ウクライナ侵攻~通信ネットワークから見たロシアの戦争

はじめに


  • ロシアによるウクライナ侵攻等に対して、米国、EU、日本始め G7 諸国や主要国がロシア、ベラルーシに対して制裁を発動している

  • ロシアもそれに対応し対抗措置をとっている

  • 情報通信の分野では、これまで準備してきたフェイクニュース法やインターネット主権法を用いて情報統制を行っている

  • ここでは著者の備忘録として、通信ネットワークから見た制裁と情報統制の状況をまとめていく

  • 不適切な情報は見つけ次第修正します


通信ネットワークから見た戦争


インターネットトラフィック規制 

  • 2/24のウクライナ侵攻から、ロシアでは外部インターネット遮断の動きがあった。

  • 以下、CISTEC『米国・EUの対ロシア制裁概要と関連諸動向について(改訂3版)』引用

■外部インターネット遮断の動き
〇ロシア政府は、インスタグラムの情報を遮断すると発表(3/11)。ツイッター、フェイスブックもアクセス制限開始。逆に、西側企業から、ロシアでのネット事業停止の動きも(ネットフリックスが動画配信サービス停止等)。「スプリンターネット」(インターネットの分断化)の進行の懸念も(WSJ22.3.15 付)

〇ウクライナは、インターネットの資源を管理する ICANN 等に対し、ロシアのサイトをインターネット上から排除するよう要請したが、ICANN 等はこれを拒否。他方、インターネットの主要バックボーンプロバイダーである Lumen Technologies や CogentCommunications はロシア向けインターネットサービスを停止。

ロシア政府も、ロシアのインターネットポリシーだと称する文書において、ロシアのすべてのウェブサイトは 3 月 11 日までにロシアの DNS サービスを使用するように切り換えなければならない旨指示と、ポーランドメディアが報道(ZDnet Japan22.3.14 付他)

〇EU は、ロシア国営メディア RT と Sputnik へのアクセス禁止を発表。これにともないFacebook や YouTube も、ロシアメディアへのアクセスを制限。

〇ロシア政府は、国産 SNS アプリであるロシア版ユーチューブ「Rutube(ルーチューブ)」やロシア版インスタグラム「Fiesta(フィエスタ)」を推奨しダウンロード回数が急増している。しかし同時に、ロシア国内で利用が禁止されたプラットフォームへのアクセスを可能にするアプリのダウンロード回数も増加の一途となっている。仮想私設網(VPN)に対する 1 日当たりの需要は、ウクライナへ侵攻開始直前と比較して 2700%近く急増。慣
れ親しんだ YouTube 等で広告収入が得られず苦境に陥る事業者も(WSJ22.4.19 付)

CISTEC
https://www.cistec.or.jp/service/zdata_russia/20220318.pdf
  • 以下はロシア大手通信キャリアのトランステレコムの3/7のピアリング状況

  • 西側のTier1も一部を除いて撤退。IPv6ではIIJも接続中。

https://bgp.he.net/AS20485

 ※Lumen や Cogentのトラフィック遮断後、AS1299(Arelion)などが増えた。インターネット自体は停止していない。

https://bgp.he.net/AS20485

ロシアの戦争準備


フェイクニュース法

  • 3/4 軍に関するフェイクニュースに刑罰を科す法案を可決

Bloomberg 3/5記事
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-04/R88AHVDWX2PV01

インターネット主権法

  • インターネット主権法とは?

同法は国外からのサイバー攻撃や情報干渉に備え、国外との接続を切断しても稼働できる露独自のネットを構築するとの名目で成立し、2019年11月1日に施行された。通信を一元的に監視・管理するセンターを設立するほか、通信監督当局の権限を強化し、通常時は通信事業者が行う不適切な情報へのアクセス遮断などを、必要に応じて当局側の判断で行えるようにする。

露「ネット主権法」施行 有事に国外から切り離し 情報遮断に危惧
https://www.sankei.com/article/20191103-44YLXFVBOJPUVP72XVP65VHBMQ/
  • ウクライナ侵攻後、同法に基づき、3/4にフェイスブック、ツイッターを遮断

ロシア、SNS規制 インスタ遮断 次はユーチューブか
https://www.sankei.com/article/20220318-2T4PFM7LURJERC4DY3IX6XOZWM/
  • 2019年からインターネット主権法に基づき海外ネットワーク切り離し実験を実施していた。

4/28 yahoo japan news
https://news.yahoo.co.jp/articles/bb37d02ad5120fc673cc5c548739c60d593b81e8

コンテンツ・サービス影響


  • 決済ができないため事業者側から撤退をした。または、情報統制の目的でロシア側からbanされた西側のサービスは全世界のインターネットトラフィックの半分以上を占めるものと想定される。

  • ただし、ロシア国内では代替のサービスもある模様。

検索サイト  :Google  → Yandex
SNS     :Facebook  → VKontakte
        Instagram   → Fiesta
メッセージ  :WhatsApp  → Telegram
動画投稿サイト:Youtube   → Ru Tube
クラウド   :AWS/Azure → Superbithost?、Alibaba Cloud?

日本の安全保障を少し考える

メッセージアプリ

  • 自衛隊や国の機関で当然検討されていると思いますが、インターネットは今や欠かせないインフラであるため、専制国家のサービスを使っていると、フェイクニュースや世論操作の工作に使われる可能性があります。

  • 現在の日本で使われるメッセージアプリは、韓国資本の『LINE』がスタンダードになっていますが、以下のようなニュースもありました。

LINEがシステム管理を委託していた中国企業の技術者が、ユーザーの名前やメールアドレスといった個人情報に加え、トークや写真も閲覧できる状態となっていた

LINEのデータ、国内に完全移転へ--中国からのアクセスを完全遮断、運用業務も終了
https://japan.cnet.com/article/35168251/
  • 対策も①データ保管を国内に完全移転 ②中国からのアクセスを完全遮断となっていますが、韓国からのアクセスや、日本国内に潜入しているスパイに対して、本当に対処できているのかは、不安が残る説明に思えます。

通信サービスのBCP

  • 通常通信キャリアはデータセンタを東京と大阪といった地域で分散し、災害時にバックアップできるようになっています。ただ、地震と違って、他国から攻撃を受け、光ファイバがエリア単位で切断されると、通信を行うことができなくなります。

  • その場合、バックアップをする移動基地局を大手三社は整備しようとしているようですが、あくまで暫定的なものであり、サービスの継続性を考えると、衛星通信の整備が不可欠になります。

  • KDDIはスペースXと、ソフトバンクは子会社のHAPSモバイル、ドコモはスカパーJSATと組んでいるようですが、有事の際には相互連携するような仕組みは政府主導で整備してほしいところです。

最後に

  • ロシアは国内とプラス中国などで代替サービスを確保しており、一応西側のサービスがなくてもやっていける程度には整備していたようです。

  • 世界一核爆弾を持っている国だからでしょうか、通信サービスにおいても安全保障が念頭にあったように見えます。同じことは中国にも言えます。

  • 少し前にトランプさんが5Gで中国の締め出しを行いましたが、日本でも重要インフラは市場原理だけに任せていてはダメだった、と後悔する日が来ないことを望みます。

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