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『デート・ア・ライブ』概論②
1.はじめに
今回から具体的に本文について詳しく見ていく。
第二回目となる本稿では、第1巻となる『十香デッドエンド』について考察を加える。
本編から物語の核心に触れるようなネタバレを含む。
未読者は十分に注意されたい。
2.『十香デッドエンド』あらすじ
空間震と呼ばれる自然災害が発生する世界。
主人公 五河士道は空間震に巻き込まれるが、跡形もなく消え去った街並みの真ん中に佇む一人の少女を発見する。
それは精霊と呼ばれる少女であった。
空間震は精霊が現世に出現する際の空間の揺らぎのことだったのだ。
精霊は士道に攻撃を加えようとするが、士道の妹である琴里が司令官を務める精霊保護組織<ラタトスク>に助けられる。
<ラタトスク>は対話によって精霊を保護しようとする組織であったが、もう一方武力によって精霊を殲滅しようとする自衛隊傘下の<AST>と呼ばれるチームがある。
その<AST>には士道の通う来禅高校のクラスメイト鳶一折紙の姿があった。
<ラタトスク>に拾われた士道は司令官の琴里に対話によって精霊を懐柔するよう指令される。
その方法は「デートしてデレさせる」というものであった。
士道は精霊の憂えるような表情が気にかかり、殲滅よりも対話による救済の道を選んだため、その提案を受け入れた。
▼白琴里(かわいい妹バージョン)
▼黒琴里(司令官モード)
士道が対話を重ねるうちに、精霊は士道に心を開いていく。
その少女は士道に自分に名前をつけてほしいと言う。
その日が4月10日であったため、士道はその精霊を「十香(とおか)」と名付けた。
<ラタトスク>の解析官である村雨令音によって精霊は一人ではなく複数いるということが告げられると、士道はその後もデートを通じて精霊たちを救うことを決断する。
3.「精霊」とは
広辞苑によると「精霊」とは、以下のようなものである。
①万物の根源をなすという不思議な気。精気。
②草木・動物・人・無生物などの個々に宿っているとされる超自然的な存在。
①の意味で「エレメント」、②の意味で「スピリット」ということばがあてがわれることも多い。
エレメントとは中世に錬金術師として有名であったパラケルススによる分類で主に四大元素の「火・水・風・地」のことを指す。
『デート・ア・ライブ』における「精霊」の概念を①と②の意味で峻別することは難しいが、どちらかと言えば①のエレメントの概念を拡張した存在に思える。
精霊はそれぞれに使用する技があるが、例えば1巻に登場する十香では大地を削り取るような技を使うようである。
この意味で精霊は元素であり、霊魂である。
4.天使と霊装/識別名
『デート・ア・ライブ』の根底にあるのが、旧約聖書の「生命の樹/セフィロトの樹」であるということを知っている人は意外に少ない。
▼生命の樹(旧約聖書)
こちらの図は東出裕一郎によるスピンオフ作品『デート・ア・バレット』を既読のものなら自明であろう。
「生命の樹/セフィロトの樹」とは旧約聖書『創世記』にてエデンの園中央に植えられた樹のことで、その実を食べると「神に等しき永遠の命を得る」とされていたものである。
アダムとイブがその果実を食べてしまいエデンの園を追放されたという失楽園の話は有名であろう。
「ケテル」や「マルクト」というのは球体の「セフィラ」と呼ばれるもので、ケテルは「1」、マルクトは「10」のようにそれぞれに番号が割り振られている。
察しの良い人なら気づくと思うが、「十香」は「10」番目のセフィラを象徴する。
10番目のセフィラである「マルクト」は物質的世界を表し、玉座に座った若い女性で示される。
神名は<アドナイ・メレク>、守護天使は<サンダルフォン>である。
精霊はそれぞれに防御の霊装と攻撃の天使を司っているが、「十香」の霊装は<神威霊装・十番(アドナイ・メレク)>、天使は巨大な玉座と大剣の<鏖殺公(サンダルフォン)>と設定されている。
必殺技は大地を壊滅させ、一太刀で山を削り取る<最後の剣(ハルヴァン・ヘレヴ)>とされており、これは前項の土のエレメントにも関係する。
また、<AST>による識別コードは<プリンセス>である。
5.まとめ
第1巻では精霊「夜刀神 十香」が登場する。
セフィロトの樹と10個のセフィラを繋ぐパスの概念は今後も『デート・ア・ライブ』を読む上で重要な点となる。
→第2巻へ続く