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夏休みの宿題「見るな!」
ふたりの小学生、光と月也は公園の木陰のベンチで話していた。夏休みも終わりかけ、朝夕にはほのかに涼しさを帯びた風が吹く。朝の公園に来た光と月也はとりとめもない話題で盛り上がっていく。だが、途中で光のテンションが急に落ちた。
「参ったよな~、読書感想文よりも難しいぜ」
光が頭をかく。夏の課題をまだひとつ、こなしきれていないのだ。
「光……まずは『見るな!』っていう物語を、神話や伝説から調べたらいいんだよね? ぼく、浦島太郎とか鶴の恩返しみたいな、日本のお話のことで書こうかと思ってた」
「神話かあ。そういや、日本の神話ならオレも読んだことがあるな。鶴の恩返しの別バージョンって知ってるか?」
「ううん。どういうお話なの?」
「ストーリーは、ほとんど鶴の恩返しといっしょだよ。山幸彦っていう男の神さまに惚れた、豊玉姫っていう女の神さまが嫁さんになった。お産をする段階になって、豊玉姫がお産をしているあいだは決して『見るな!』って言ってたのに山幸彦が見ちまって」
「それで?」
「本当の姿を見られてしまった豊玉姫は、産まれたばかりの子どもを置いて海に帰ることになったんだってよ。……ただな、鶴と違って」
「うん」
「本当の姿が『ワニ』になった、って言われてるんだ。動物園にいる爬虫類のワニじゃなくて、昔の日本語で『サメ』のほうな」
「ええ……お産をしたのって、陸地だよね。サメがどうやって海に帰るんだろう」
「だよなあ。そりゃもう、ピチピチと一所懸命に陸地を這っていったんじゃねえか?」
「あはは、それ、神話の神さまには悪いけど、想像するとギャグでしかないよ~」
「わはは! な、そうだよな」
「まだ、動物園のワニのほうがリアリティがありそうだけど、それはそれで鶴よりちょっと恐いね」
「マジでな。昔のひとも、なんで見ちゃいけなかった本当の姿をサメとか、ワニっていう言葉にしたんだろうなあ」
「あ、光。それを課題で書けばいいんじゃない?」
「お、そうだな! うん、課題がなんとかなりそうな気がしてきたぜ」
光は宿題の目途がなんとかなりそうなことにほっと息をつき、笑顔を見せた。
「ありがとな、月也」
「お役に立てたなら、何より」
ふたりの話は、ふたたび次のことへと移っていった。
おしまい
オマケ
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※ みんなのフォトギャラリーより、なめ潟もくじよりさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。