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【2024夏祭り企画】みくまりの神さま(吉野山水分神社)
※ この作品は、矢口れんとさん主催の元・note神話部、名前が変更となりました現在は神話創作文芸部ストーリアさんの夏企画参加作品。
今年のお題は「神話✕児童文学」になります。
順番に進んでおりまして、私すーは四番手の作品になります。
それでは、本編をどうぞ。
「みくまりの神さま」
きょうはぼく、おとうさんとおかあさんといっしょに よしのというところへやってきた。ならけんのやまで、さくらがきれいなところ。でもなつだって、やまのもりのなかはすずしくて、そんなにむつかしいみちでもないし、かぞくであるくのにはちょうどいいんだって。
みどりのはっぱでいっぱいのさくらのしたをあるいて、やまをのぼっていくと、おりてくるひとと、よくすれちがう。
……みちのとちゅうのそのじんじゃのいりぐちでも、おりてきたひとがやすんでいて。おとうさんとおかあさんはずんずんさきへいってしまうけど、つかれていたぼくはちょっとだけやすむことにしたんだ。
やすんでいたひとたちがにっこりわらって、そのひとりがハイ、とキャンディをくれた。そのひとたちはみんなでキャンディをたべるので、ぼくも「キャンディありがとう」をいって、いっしょにもらったキャンディのつつみをあけて、まあるいキャンディをくちにいれる。あまくておいしい。
そうしたら、そのひとたちは……キャンディのつつみを、ぽい、て、じんじゃのいりぐちにおいたんだ。
ぼくはきゅうにキャンディがまずくなったきがした。がっこうで、ゴミをすてないで、ていうポスターをみんなでつくったばかりだった。けれど、がっこうのまえとか、こうえんとかに「ごみをすてるな」のかんばんがあったって、いつだってゴミがおちていることをぼくはしっている。
きっとぼくは、そのひとたちをきついめでみてたにちがいない。そのひとたちのひとりは、いったんだ。
「だいじょうぶ、だれかがきれいにしてくれるから。ほら、ぼくもすてたらいい、みんなやってるもの」
ぼくはくびをよこにふった。そのひとたちはかたをすくめて、そのまま、やまをおりていってしまった。
なみだがでた。
キャンディをくれたひとたちが、ごみをすてるひとたちだったことがかなしくてくやしい。こんなやまのなかにすてられたゴミは、だれかがきれいにしてくれるなんておもえない。ぼくにまで、すてよう、とさそったことにだって、はらがたつ。
たべたキャンディはおなかからくちにもどしてすてたいくらい、けれどそんなことやったらあのひとたちとおなじだ。
『……おい、小僧。泣いてるのか?』
かおをあげると、じんじゃのいりぐちに、おとこのひとがたっていた。ふしぎなことに、ふわふわとあしがじめんについてなくて、すこしそらにうかんでいる。
「おじさんは?」
ぼくはふしぎなおじさんをみてなみだがひっこんだ。ぐしぐし、となみだをこすってきいてみた。
『水分神だ。ここの神社の神さまだよ。みんなといっしょになって、ゴミを捨てないでくれてありがとうな。立派だぞ』
おじさんは、とてもやさしいえがおになった。
「みくまりのかみ、かみさま! かみさまってほんとにいたんだ!」
『ああ。小僧にお願いがある』
「かみさまが、ぼくにおねがいするの?」
『神さまだって、たまにはお願いもするさ』
「……そうだね。かみさまだって、おねがいごとをきいてばっかりじゃ、つかれちゃうもの」
ぼくはなっとくした。かみさまのおねがいごとってなんだろう? こどものぼくにもできることかなあ?
『そこにポテチの袋が落ちてるだろ』
「うん」
『ポテチの袋にそこらの入れられるだけのゴミを入れて、ここをきれいにしてくれないか? 礼はするから』
「いいよ!」
かみさまのおねがいにぼくはわらった。なあんだ。ぷんすかぷんすか、すてていったひとたちをいつまでもおこっているより、ぼくがゴミをひろっちゃえばいいんだね。
ぼくはポテチのふくろに、そこらにおちていたちいさなゴミをひろった。おとうさんやおかあさんにはきたない、ていわれちゃうかもしれないけれど。かみさまのおねがいだもの。
じんじゃのいりぐちはきれいになった。
『小僧、ありがとな。神さまは物に触れないから、人間がやってくれるしかないんだよ』
「……うん」
『それでは、お礼だ。秘密のおまじないを教えてやろう」
「おまじない!?」
ぼくはとてもワクワクした。みくまりのかみさまは、おごそかなこえでうたうようにことばをひびかせた。
アワナギ アワナミ
ツラナギ ツラナミ
アメノミクマリ
クニノミクマリ
アメノクヒザモチ
クニノクヒザモチ
タマチフリマセ
『……これは水分神である俺と、その兄弟姉妹の名前だよ。水の神さまに雨を降らせてほしいとき、唱えてくれ』
「あめをふらせてくれるおまじない! すごいね! テストのときにつかったらおやすみになるくらい、ふる?」
『そういうズルに使うのはダメだぞ』
ちえー。
ぼくがくちをとがらせていると、みくまりのかみさまはおかしそうにわらって、いつのまにかいなくなっていた。
さきにいってた、おとうさんとおかあさんがもどってきた。ぼくがひとりだったときの、ほんのちょっとのあいだのことで、ゆめみたいだ。
よしののやまから、おうちにかえって、よるになった。
ゆめだったのかなあ。
ぼくは、あのおまじないをいつのまにかうたっていた。
アワナギ アワナミ
ツラナギ ツラナミ
アメノミクマリ
クニノミクマリ
アメノクヒザモチ
クニノクヒザモチ
タマチフリマセ
さああ、さああ、ぴちゃ、ぱちゃ、ぽとん、ぽとん。
ほんとうにあめがふってきた! ぼく、まほうつかいになっちゃったかも!? ……けれど、みんなにはひみつにしておこう。ばずっておかしなひととかにみつかったらたいへんだもの。
ぼくとかみさまだけのひみつ、あってもいいよね。
ぼくのこころに、よしののあのやまの、みくまりのかみさまのわらったかおがうかんだきがした。
(了)
備考
ミクマリ、とは水を配るの意味で、日本書紀や古事記にアメノミクマリノカミ、クニノミクマリノカミという一対の水の神さま方として登場します。吉野をはじめ、奈良や大阪、広島にお社のある神さまがたで、ここから山の神や田の神ともなっていったかもしれない……と、つながりがあると考えられているようです。子どもの守護神としても信仰されています。
本来なら一対でアメノ、のほうとクニノ、のほうの神さま方を表現するべきなのかもしれないですが、省略 笑 男性を表す「ひこ」や女性を表す「ひめ」も神さまのお名前に含まれていないので……この作品のみくまりの神さまが、アメノ、クニノ、どちらのミクマリノカミさまなのかは作者にも分かりません。
おまじないのお名前は、水の循環を示しているとも言われる、イザナギノミコトさま、イザナミノミコトさまを祖父、祖母とし、ハヤアキツヒコノカミさま、ハヤアキツヒメカミさまを父、母とする水の神さま八柱です。タマチフリマセ、はこの地球に慈雨がずっと降りますように、の意味になります。
次のお話は8/9(金)夏祭り企画もオオトリ、矢口れんとさんです。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。