ストライキは突然に 〜後編〜
連日の残業と板挟みですっかり疲弊していた私。勤怠不良により解雇帰任が決定した頼れる兄貴的副総経理。それがきっかけで反抗期に突入してしまった現地スタッフたち。不穏な空気でみたされた社内。
罷業についてのお話の後半です。
一致団結ストライキ
ある朝、出社するも様子がおかしい。スタッフ全員PCを立ち上げることもなく、座ってただ時間をつぶしている。携帯をいじる者や本を読んでいる者、ただ爪をながめている者。朝礼を行う気配もなく、「ちょっといい?」と、日本人副総経理が手招きをしている。
「いやー、厄介なことになってね、罷業、ストライキ」
何が原因なんですか?
「給料日にね、払い忘れてたみたいなの」
あー、それは腹も立ちますよね…
謝罪して今から渡せばいいんじゃないですか?
「どうもそれだけじゃなくて、兄貴が関係しているらしい」
帰任の件ですか?
そう、兄貴を慕う25名のオペレーターたちが、一致団結して立ち上がったのだ。俺たちの兄貴を日本になんて行かせるものか、師弟関係がキラリと光る心温まるお話、感動スペクタクル、涙なしでは語れない。
兄貴を帰任させないために彼らがとった作戦は
「私を帰任させる」
であった。
感動もへったくれもない。
違う涙が出てしまいそうだ。
感動のお手紙という激怒アイテム
翌日、総経理(本社勤務役員)が日本からすっ飛んで来た。
そしてオペレーターたちは「兄貴を日本に返さないでください、○○(私)を帰国させてください」という内容のお手紙を、総経理に渡し直接交渉を行った。大まかなお手紙の内容はこうである。
・兄貴はとても良い人です
・私たちは兄貴が大好きです
・兄貴と私たちの信頼関係は強いです
・○○はダメです
・昼ご飯の内容まで口出ししてきます
・帰国すべきは○○です
・○○を帰国させて兄貴を残してください
「あなた昼に何食べるかまで指図してるの?」
するわけないじゃないですか
昼休みの時間内に戻って来ないので
近場で食べたらどう?って言っただけです
など、お手紙の内容や普段の様子、私の反省すべき点や今後について、今度は私と総経理で面談を行う。結果から言うと、あのお手紙で総経理が静かに激怒した。いつもムスッとしているので、激怒しても見た目が変わらない。そういう抱き枕かと思うほど表情が変わらないのだ。
まず、勤怠不良は揺るぎない事実、兄貴には日本で再教育を行う。また、兄貴はただの総務部の人、技術指導なんて無理、現段階で技術指導者無しでの運営は考えられない。ただ、○○にも反省すべき点はある、この点については改善させる。
何より怒らせたのが
運営や要望について意見を出すことは良いことだが、ストライキという方法をとり、直属の上長もしくはその上長を飛び越え、トップに直接交渉するということはそれなりの覚悟があってのことなのか。トップがNOと判断した場合、お咎めなしでは済まされない。OKか解雇のどちらかだ。
めちゃくちゃ怒ってる。
抱き枕から湯気が出ている。
辞めてもらってからがスタート
「どうする?」
んー、嫌なら辞めてもらっていいですよ。
「業務どうしよ」
三ヶ月もらえればまた構築しますよ。
紙面作成は私も参加しますし、
作るのけっこう上手なんですよ。
こうして25名のスタッフには辞めてもらい、上海人スタッフ2名のみが残った。とはいえ3名のみで回すのは不可能なので、あの部長に相談する。
部長、大変です。
「え?」
みんな辞めちゃいました。
「はー?」
そこでちょっと相談なのですが
しばらくの間は業務量調整してもらえないでしょうか。
段階的に元の業務量に戻します。
ダメだったら、その時考えます。
それでなんとかします。
「わかったー」
ここからの復活がトントン拍子で、求人したらごっそり人が集り、上海を中心に様々な出身地のスタッフをすぐ20人ほど採用。妙な団結感も無く、数ヶ月で作業量は元どおりに、ついでに品質も向上した。
結果論だが、総入れ替えを行って本当によかった。妙な団結力は生産性が低下する、3+3+3=3である。スクラップ・アンド・ビルドとトライ・アンド・エラー、中国ではアンドが超有効。品質がついでに向上するぐらい有効なのだ。
その後判明したのだが、ストライキもお手紙も兄貴の指図であった。
……後日
部長、新しいメンバーに会いに来ませんか?
「やだー、中国ビールぬるいしやだー」
絶対に動かない部長。
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