~神話・民話の世界からコンニチハ~ 19 ルガルバンダ叙事詩より、行軍中の病に倒れ
おはようございます。だんだんと肌寒く冬らしい朝になってきました。
第十九回は……第十四回から第十八回まで、五回に渡り英雄神ギルガメシュさまとその親友エンキドゥさまのお話を追いかけてきました。今回からは、ギルガメシュさまのお父さまである、ルガルバンダ王の叙事詩から、お話のご紹介&インタビューになります。
今回のお話
これは、ウルクの王にして、ギルガメシュさまのお父上、ルガルバンダさまのお話です。
ルガルバンダさまは、父エンメルカルさまが都市ウルクを治めていたころ、8人目の末子の王子さまとしてお生まれになりました。8人の中ではとても小さなお体でした。
エンメルカルさまは、あるとき山岳地帯にある遠方の都市アラッタの征服をすることを決め、7人の子らとともに先頭に立って軍を進めました。
ルガルバンダさまは末子であり、まだ幼かったために進軍には同行しましたが、おとなしく後をついていくだけでした。
進軍の行程も半ばになり、山岳地帯にさしかかったとき、ルガルバンダさまは急に病に倒れてしまいました。病気を治せる者は軍のなかにおらず、ここまで遠征をしてきたために、引き返すこともできません。
エンメルカルさまと子どもたちは、病に苦しむルガルバンダさまを山の洞くつに運び、寝床(ねどこ)を作って飲み物や食べ物を置き、休ませることにしました。しかし病は刻一刻(こくいっこく)と悪化し、とうとうルガルバンダさまの息は止まってしまいました。
進軍を止めるわけにはいかないので、ルガルバンダさまの兄たちは
「もし朝になって息を吹き返したら、ここに置いたものを食べてウルクに帰るかもしれない。もし亡くなって魂が次の世に運ばれたら、そのときはその遺体を抱いて共にウルクに帰ろう」
と言って、やむを得ず洞くつをあとにしました。
洞くつにひとり残されたルガルバンダさまは、2日、3日と病に苦しみ、ここでひとり死ぬかもしれないことに恐れ、洞くつの向こうに落ちてゆく太陽(ウトゥ/シャマシュさま)に祈りを捧げました。太陽はこの祈りを受けとめ、ルガルバンダさまの涙を日の光で照らしました。夜が来た時には、ウルクの守護神であり、明星、金星の神さまでもあるイナンナさまにも祈りを捧げ、月の神シンさまにも祈りを捧げました。
朝が来ると、神さまがたの加護を受けたルガルバンダさまは、病魔がすっかり消えていました。生き生きと気持ちの良い朝を迎えたルガルバンダさまは、神さまがたを讃(たた)え、草を食べ、水を飲むと力強い馬のように元気になりました。洞くつを出てあたりを駆けまわっても誰もいないので、ルガルバンダさまは初めてひとりで火を起こし、パンを焼いたりして、エンメルカルさまの率いる軍を探しながら歩き始めました。
……これまでのギルガメシュさまのお話にあった伝説っぽい成分が少なく、本当の歴史の一ページっぽい記述ですね。それではギルガメシュさま、エンキドゥさまをお招きしてのインタビューと参りましょう!
すー: ギルガメシュさま、エンキドゥさま、よろしくお願いいたします。
ギルガメシュ: インタビューの相手は、父上と俺のほうが相応(ふさわ)しいのじゃないか? この話にはエンキドゥがいないぞ???
すー: それは……キャラの知名度と人気的に……ごにょごにょ。
エンキドゥ: たしかに、ギルガメシュの、父上さまは、我が友に比べると、あまり知られていないかも、しれないな。
すー: 一応「ルガルバンダ王子の冒険」という大型絵本が、日本語版でも出てはいるんですが。ギルガメシュさまのネームバリューには叶わないとこ、ありますねぇ。
ギルガメシュ: 治世としては、父上のほうが若い時の俺なんかよりよっぽど聡明で良い政治を1200年していたはずだが。
すー: 1200年! 奈良や京の都が出来てから、現代に至っちゃいますね(笑) ギルガメシュさまの統治の時代は126年で、それでも人間としての限界を軽く超えてますが……。ルガルバンダさまの治世はその10倍ですか。ギルガメシュさまとエンキドゥさまの重い武器を持って1500kmを3日で歩いたというくだりも超人っぷりがすごいですけど、ルガルバンダさまもなかなか。
ギルガメシュ: 俺の物語の方が広く知られているとは……皆は暴君のほうが好きなのか?
すー: まあ、アレですよ、しずかちゃんが選ぶのは出来杉くんじゃなくてのび太くん、みたいなもので、聡明で良い治世をするルガルバンダさまが長く在位してもらうのは良いけれど、物語としては性格に難があって初めは暴君である未熟なギルガメシュさまが、ひととして成長するお話のほうが読者の心を打つ、ということなのかもしれませんね。
ギルガメシュ: どんな人間も、初めは荒ぶっているものなのかもな。
すー: 若いころ、大なり小なり、やんちゃをやっていない人間はほとんどいないと思いますよ! 初めから聡明なルガルバンダさまが病気を治し、知恵を使って活躍するこのルガルバンダ叙事詩の物語も面白いですけど、それ以上にギルガメシュさまの物語がひとびとに広がっているのは、暴君でやんちゃをしていた、という過去に共感するひとがたくさんいるからだと思います。私も昔はかなり……ゴホンゴホン。ギルガメシュさま、エンキドゥさま、どうもありがとうございました。次回も引き続きよろしくお願いいたします。
第十九回「~神話・民話の世界からコンニチハ~ 19 行軍中の病に倒れ」は以上です。
すこしでも楽しんで頂けたなら、それに勝る喜びはありません。
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
次回予告
第二十回は、先に行ったエンメルカルさまたちの軍に合流するための旅路で、不思議な存在に出会うルガルバンダさまのお話&インタビューを予定しています。お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーから杉山 コウジ(Bridge)さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。