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ざくろはいくつ?【掌編小説】

コレーは、冥界の王、ハデスの傍らに座っていた。

これから、少女は王のもとを離れて母デメテルのもとに戻ることが決まったため、ハデスが最後の挨拶に来たのだ。

ハデスは紳士的で優しかった。さらわれたときはどれほど恐ろしいひとなのだろうと考えていたが、既に別れることがすこし寂しいくらいには、ハデスのことを好きになってもいる。

「これは私からの贈りものだよ、コレー」

世界で一番愛しいものを見つめるまなざしで、ハデスがざくろを少女に渡す。

「ありがとう……ハデスおじさま」

コレーは、素直にざくろを受け取り、赤いつぶのおいしそうな実をパクパクと口にする。おなかもすいていたのだ。

「いくつ食べたかは、君が好きに決めなさい」

ハデス王の謎めいた言葉を耳に残し、コレーは地上へと戻っていった。


地上へ帰ってきたコレーを、母のデメテルは強く抱きしめて迎えた。

「コレー。お前、冥界のものを口にしたりはしていないだろうね?」
「えっ」

母に問われて、コレーは怯える。

「……ざくろをすこし食べました、お母さま」
「なんだって!? これだからあんたはおっちょこちょいで……」

延々と母デメテルの苦言が始まる。神々の掟で、冥界の食べ物を口にした者は冥界で暮らさなければならない決まりがあるのだ。

また母の小言を毎日毎時聞く日常が戻ると思うと、コレーの心に物静かで優しいハデス王の姿が恋しく募(つの)った。

「で、いくつ食べたんだい」
「えっと……ふたつ。いえ、みっつ? よっつかも」
「ああもう! コレー、あんたって子は……」
「いつつ……むっつかも……」

だんだんと、コレーのざくろの数の自己申告は増えていった。

こうしてコレーは冥界の王ハデスのもとへ行くようになり、食べたと自己申告したざくろの実の数の月だけ、冥界でペルセフォネとなって彼の良い伴侶になりましたとさ。

おしまい

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりまゆきち☆さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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