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「みんなの嘘」 - みんなの真実を一枚ずつ切り拓く食べごたえ抜群サスペンス

★★★★+

派手な犯罪が描かれるものより腹の探り合いのようなサスペンスが大好物なので、タイトルからしてちょっと惹かれた作品でした。

冒頭はショッキングな事件続きです。まずビルの屋上から飛び降りる女性(キム・ヨンジ)。そして議員のキム・スンチョル(キム・ジュンス)が交通事故で亡くなります。スンチョルの娘のソヒ(イ・ユヨン)は、突然父を喪い、しかも夫のサンフン(イ・ジュニョク)とは連絡がつかない状況。さらに彼女の前に現れた刑事のチョ・テシク(イ・ミンギ)は、サンフンがスンチョル殺しの容疑者だと告げるのです。

ところがある日、ソヒのいる場所へ届けられた荷物。そこには人の手首が入っており、さらにその指にはソヒと同じ結婚指輪がはめられていて…。

混乱に陥るソヒ。彼女のまわりは彼女に父の跡を継いで議員になるように言います。初めは拒否するソヒですが、ある晩彼女のもとにサンフンを誘拐した犯人から脅迫メールが送られてきて、そこには「助けたければ議員になれ」と書かれています。仕方なく従うことにするソヒ。サンフンを助けたい一心で議員への道を進んでいくものの、周囲の人々はそれぞれに思惑があるようで、いろいろなことが食い違っていきます。

さらに人が死に、また届く不穏な小包。サンフンの失踪という大きな謎に絡みつくようにたくさんの疑問が浮かび上がる物語は不気味でありながら興味をかきたてられ、分からないことが多いので次第に考えるより展開をそのまま受け止めるような心境になって観ていました。

このテのドラマとしては王道ですが、とにかく全員が怪しいので次から次へと疑わしさが移ってゆき飽きることがありません。16話を一気に完走できるタイプの作品。

一方でテシクの哀しみを背負った正義感や彼の周りの人々の抱える背景、陰謀の中を生きる人々の過去などが細かいレイヤーをいくつも重ね合わせることで何かが解決してもまた違うところで引っ掛かる層の厚い物語に。父を亡くして夫を救うために死に物狂いのソヒが、世間知らずのお嬢様だったところから次第に逞しく自分の脚で真実に近づいていくようになる姿もひとつのストーリーラインになっています。

1話が1時間なのもいい塩梅で、毎話ちょうどグッと盛り上がりを迎える展開で次に続いていく巧さを感じました。体の一部が届けられるといったグロテスクな場面はありますが、無闇に状況が激変するような出来事があるわけではなく粛々と浸潤していく謀略と見えそうで見えない事実を地道に追い求める実直なつくりが個人的には面白かったです(登場人物たちへのもどかしさも多々ありますが)。

手に入れたものを手放すことができないのが人間というのをしみじみ感じさせるような年長キャスト陣の正統派悪役演技も味わい深く。手応えのある収束感を楽しめる一本です。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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