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神もまたみな兄弟?【掌編】
「乾杯!」
神の世界の居酒屋で、集まった神々は。
「南米代表、ケツアルカトルです。こっちは兄のテスカポリトカ」
「我がテスカポリトカである! 今宵は飲むぞ!」
丸太を割ってテーブルにした席で、男兄弟ふたりが挨拶する。
「僕はギリシアのアポロンと、こちらがアルテミス」
テーブル席の似ていない顔の双子、しかしどちらも美男美女のふたりも続いた。アポロンは爽やかに笑うが、アルテミスは無言だ。
「おら、月読よ! 似てる女の子に会えたな」
最後にテーブル席で三人並んだ天照大神、月読命、素戔嗚命のうち、素戔嗚命が月読命をつついた。
「……余計なお世話だよ、弟」
仏頂面の月読命。
「ははは、うちの素戔嗚はいつもこんなふうで困ったものだよ。アルテミスも、すまないね」
天照大神がアルテミスに微笑んだ。
「……いえ、天照さま。兄のアポロンも似たようなものです」
アルテミスが微笑み返す。
「いや、太陽と月の女性おふたりはさすがに美しい! まずは一杯いかがですかな」
テスカポリトカがいかつい顔をニマッと和らげて酒を進めた。
「ありがとう、長兄殿」と天照大神が盃を受け取る。
「野味あふれる方ですわね! 愛したオリオンのようです」とアルテミスも笑顔で続いた。
「こんな兄がいいのですか? アルテミス」
「そうだぞ、兄として僕は感心できないな」
ケツアルカトルとアポロンが不思議そうな顔をする。
「愛した人を汚い計略で、死なせるひとよりよほど素直ですもの?」
アポロンを見るアルテミスの瞳は不毛の月面そのものだ。
「まあまあ、ふたりとも。私と素戔嗚もいろいろあった。人類みな兄弟とは言うけれど、それはみな最初は仲が悪い、ということかもしれないね」
天照大神が身もふたもないことを、フウとため息まじりに言った。
「月読も無口なほうだから、こころを分かるまでには時間がかかったなあ……」
「姉さん……」
「あら、聞かせてください、天照さま、月読さま」
天照大神と月読命の苦労話に、アルテミスは興味深々だ。
「長い話は苦手だ! テスカポリトカ! 俺と相撲をしないか?」
素戔嗚命が南米の長兄神を誘う。
「おう!」
居酒屋の隅でいきなりふたりの相撲が始まった。ドスンバタンと騒ぐ音に、天照大神と月読命の話が聞こえずアルテミスが呆れる。
「男兄弟ってほんとにバカ」
「僕も入るのか、アルテミス!?」
「当然よ、アポロン」
「まあまあ」
ふたたび天照大神がなだめる。夜の宴は長そうだ。