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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 十八話「授かった力の訓練をする」
登場人物紹介
織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春(おだのぶはる)」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門(すけざえもん): 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久(いまいそうきゅう)の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。
十七話のあらすじ
住吉三神の代表として現れた底筒男命(そこつつおのみこと)さまと、神功皇后(じんぐうこうごう)さまの二柱の方々。信長公は彼らから魔を祓う力を授かり、世界の行く先々で悪しき魑魅魍魎を退治するように言われ、それを承諾することになりました。公はひと振りの神の気をまとう刀、弥助はひと振りの神の気をまとう矛。ジョアンと助左衛門は神術という技を、ゴブ太郎は魔を祓う鉄砲を授かることとなり、その扱いの方法を住吉大社に滞在し、学ぶことになりました。
十八話
天正十年、西暦では1582年の夏の終わりを迎えようとしていた。秀吉が光秀を討った山崎の戦い、そして信長亡きあとの領地分配や血族の行く末を決める清洲会議が終わり、堺の街とその周囲にはつかの間の平穏が訪れている。
住吉大社の神々に、魔を祓う刀と矛と鉄砲、そして神術という魔法を授かった信長一行はその扱い方を大社のあとの焼け野原で学んでいた。
『ほほほ。これはどうじゃ?』
気長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)が、手のひらのうえに小さな淡い光の玉を作る。光の玉はふわりふわりと飛んでいたが、信長に近づくと急にシュッと素早く周りを移動するようになった。
「むっ!」
信長が刀の行きどころを定め、一閃。見事に当たり、光の玉は四散した。
「ふう。ようやく刀を扱う勘(かん)を取り戻したわい」
「気長(おきなが)さん! オレにもそれをください」
『ほほほ。それでは参るぞ』
気長足姫尊は、今度は三つ同時に光の玉を宙に浮かべ、弥助に差し向ける。
「ウォリャアア!」
気合の入った矛が、上下左右と柔軟に玉を追う。次々と矛は光の玉を割り、はらりはらりと玉は空中に消えていった。
『ほほほ。筋がいいのう、異国の侍よ』
「戦いでも、魚を獲るのも、オレはこれを使っていた」
弥助は故郷のことを思い出したのか、遠い目をした。
「船出が近づくのう、弥助よ。おぬしの故郷へ向かってようやく旅立てるわい」
「ほんとうにありがとう、ノッブ」
「良い。この船旅の第二の人生、儂(わし)もこれから楽しみじゃ」
信長と弥助は笑い合った。
『では小鬼よ、魔除けの鉄砲を使うが良い』
鉄砲を持ったゴブ太郎からすこし離れたところに、気長足姫尊が光の玉を発生させる。
『分かったヨ! エイッ!』
ゴブ太郎が鉄砲の引き金をひく。銃口から小さく銀色に輝く光の玉が発射され、気長足姫尊の放った光の玉に当たり、ふたつとも霧散する。
『当たった、わーいわーい』
ゴブ太郎が無邪気に喜んだ。
『これで、悪しき魑魅魍魎と遭(あ)うても大丈夫であろう。小鬼に渡した鉄砲は、弾(たま)を気力で作るゆえにひとには効かぬが、信長公、そなたと弥助に渡した刀と矛は人間を相手にも使えるでな、護身用にもするが良い』
「……感謝致しまする、神功皇后さま」
信長は礼を言い、休憩に入った。
『こっちも準備は出来たで!』
底筒男命がジョアンと助左衛門を連れてやって来る。
「上様! 僕は風、水、火、土、そして光の技を学んで、主に『癒し』の、ケガや病気、毒を治せるようになる力を身に付けることにしました! まるでイエス・キリストみたいになれて、びっくりです。……今はまだ、疲労回復くらいしか覚えてないんですけども」
ジョアンが柔らかく微笑む。
「そうかそうか。頼もしいのう! ではさっそく、肩でも揉んでもらおうぞ、蘭丸。儂は今、宙をさまよう光の玉を切るという、珍妙な刀の扱いをしていささか疲れておる」
「はい、分かりました!」
ジョアンはそっと信長の肩を揉み始めた。少年の唇から、小さな声で安らかな聖歌が流れる。
「ふむ……不可思議だが落ち着く歌声じゃのう」
信長は心地よくそれを聞いていた。
『癒しの力は、歌をうたうと効果が上がるのですよ。ジョアンにはうってつけの力かもしれませんね』
天使ナナシも優しく笑った。
「俺は、とりあえずまずは火の術を覚えたんやで! どこでもチロチロ火を出せるようになったわ。これから木、土、金、水の技もどんどん使えるようになるさかい、頼りにしててや」
助左衛門が片方の手の人差し指の先に、パッと種火のような小さな炎を出す。
「おお、それも便利そうじゃな、助左よ」
「さいですわ、信春はん。どこでも暖がとれるし、暗いところの明かりにもなるし、料理も出来るで~」
『それもええけど、本来の目的は魔を祓う炎の力やでな! それを忘れてもろうてはあかんで』
底筒男命がツッコミを入れた。
「分かってますがな、底筒男命さま」
『それでええんや。おう、そろそろ船の準備も出来たみたいやで。世界中の悪しき魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもを、わしらの力でもってどんどんと成敗しに行ってきてや!』
「……アフリカまでの航路のなかで、儂に出来ることであれば致しましょうぞ。住吉の方々のご助力、本当にありがたきことにござる」
信長が深く礼を述べ、一行は二柱の神々の見送りを受けながら住吉大社をあとにした。
(続く)
次回予告
信長公たち一行は、ついにアフリカを目指し、西洋帆船キャラック「濃姫号」で堺の街を出港することになりました。その見送りに、さまざまなひとびとが駆けつけます。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより茶韋 / Tchaiさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。