人生は５０から！ 信長公、アフリカへ行く 五十三話「宴は終わり、夜となり」
登場人物紹介
織田信長： みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助： 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ： 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門： 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎： ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ： 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
五十二話のあらすじ
偽司祭の悪鬼ファルソディオをなんとかするため、世界の１２の秘宝を探す旅を始めた信長公一行。台湾の東、緑島へ上陸した公たちは、アミ族のひとびとに歓迎されます。返礼に幸若舞の敦盛を歌い、踊った信長公を筆頭に、弥助、ジョアン、助左衛門もそれぞれの故郷の演目を披露し、四人はアミ族のひとびとと打ち解けました。そして、虹の竜を呼び出す世界の１２の秘宝のことを尋ねましたが、残念ながら台湾には無いようです。宴に出されたアミ族のスパイスを使ったアジア料理、豆と野菜のカレーライスを、公は初体験しました。
五十三話
「み、水を持てい」
スパイスの効いた豆と野菜のアミ族カレーライスを豪快にたいらげたあとで、信長は水を所望した。
「はい、上様！ 雲龍招来！」
ジョアンが覚えたての『雨乞』の神術を使い、空の木の椀に極めて局地的な雨を降らす。
「おお、澳門に戻ったあかつきには、媽祖殿にはほんに礼をせねばのう」
信長はゴクゴクと喉を潤した。
『まあ、素晴らしい魔法を使えるのですね！ すこし滞在を多くして、わたくしたちにもその不思議な雨を降らせてくださいませんか？ 飲める水は、多くあることに越したことはないですから』
巫女のティダルがジョアンに頼む。
「ええでっしゃろ、信春はん？ 俺もこの術は使えますさかいに、一日か二日かあれば村のひとたちに水の補給ができまっせ」
助左衛門も、新しく覚えた『雨乞』をひとの前で披露したいようだ。
「そうじゃな。台湾にはひとつめの秘宝はないと分かったゆえ、次の琉球へと行く旅をすこし遅らせても問題はなかろう」
若者たちの熱意を受け、信長は了承した。
『助かります！』と、ティダルが礼を言う。
『ありがとう、皆さん。それでは、明日までにはこちらで水を溜められそうなものや、場所をすぐに探します』
村長のオラドも顔をほころばせていた。
「ふ……歌い踊り、飯を食ったらさすがに今宵は疲れたのう」と信長。
気が付けば、もう夜も遅めの時間にさしかかっている。
『宴はこれでおしまいにしましょう。客人がた、そして哪吒さまがたは私の家へお泊りください』とオラドが告げた。
『はーい！ じゃあ、夜中にはUNOでもしようか？』
「ははは、哪吒殿は元気じゃのう。UNOとはなんぞ？」
『あははっ、今ここからだとずっと先の未来にある、トランプみたいなゲームだよっ！ みんなで遊ぶっていったら定番のやつ！』
哪吒はまだまだ遊ぶ気だ。
「ノッブはもう休んでいたら、いい。オレやジョアン、助左と哪吒サンでやろう」と弥助が主君を気遣う。
「むぅ、そう言われてしまうとそのUNOとやらの遊びも試したくなるのう。まだ若いもんには負けん」
疲れを覚えていても、信長は新たな遊びに入りたいようだ。
「宴が終わるのでしたら、贈答品の焼き物と扇はどうしましょう、上様」とジョアンが問う。
「ああ……そうじゃな、水を入れる器はひとつでも多い方が良かろう。オラド殿、ティダル殿、この我が故郷日の本で愛されてきた茶器も使うてくだされ」
『まあ、美しい色合いの器ですね』とティダルが、ジョアンから茶器を受け取った。
「ははは！ ティダル殿は見る目がおありじゃ！」
贈った茶器を褒められて、信長は快哉を上げた。
（続く）
次回予告
夜更かしをした信長公たちが朝起きると、何やら大変なことが起きているようで……。
どうぞ、お楽しみに～。
見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより清世さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？