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『デート・ア・ライブ』概論⑦
1.はじめに
本稿は『デート・ア・ライブ』概論の第7回目となる。
今回は第6巻の『美九リリィ』について見ていく。
今回もネタバレを含む内容になるため、未読者は十分に注意されたい。
2.『美九リリィ』あらすじ
主人公 五河士道の通う来禅高校のある天宮市にて、高校10校が合同で行う大規模な文化祭、天央祭が開催されることとなった。
実行委員として働く士道は、無人のステージに立ち、アカペラで歌う精霊 誘宵美九と遭遇する。
早速霊力を封印しようと接触を試みる士道だったが、話しかけただけで強烈に拒絶されてしまう。
美九は極度の男性嫌いであったのだ。
この問題を解決しようと琴里は士道に女装をさせて女性のフリをすることを提案する。
しぶしぶこの提案に従った士道は、自身をいとこの五河士織だと偽って再び美九の前に姿を見せる。
存外に美九の反応は良く、士織が指をケガした際に美九に貸してもらったハンカチを返しに行くという名目で士道は美九の家に呼ばれる。
美九の家で、彼女は願ったことをなんでもさせることができるという一種の洗脳のような霊力を帯びた「声」で士織にお願いをするが、何人もの精霊の霊力を持っている士道にはその「声」が効かなかった。
それによって、士道の正体を勘ぐられ、やむなく本当の目的を話すことになる。
士道の真の目的が霊力の封印であることを知った美九はそれを拒み、天央祭の審査で勝てたら霊力の封印を受け入れるという勝負を持ちかける。
<ラタトスク>は半ば反則のような形で、美九のステージ中に音源を止め、勝利を得ようとするが、美九はそこで霊装と天使を顕現させ、しらけた空気を見事覆してみせた。
士道(士織)の演じたステージも盛況を見せたものの、ステージ部門では美九に負けてしまう。
しかし、模擬店部門では来禅高校がリードし、総合優勝は士道の所属する来禅高校となった。
「声」によってムリヤリ人を従わせるのではなく、改めてチームワークの大切さを説く士道だったが、美九は納得がいかず、霊装を顕現させる暴挙に出る。
対象を従わせる「声」をマイクを通じて全方位に浴びせかけ、<ラタトスク>機関のメンバーさえも操られてしまう事態となる。
取り押さえられたことによって士織が実は女装していた士道だったという事実がバレてしまう。
さらに激高した美九は四糸乃や八舞姉妹などの精霊をも味方につけ、徹底的に士道を追い詰める。
その混乱に乗じてDEM社の最強のウィザード、エレンが耳栓のおかげで唯一正気を保っていた十香をさらっていく。
絶体絶命の状況に追い込まれた士道に声をかけるものが一人。
それは、かつて最悪の精霊と言われた狂三の声であった。
3.第6巻における伏線
第6巻から上・下巻のように二部構造となった巻数が増えていく。
第6巻の内容はそのまま後編として第7巻へと引き継がれる。
p212 折紙がなぜ士道を「最後の心の拠り所」とまで慕っているのかについては第10巻を参照。
また、士道が女装した姿である士織は今後の物語においてもたびたび登場する。
また、あらすじでは触れなかったが、DEM社と<AST>の空中での抗争も後に関わってくる。
4.天使・霊装/識別名
セフィロトの樹において、「誘宵美九」は九番目のセフィラである「イェソド」を象徴する。
象徴する金属は銀であり、惑星は月があてがわれることが多い。
銀色の髪と瞳、月の髪飾りはこれらを反映したものと考えられる。
神名は<シャダル・エル・カイ>、守護天使は<ガブリエル>である。
また、美九の霊装は<神威霊装・九番(シャダル・エル・カイ)>、天使は<破軍歌姫(ガブリエル)>である。
<AST>による識別名は<ディーヴァ>である。
ディーヴァとは「歌姫」といった意味合いである。
5.精霊について
美九からは狭義な意味においての精霊からは離れて、その特質を表す精霊が登場する。
この意味でエレメンタルな精霊からスピリット(スピリチュアル)としての精霊に移行したとも言える。
「イェソド」のセフィラはアストラル界を象徴すると考えられている。
アストラル界とは、「アストラル体の存在する場所」のことであり、アストラル体とは、魔術師エリファス・レヴィの「アストラル・ライト」の考え方から来ている。
「アストラル・ライト」は、魔術や心霊現象を引き起こすための宇宙にあふれているサイキックなエネルギーのことで、元々は「星の世界の」や「星のような」を表すことばである。
アストラル界は俗に言う「あの世」のような概念で、「感情」「情緒」「幻惑」「欲望」といったイメージを持つ。
我々が住む「この世」が物質界であり、物質界は十番目のセフィラである「マルクト」に投影されることから、その一歩先にある「イェソド」がアストラル界を象徴するとされる。
「誘」や「宵」は「幻惑」、「宇宙」、「星」といった概念をイメージしてつけられた名字であると考えられる。
「声」によって人を意のままに操ることができるという能力もここから着想を得たとみることもできる。
6.まとめ
今回は第6巻である『美九リリィ』について見た。
先述の通り、第6巻は第7巻と上下巻のような構成となっており、第7巻では物語が大きく動く展開となる。
→第7巻へ続く