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センチメンタル 牛乳のフタ

一年前くらいから配信サイトtwitchを見てる。

ツイッチにはチャンネル毎にポイントが貯まるという仕組みがある。基本的には視聴した分だけポイントが貯まっていく。

このポイントはチャットの強調や限定スタンプの解放に使える他、一部配信者はオリジナルの仕様用途を設定したりして、存外面白いコンテンツになっている。

そして使い道の一つとして、ポイントを使った賭博がある。配信者が Twitterの質問機能のように項目を設定し、それに視聴者が自身の所要ポイントをベッドすることができるのだ。

自分の見た限りだと、ゲームの勝敗が賭けになることが多い。賭けの要素が加わることで配信者の一戦はただの草野球から、ローマのコロッセオで行われる死闘へと変貌する。

ポイントでできることは紹介したが、実はこのポイントを本当に有効活用したい人はほんとにごく少数だと思う。たいていの人は無価値な仮想通貨で現実離れした大博打ができるこのおままごとを楽しんでいる。
チャットでは勝ちに賭けた側と負けに賭けた側が試合中ずっと対立煽りをしているが、その中心がこのおままごとだと思うとどこかほのぼのとした空気を感じる。罵倒も煽りも虚構の賭博を楽しむためのロールなのだろう。

ツイッチのポイントの存在から私は小学生時代のあるブームを思い出した。
当時、毎日の給食には瓶の牛乳がついてきていた。牛乳の瓶の飲み口には丸い紙製のフタがついていた。
赤い文字で牛乳の製造会社名が書かれた白く丸いフタはどこかコインのような雰囲気があった。いつから同学年の男子たちはこのフタ、いわば牛乳コインを集めることに夢中になっていた。

集め方はさまざまで、余った牛乳を飲んで2枚目のコインを手に入れる者もいれば、近くの女子からもらう者、中には別のガラクタと交換していた人もいたと思う。
いまだに誰かの手に握られたビニール袋に100枚ぐらいの牛乳コインが入ってる光景を未だに覚えている。

毎日牛乳を食べると1枚もらえるあのコインは当時ではそんな言い方が無かったがログインボーナスだったと思う。供給量が一定である点や複製が不可能である点、そして紙製のなので小学校内の所有物のルールに抵触しない点が噛み合わさり、束の間ではあるがこどもたちだけの通貨が存在したということが今思えばすごいことだったと思う。
あの時の僕たちは通貨の本質に触れていた。

自分でも集めていた記憶はあるのだけど、何に使ったか明確には覚えてない。友達に捧げることで友好度を買っていたような気がしなくもない。
でもあのコインで、賭け事をしていたら面白かっただろうなと今ふと思った。

その日先生に指名されるかどうかとか、昼休みにやっていたサッカーの勝敗とか、掃除の時間にどっちが早く廊下の端から端までを雑巾がけできるかとか。

僕たちの勝負はどこにでもあった。意外にもこれまでで一番競争社会だったのは子どもの頃だった。

 ツイッチのポイントも牛乳瓶のフタもどちらも価値なんてないのに、そのおままごとに参加する人が増えるほどに通貨らしさが高まっていく。
かりそめの視聴ポイントに熱を注ぐ視聴者たちがひしめくチャット欄は小学生のような無邪気さに触れられる場所数少ない場所だ。
プレッシャーのない通貨にユートピアの雰囲気を感じませんか?

偽札をテーマにした漫画、ハイパーインフレーションが面白いので読みましょう。

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