『理想のお客さん』と言われた話*香りを巡る物語
1年前のこと。
久しぶりに新しいメイク道具を買ったら、香水が欲しくなった。
コロナの時はマスク生活だったのと、大学院生の時には実習が多かったのでほとんど香水をつけない生活だった。
この時,新しい香水を買うのは3年ぶりだった。
私には大学生の頃からたまに行く香水のお店がある。
量り売りもしてくれて,いつも変わらず(年齢不詳の)おじさんが1人でやってる。そんな香水のお店。
”人”を見て,香りを選んでくれる。そして,そのおじさんの選んでくれる感覚に信頼があった。
その時も,やっぱりそのお店がいいなぁと思ってふらりと立ち寄った。
お店で,おじさんに”以前使っていたのはこれとこれで””この辺りの香りが好きで””今回はそれよりも少し年齢に合った少し深みのある香りの香水がほしい”のだということを伝えた。
2つ勧めてくれた。
どちらもこれまで使っていたものに比べるとゴージャスな香りだったので,少し戸惑った。
でも,そのうちのひとつを選んで,購入した。
お会計の時,おじさんはめちゃくちゃニコニコしながら「こういうお客さんが来ないかなーって夢に見てた。理想のお客さん。」と言う。
聞けば,最近の若いお客さんはおじさんからすれば香水の買い方が”ライト”なのだと言う。アドバイスの求め方が違うらしい。
「また来てね」
と言われた。
おじさんの言葉がとても嬉しくて,
でも家に帰って香水をつけると,やっぱり私には少し背伸びした香りでゴージャスすぎるように感じて,ちょっとだけ失敗したかな,とも思った。
この香りがいいです,って,もっとライトなものを選べばよかったかもしれない,とチラリと思った。
1年経った今。
その香りを毎日つけている。
本当に不思議なことなのだけど,1年前私には不似合いに感じられた香りが,今はとてもとてもしっくりくるのだ。
ああ,そうだったんだな,って思う。
やっぱりあのおじさんは,毎日,人を見て香りを売っている人なんだ。
実はその後,そのお店は移転してしまった。
街角にあんな香水屋さんがひっそりとあったことを,今更ながらとても素敵なことだと思う。
おじさんが私を「理想のお客さん」って言ってくれたように,私にとってはおじさんが「理想の香り屋さん」だったんだ。
「また来てね」って言ってくれた。
新しい私を見つけてもらうために,またあのお店を探そうと思う。
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