どうやらやらかしてしまったようなのです。
聞いた話によると、その住人がある朝目を覚ますと、天井の壁が一面緑色になっていました。一体なんの緑なのでしょう。そう、カビです。大家さんにすぐに連絡し、2人で壁一面にこぼりついたカビを一生懸命取り除いたようですが、素人には全てを除去することは難しい。職人を呼んで作業してもらい、なんとか大部分を除去できたようです。ドイツのアパートでは、純粋な家賃とは別に、共益費を支払うのが一般的です。今回のカビの除去のような作業には、この共益費が充てられるようですが、足が出てしまったらしく、その住人が責任をとって自腹を切るハメになったらしいのです。
この一件以来、大家さんは湿度に対して過剰とも思えるほど敏感になっており、僕が入居した時には、既に部屋の中に湿度計が置かれていました。70%を越えるとカビの繁殖に適した環境になってしまうので、意識してこの値を越えないように努力してほしいと切実にお願いされました。朝夕2回の換気だけでなく、料理時は常に窓を開けておけ。汗をかいた時もすぐに空気を入れ替えろ。これらの事項を、何か別件で連絡した際にも繰り返し伝えられます。もう一度カビの除去をするのがよほど嫌なのでしょう。僕もまたカビを生やしてなけなしのお金を払いたくはありませんので、素直に聞き入れています。
入居時にカビはほとんど除去されてはいましたが、若干カビ臭が残っていました。どうやら、一部の壁にまだ残存していたようです。大家さんも臭いに気が付き、すぐに職人に直接連絡し、壁の補修工事をすることになりました。工事が決まったのは4月の頭でしたが、職人の都合がなかなか合わず、先日ようやく実施に至りました。工事当日の朝7時半、職人2人がアパートに来訪しました。ドイツの職人の朝は早いです。部屋に入ると、工事のために衣装棚や机の位置をずらします。補修する壁が露わになると、職人はトンカチを使っていきなり壁を破壊し始めました。だいぶ荒療治です。自分がいても邪魔になるだけなので、職人に全てを任せて、職場に向かいました。工事は三日間にわたり、連日朝から昼過ぎまで行われました。朝が早いので終わる時間も早いです。
こうして部屋の壁はすっかり真新しくなりました。カビの臭いもほぼ完全に消え、すっきりしています。ただ、壁の補修で密閉性が上がったのかわかりませんが、在宅中はほぼ常に窓を開けているにもかかわらず、湿度が70%を越えているのがデフォルトになってきてしまいました。まずいと思い、即Amazonでサーキュレーターを購入。以来、大変重宝しております。今の時期はよいのですが、この先に待ち構える寒い時期では、ずっと窓を開けているわけにもいかないでしょう。サーキュレーターと除湿剤をうまく使いながら、湿気との闘いに備えたいです。