創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」18話 絵美とジョニーと周りのひとびと
17話のあらすじ
火星の滞在先で、ついに絵美とジョニーはガールフレンド、ボーイフレンドの関係から一歩前に進み、恋人どうしとなった。そして、地球へ帰還したあとのことにふたりで思いを馳せるのだった。一方、絵美の紹介で姉、真菜はスペースデブリ拾いという仕事をすることになった。その後三年が経ち、自宅でのリモートワークにも慣れた真菜。ここからは、真菜の記録。
18話
日時: 2225年5月30日 ゴミゼロの日(地球、愛知)
記録者: 真菜(マナ) マイジェンダー: 女性 21才
出身地: 日本 趣味: ドリームゲーム
三年前。妹の絵美に紹介してもらって、地球のスペースデブリ拾いを仕事にするため、わたしは研修プログラムを一年受けた。その後、万能通信アイテム「コミュニ・クリスタル」による立体映像と、宇宙空間の実際の機械と、自宅に設置してもらったリモート用の機械をつなげて、わたしは家事の合間(あいま)に仕事をするようになっていた。
妹の絵美の家族として「コミュニ・クリスタル」を配布してもらっていたこと、妹が宇宙の仕事についていたこと、わたしが日常的に近所のゴミ拾いをしていたこと。すべてがつながって、わたしは今、ようやく一生出来そうな仕事を見つけた気がする。
『一生をかけてやれる仕事か……考えすぎず、案外身近なことにそのヒントがあるのかもな』
うちの氏神さま、スサノオノミコトさまの言ったとおり。ときどきVR(仮想現実)で遊んでくれるリトルグレイという友だちも出来たし、ようやくわたしは積年の孤独、孤立感というものから離れようとしているのかもしれない。
「ニャオ」
リモートの機械を使った宇宙空間のデブリ拾いをしていると、悪戯(いたずら)っぽい目をした飼いネコのクロがやって来た。
「こら、クロ。……仕事の邪魔だよ」
「ナー」
しょうがない、ひと息つこう。わたしは家のキッチンに行って、急須にお茶を入れ、自分の湯呑みを持って戻ってきた。湯呑(ゆの)みに注いでゆっくりお茶の苦味とまろみを味わったあとに、クロの、真っ黒で艶やかな毛並みの背中をなでてやる。
今日はゴミゼロの日。日本では、各地でゴミ拾いを積極的に行う日だ。
スペースデブリに、海洋ゴミに。わたしたちの先祖はほんとにとんでもない置き土産をしていったものだと腹が立つときもあるけど。人類というわたしたちの種族がやってしまったことなんだから、わたしたちが片づけなくちゃ、という気持ちで動いているのはわたしひとりだけじゃない。実際のゴミ拾いも、リモートでのゴミ拾いも、従事しているひとびとは23世紀の今、地球のあちこちにたくさんいる。
21世紀の半ばまでにゴミをまき散らし、大気や水や土壌を汚染しながら増加したあと、ゆるやかに減少していった人類の子孫であるわたしたちが、23世紀の今もなんとか生きていられる。それは地球のあちこちの小さな神さまがたが、今でもちゃんと見守ってくれて、宇宙や命を見守る大いなる神さまが、まだわたしたちを許してくださっているから。それなら、許された人類のひとりとして、わたしも、もうちょっと頑張ろうかって思うんだ。
そんなことを考えていると「コミュニ・クリスタル」にアクセスが来た。妹の絵美だ。
「やっほー、お姉ちゃん! ただいま」
「絵美?」
そう、今日は妹が火星から地球に帰り、うちに戻る予定の日だった。
「今、玄関にいるんだけど」
「分かった。すぐ開ける」
わたしは玄関に行き、ドアを開けた。
「にゃーん」
するりと、中に一匹の白ネコが入って来た。
「あ、こらタマ!」と絵美。
「タマ? 初めまして」
わたしは、足に体をこすりつけてきたタマに挨拶した。
「にゃあ」
真っ白な体毛のなかのくりくりとした瞳がわたしを見つめる。可愛い子だ、と思った。
「お帰り、絵美」
「うん。お姉ちゃんが家にいてくれたおかげで、心おきなく火星での仕事が出来ました」
さっ、と絵美がおどけて敬礼する。
「それほどでもないけどね。まあ、家に入ったら?」
「うん!」
わたしと絵美は久しぶりに家の応接間で腰を下ろした。
「急須に入れたお茶が部屋に置いてあるんだった。それでいい、絵美?」
「うー、もちOK! 家に帰ってくるとさ、緑茶とか畳とか縁側(えんがわ)の良さって分かるよねえ」
「はいはい」
わたしはキッチンで絵美のぶんの湯呑みを選び、その足で急須と自分の湯呑みを取りに、自分の部屋に戻った。
「ナー」
クロがわたしの足元にやって来て、匂(にお)いをかぐ。
「ああ、これは妹のネコのタマの匂い。クロも来る?」
「ニャオ」
わたしの髪のおさげを留めた「コミュニ・クリスタル」に肯定のフィーリング。応接間へ一緒に行くと、妹の横にいたタマは、やって来たクロとネコどうしの挨拶をした。良かった、ケンカにはならないみたい。
「彼氏とは、順調? 絵美」
「うん! 今日はお互い里帰りで、連れてこられなかったけど。火星自然創生コロニーのことを、地球のあちこちのひとたちに紹介していく仕事を、これから一緒にやっていくことになってね」
「そうなの? また、家から出て行くんだ。……まあ、でもわたしが家族の面倒を見るから。絵美はそのぶん、地球でも火星でも、思いっきり遠いところまで行ってみたらいいよ」
「ほんとに!? お姉ちゃん、ずいぶん変わったね」
「そう?」
「うん」
「……きっと、スサノオノミコトさまが最初のきっかけをくれたから」
うちの氏神さま、スサノオノミコトさま。絵美とのつながりで、神さまがたとお話が出来る「コミュニ・クリスタル」を配布してもらえた幸運を、わたしは本当に感謝をしている。それでスサノオノミコトさまとお話したことによって、わたしが変わるきっかけをもらえたのだと思っているから。
「ふたりで神社に行く? 絵美」
「いいね!」
そうして、わたしたちは子どものころからよく遊んだ神社に、本当に久しぶりにふたりで歩いて行った。境内に入るとお互いの「コミュニ・クリスタル」が反応した。
『お帰り、絵美』
そう言って、境内の空間に、スサノオノミコトさまが現れる。
「スサノオノミコトさま、ただいま!」
絵美がぺこりと頭をさげる。
「お姉ちゃんに、きっかけをくださってありがとうございました!」
『いやいや。決心したのは、真菜本人だからな。その決心が、今の真菜につながってるんだ。俺はほんのすこし、こっち側でお手伝いをしただけだよ』
「でも……!」
『おいおい、崇め奉られて、絶対視されるのは好きじゃねえんだ。可愛い氏子たちの力になら、いつでもなってやるからな』
……氏神のスサノオノミコトさまは、ほんとに優しい。言い伝えのように自分が悪かったころもあって、悲しみや苦しみを知っているからこそ、きっとそうなれるんだろうな。
わたしたちとスサノオノミコトさまのじかに顔を合わせた積もる話は続き、当分終わらなさそうだった。
(続く)
次回予告
19話は、故郷のロンドンに帰った絵美の恋人、ジョニーとその家族のやりとり。
どうぞ、お楽しみに~。
見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからチョロでキョロさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。