創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」23話 恋人たちはノマド .ac(アセンション島4)
22話のあらすじ
誕生した新たな女神、アセンションちゃん。彼女に連れられて、島のあちこちの名物(主に道路標識)をジョニーと絵美は見に行った。幻の桜がどこかに生えているというので、探してみたが、残念ながらタイムアウト。ふたりの記念となったこの島に、プライベートでもまた来たい、と思うのだった。
23話
場所: 地球、アセンション島(ドメイン .ac)
記録者: 絵美(エミ) マイジェンダー: やや女性 19才
出身地: 日本 趣味: ネコとたわむれること
うう……。幻の桜がアセンション島にあるというお話を、じかに確認したかったのだけど。まあ、あるかもしれないという幻想的な感覚のままにしておくというのもいいのかもしれない。完全に負け惜しみだけど。
あたしたちは停泊中のメタルクラッド(全金属)飛行船の客室に帰って、一泊した後、21世紀のころには軍隊として活動していた、現在は国境付近の荒事や犯罪の対応、山火事や水害などの自然災害の対応や援助、その際の野生生物の保護も行う世界的な組織「ケアパワーズ」のメンバーとその家族に朝から火星での生活や仕事について紹介していた。
「……そうなんです。火星の自然創生コロニーは、高級レストランの名物がゆで卵で」
ジョニーがそう言って肩をすくめると、どっと、笑いが起きた。
もちろん、23世紀の今は森林型農業が発展し、少なくなった牧場のなかで育てられる生き物にはアニマルウェルフェアという、食べるための家畜だとしても、十分に快適なところで暮らし、病気になったら人と同じようにワクチンも接種すべきだという考え方が地球のすみずみにまで浸透しているから……。そのぶん200年前よりは牛さん、豚さん、鶏さんのお肉はかなりお高いものだし、生産量も限られている。
卵もそうで、金属ゲージにところ狭しと押し込められて鳥インフルエンザが発生するたびに親鳥がたくさん殺処分されていたころとは違って、平飼いという、大地をのびのびと使った自然に近い暮らしのなかで産まれることがほとんどだ。
だから、卵自体が高級食材であることには違いないんだけど、火星の暮らしはそれに輪をかけて、卵が入手しにくい生活しか、まだ出来ない状態だから。みんなは笑ってくれるけど、ほんとに大変だったよね、ジョニー!
ジョニーがケアパワーズのメンバーとその家族に、そうしたジョークも交えて火星の生活や仕事を説明したあと、テーマはいよいよ「.ac」にむすびついて新しく生まれた土地神さまのことにさしかかった。
「みなさん、コミュニ・クリスタルの準備はいいですか?」
ジョニーが聞くと、はい、OKです、とみんなから返事が帰ってきた。手にはそれぞれ、配られた万能通信アイテム、コミュニ・クリスタルがある。
「僕ら西洋の意識としては、神さまと言えば、三次元世界のここにイエス・キリストを通して現れたあとは、永遠の高次元世界でもってあらゆるものやことに通じ、見守り、ときには奇跡を起こすただおひとりの神さまという感覚が強いんだけど……。僕らの認識で言うなら、天使に当たる存在になるのかな。日本での土地神さま、というのは。昔の感覚で言えば、守護聖人にも近いものかもしれない」
ふむふむ、とみんなが静かに聞いている。子どもたちがワクワクした瞳をして、
「じゃあ! ぼくたち、今から天使さまに会えるんですか!?」
「会いたい、会いたーい!」
と身を乗り出した。
ジョニーは子どもたちに笑ってうなずき、
「うん。ではさっそく紹介するよ、アセンション島の新しい守り手、土地神さま。アセンションちゃん!」
パアッと辺りがとても明るくなり、ふわりと空中に幼女の姿をしたアセンションさ……ちゃんが現れた。
『こんにちは、アセンションちゃんだよ!』
わっ、と驚きや好奇の声がみんなからあがった。
「わぁい、髪が緑色だね」と子どものひとりがはしゃぐ。
『うん。緑色なのは、このアセンション島で、ずいぶん昔から人間さんたちがずっと大切に育ててくれた木や草がかたちになったからなんだよ!』とアセンションちゃん。
「そうなんだ。肌の色も、グリーンマウンテンの溶岩の色とそっくり」
『うん、アセンションちゃんは火山のところの神さまだから。ハワイのペレお姉さまや、日本の富士山の、コノハナサクヤヒメさまと近いんだよ!」
ええ……それって、怒ったらむちゃくちゃ恐いってことだよね、アセンションちゃん??
「天使さま……土地神さま! 噴火しないでくださいっ」
子どもながらにその恐ろしさが頭に浮かんだのか、ひとりの子が願った。
『うん、できるだけ怒らずに、地震が起きてもアセンション島のみんなを守れたらいいなっ』
アセンションちゃん……やっぱり、ちょっぴり恐い神さまだったよ!
『これから、アセンションちゃんがこの土地をずーっと守るから。みんな、ずーっと、ずーっと、よろしくね』
アセンション島が噴火したのは数百年以上、昔の話。以来、何度か大きな地震はあったみたい。神さまの時間間隔で「ずーっと」っていうのは、かなり幅がありそうだけど。でもそのくらい末永く、このアセンション島とひとの暮らしとが守られていくのは、あたしも願うところ。
子どもたちだけじゃなく、ケアパワーズの面々も、目の前にコミュニ・クリスタルを通して土地神さまが現れたことに感極まった様子だった。ガーディアン・フィーリングという、守護的な存在を可視化し、交信できる技術を作ってくれた先人に感謝だね!
……これで、アセンション島でのあたしたちふたりの任務は完了した。
予定通りに、メタルクラッド飛行船に乗って次のトップレベルドメイン「.ad」の地である、スペインとフランスのあいだのピレネー山脈に位置するアンドラへ向けて出発だ。
「元気でね、また来てねっ!」
ケアパワーズのメンバーと、その子どもたちが見送りに来てくれた。そのうしろに、ふわふわとアセンションちゃん、そして西アフリカの海の神、アグエさまが浮いている。
『達者でのう』
『今度は、桜を見つけてね、ジョニー兄ちゃん、絵美姉ちゃん!』
アセンションちゃんが手を振った。
うん……ちょっと寂しい気もするけれど。コミュニ・クリスタルがあれば、場所は気にせずに神さまがたとの交流は出来るから……。
「うん、またね、アセンションちゃん!」
「きっとまた」
そう言って、あたしとジョニーも、元気よく手を振り返した。
(続く)
次回予告
24話は、ピレネー山脈にある小さな国アンドラへ! 「.ad」とつながる新しい土地の守護者は、どんな存在なのか?? 3月中旬ごろの投稿を予定しています。どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからなのさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。