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~神話・民話の世界からコンニチハ~ 24 エヌマ・エリシュより、古き神々と新しき神々の戦い

第二十四回は、前回に引き続き「エヌマ・エリシュ」から、夫アプスーさまを殺され、新世代の神々と対決せざるを得なくなったティアマトさまと、彼女に引導を渡すこととなったバビロニアの守護神、マルドゥクさまとの決戦のお話&インタビューです。

今回のお話

淡水の男神アプスーさまを倒した新世代の神、エアさまは、アプスーさまの体の上に自らの神殿をお造りになりました。そののち、エアさまと妃ダムキナさまとのあいだに息子のマルドゥクさまがお生まれになりました。

マルドゥクさまは、エアさまよりも優れた神さまであったため、天空神アヌさまはこれをお喜びになりました。アヌさまから贈られた四つの風を使ってマルドゥクさまが遊ぶために、塩水であるティアマトさまの体はそのたびにかき乱され、ティアマトさまの体の中に棲む神々は眠れなくなりました。

あまりの騒がしさに、眠れなくなった神々から批判をする者たちや訴えを起こす者たちが増え、夫であったアプスーさまの弔いのために新しき神々と戦うよう進言するために、ティアマトさまはとうとう、復讐のために新しき神々と戦うことを決めました。

ティアマトさまは自らの息子キングーさまを第二の夫とし、天命の書板という、すべての神の役割を記した、神の王たる証を授けて神々の最高位に位置付けました。また、ムシュマッヘ(七岐の大蛇)、ウシュムガル(龍)、ムシュフシュ(蠍尾竜)、ウガルルム(巨大な獅子)など、11の合成獣の怪物を生みだして自らの軍勢に加えました。

着々と闘いの準備をティアマトさまとその配下の神々が整えていることを知った新しき神のエアさまは、アンシャルさまに相談をしました。アンシャルさまは、エアさまと天空神アヌさまをティアマトさまの説得に向かわせようとしましたが、おふたりともティアマトさまの軍団の恐ろしさに怖気づき、帰って来てしまいました。

混乱する新しき神々のなかで、ついにマルドゥクさまが自らを最高神にすることを条件に、ティアマトさまと戦うことを申し出ました。アンシャルさまが開いた宴席で、新しき神々はそれを認めました。ティアマトさまを倒す天命を与えられたマルドゥクさまは、星々を滅ぼしたのちに復活させてその力を神々に示し、その威容を喜んだ神々から数々の武器を与えられ、ついに出陣しました。

進軍してくるマルドゥクさまの軍勢の姿に、キングーさまを始めとしたティアマトさまの軍勢は萎縮し、戦いを放棄してしまいました。こうして、マルドゥクさまとティアマトさまとの一騎打ちとなりました。

凶暴な混沌の竜となったティアマトさまは、その大きな口でマルドゥクさまをひと飲みにしようと襲い掛かりましたが、その口を開けたときに、マルドゥクさまが放った暴風によって口が閉じられなくなりました。その隙に弓矢で心臓を射貫かれ、ティアマトさまはその命を落としました。

ティアマトさまを破ったマルドゥクさまは、キングーさまから天命の書板を奪い、まずは自らが神々の最高の地位に就きました。そしてティアマトさまの体を使って「天地創造」の材料として使うべく、その亡骸を解体しました。ティアマトさまは二つに引き裂かれてそれぞれが天と地に、乳房は山になり、そのそばに泉が作られ、その眼からはチグリス川とユーフラテス川の二大河川が生じました。

その後、マルドゥクさまは天命の書板を天空神アヌさまに進呈し、神々の座所や暦、昼夜や星座の配置等の世界の法則を生み出し、残ったティアマトさまの体で世界の細部を整えて世界創造を進めました。勝利した、マルドゥクさまについた神々は喜び、称賛し、その命令に従うことを誓いました。

マルドゥクさまはさらに、キングーさまを殺し、その血を神々に仕えさせるための「人間創造」に使いました。これまで、生活を支えるための働きに従事していた下層の神々は労役から解放されたので、これを喜びました。

マルドゥクさまは最後に、すべての神々の座所となる都市バビロンの建設に取り掛かり、二年でそれを完成させました。


……主に地球の南半球の、アフリカや、メソアメリカ地域や、オーストラリアのアボリジニたちに伝わる「世界は蛇、ワニ、または竜である」という伝説。そして、英雄がそれを退治して平定する、というこれもまた、世界各地に見られる神話、その共通項。さまざまな、世界の神話との共通性が見られることは、とても興味深く感じます。それでは、インタビューと参りましょう!

すー: ギルガメシュさま、エンキドゥさま、よろしくお願いいたします。

ギルガメシュ: 何つーか、バビロニアの威容を讃えるために、マルドゥク以外の神々を軽く扱っている感じもあるよな。

すー: はい。ちょびっと、マルドゥクさまとバビロニアばんざーい、な感じが鼻につくとこ、あります(笑)優しいティアマトさまが、周りに言われて復讐をしようと決断するくだりは切ないです。バビロンは、後に、聖書のなかの「ヨハネの黙示録」に背徳の大淫婦バビロンとして寓意のかたちで記されるようにもなるんですが……。自分のとこをブイブイ言う神話を「エヌマ・エリシュ」として作っちゃったら、後世に聖書で貶められるようになったという、因果応報を感じます。

エンキドゥ: 娼婦は、わるいものなのか? オレは、野人から、娼婦シャムハトのおかげで、人間らしくなれたのに。

すー: うーん……結婚していたり、お互いに決めた相手がいてカップルとして成立しているひとたちが、娼婦に関わって遊びが本気になっちゃったりすると人間関係がややこしくなったり壊れたりするのは問題ですよね。それと、遊びで娼婦に子どもが生まれた場合、その子に対して愛情を持てるのか、その子も責任を持って育てられるのかどうかというところも……。だからこそ、そこは戒めるべき、という「ヨハネの黙示録」のスタンスも分かるような気がします。

ギルガメシュ: 何つーか、それはそれで狭い了見のような気もするけどな。人生を楽しむには、ロマンスが欠かせないだろ。

すー: そうおっしゃるギルガメシュさまの女性事情は、激情の女神イシュタルさまとのこと以外は、ほとんど何にも伝わってないですけどね(笑) 「人はいつか死ぬのだから、生きることを楽しみなさい」と大切なことを伝えてくれた酒場の女主人シドゥリさんも、ロマンスというより人生訓。ギルガメシュさまの叙事詩は、全体的に渋いですよね。メソポタミア神話のなかで、同じ英雄神としてのストーリーなのに、どちらかというとマルドゥクさまよりもギルガメシュさまの物語が広く伝播して人気になるのは、そこも影響しているような。おふたりとも、本当にありがとうございました。

第二十四回「~神話・民話の世界からコンニチハ~ 24 エヌマ・エリシュより、古き神々と新しき神々の戦い」は以上です。

少しでも楽しんで頂けたなら、それに勝る喜びはありません。

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。

次回予告

第二十五回は、中国に残る創世神話、天地開闢(てんちかいびゃく)の物語から。お話のご紹介&インタビューを予定しています。お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、noteに実装されたCanvaというサービスで、私が素材をお借りしたものです。

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