ヘスティアとゼウス【オマージュ掌編】
この作品は、note神話部の1月お題企画「炉」への参加作品です。また、今日先ほどフィナーレを迎えました「note神話部2周年企画【お題リレー】」にて、アンカー成瀬川るるせさんの結びの作品「年越し時空かいろす!」へのオマージュを込めた後夜祭だよ! な作品となります~。
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「ヘスティアとゼウス」【オマージュ掌編】
「ヘスティア、いるか?」
「まあ、ゼウス」
ヘスティアは、急な弟の来訪に目を丸くした。彼女は、ゼウスたち兄弟姉妹の長女で、生涯処女を通すと誓った独り身の女神である。
「浮気のことでヘラには睨まれ、神々をまとめる仕事はうんざりするほど忙しい。一年の終わりと始まりのこのときくらい、のんびりしに来た」
ひょい、とゼウスは彼女の家へと入っていく。炉と家庭を守る女神ヘスティアの家は、ほどほどの清潔さでもって整頓されていた。
「お、これはなんだ」
ゼウスは、部屋に置いてあるひとつの道具に目をとめた。
「日の本の炉で、コタツというものですよ。腰をおろして足をふとんのなかに入れるんです」
「なにやら温かそうだな」
ゼウスはそそっと冷えた足を差し入れた。
「おお~、ぬくい」
彼の顔はほころんだ。
「おやつでも食べていきなさいな」
ヘスティアがそっと、木のかごに入ったみかんを差し出す。
「オレンジか?」
「みかん、というそうです。日の本の年始には、おもちというものの上にこのみかんを乗せて、我々神々のおそなえものにするそうですよ」
「かわいい食べ物だな! オリュンポスにも飾ったらいいな」
「それは……土地ごとのひとびとの贈りものがありますから、ギリシアの地のそちらを大切にしないでどうするのですか、ゼウス」
「ならば、我々の主食であるパンに乗せるか」
ゼウスがパチンと手をたたくと、すこしふくらみを持ったピザのような形のパンが現れた。
「では、それを二段に乗せて」
「こうか?」
ゼウスの手で、ふしぎな年始のアイテムが誕生した。
「このみかんの汁を、パンにふりかけて食べたらおいしいだろうな」
「そうね……おなかをすかせた孤児の子どもたちに、このお供えはあとで分けます」
「ヘスティアは孤児の守り手でもあるからな。今も人間に化けて行くのだろう?」
「ええ、サンタクロースみたいに」
ふふ、と女神が微笑む。
「もしも」
「えっ?」
「姉さんが一生独身でいるって決めなかったら、俺は姉さんを選べば良かったのかな」
「ゼウス。あたりかまわず口説くのはやめなさい」
「……本気だよ」
「ヘラを大切に」
女神はすこし寂しげに聞かぬふりをした。
「お、年が明けるな」
その時がやって来た。Happy New Yearだ。
「明けましておめでとう、姉さん」
「おめでとう、ゼウス。息抜きをしたいときには、またいつでも来なさいな」
「……うん」
神々の王たる男神も、姉の前では素直な子どものようだった。
(了)
記事紹介、タイトル・スペース(了)の文字も抜きで、作品本文のみ1000字きっかりとなりました^^;)
るるせさん、オマージュを快諾くださり、ありがとうございました~!
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより500mlさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。