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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 四十六話「長旅の航海に必須の神術を学ぶ」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

四十五話のあらすじ

聖パウロ天主堂から退却した信長公一行は、港の媽祖まそさまの家まで戻ってきました。ファルソディオが告げた「大陸の五つの秘宝、大海の七つの秘宝」のことを問うと、それは浄化を司る「虹の竜」の力を得られるものと伝わっていると媽祖さまが答えました。ファルソディオの圧倒的な鬼のパワーを無力化できるだろう、と考えた一行は、秘宝探しの旅へと向かうことになります。

四十六話

信長たちは媽祖の家で休息を取らせてもらった。たたかいの疲れを取り、そのあとは新たな目的となった、ファルソディオの圧倒的な鬼の力を無効化するため、世界の12の秘宝探しの航海へと旅立つのだ。

『見てヨ、ノッブ!』

ゴブ太郎が、ふたたび円卓に出てきたエッグタルトや杏仁餅アーモンドクッキーをなにやらモニャモニャと呪文を唱えてから、得意そうに見せた。よく見ると、お菓子がきらきらとした氷に包まれている。

「おお、日持ちがしそうな加工がしてあるのう。そんな魔法をわしらが天主堂へ行っておるうちに覚えたのか! さといやつじゃ」

『えへへ、水の魔法の使えるジョアンと助左にも教えてあげるネ』

「わあ、ありがとう、ゴブ太郎くん! その力は航海にものすごく役に立つね。僕がポルトガルからアフリカの喜望峰まわりで日の本へ来るまでは、食べられるならそれだけで幸せというくらいのかたいビスケットと干し肉ばっかりだったもの。野菜とか果物は少なくて壊血病かいけつびょう予防にレモンが出てくるなら上等、だったんだよ。これなら船の上でいろんな食事ができて健康に暮らせるね。野菜を使ったパスタもできるかな?」

ジョアンが素直に喜ぶ。

「せやなあ、神術の魔法さまさまや。使えるようにしてくださったすみよっさんに感謝やで」

助左衛門も笑い、少年ふたりはゴブ太郎の魔法に驚きつつ、神々に感謝をした。

『大陸の東や南の地は、陸地が多いアルが、世界を巡るには海だけのところをずっと行かなければならない場合も出てくるアル。保存食と真水を保つ必要があるアルね。保存食はゴブ太郎に伝えた『氷凍結ふりーずどらい』を、ふたりもこれから覚えたらいいアル。そして、今からどこでも真水が得られる『雨乞うおーたーこーる』の神術も伝えるアルよ』

「なんと、そのような神術もあるのでござるな」

信長は、媽祖の言葉に驚いた。

「雨乞いは、オレの部族もアフリカでやっていた。降るときも降らないときもあった。いつでも雨が呼べるなら、その神術というのはほんとに便利だな、ノッブ」と弥助。

「うむ、桶狭間おけはざまの合戦で、熱田の大神おおかみに勝利を願ったところ、どしゃぶりの雨が降ったこともあったのう、天候はたしかに神さまがたの範疇はんちゅうじゃ。媽祖殿、ありがたきことにござる」

『世界の12の秘宝を手に入れて、ファルソディオのやつをギャフンと言わせてやるアルね!』

媽祖はグーの手を掲げた。

『ジョアン、助左。それでは、今から小さなりゅうのかたちをした雲を思い浮かべて『雲龍招来うんりゅうしょうらい』と唱えるアル』

「はい、媽祖さま、やってみます! 雲龍招来!」

「龍神さまを思い浮かべるんやな、雲龍招来!」

ふたりが呪文を唱えると、たちまち小さな龍の姿をした雲が部屋の天井の近くに現れた。

「わあ、出来た!」

「ほんまに現れよったで!」

ふたりとも、雲の龍が出てきたことにびっくりしている。

『雲龍を呼んだら、雨を願うアル。今回はお茶の器に雨を降らせてください、とやってみたらいいアル』

「はい。雲龍さま、このお茶の器に雨をお願い致します」

空の陶磁の茶器を掲げて、ジョアンが雨を願う。ぽつぽつ、と極めて局地的な水滴がお茶の器に降りた。

「俺のとこにも頼みますわ、雲龍はん!」

助左衛門の願いを聞いて、彼の器にも雨が降った。

「できたね、助左くん!」

「ジョアン、やったで」

少年ふたりは、魔法の成功に喜ぶ。

『ゴブ太郎にお菓子をあげるみたいに、雲龍にも働いてもらったら感謝をちゃんとするアルよ?』

「はい。雲龍さま、ありがとうございます!」

「おおきに!」

少年ふたりの礼を聞き取ると、小さな雲の形をした龍はフッと満足気な様子で消えていった。

「いつ、どこでも水と新鮮な食料に困らぬ船旅が出来るとは、感謝の極みにござる、媽祖殿」

『信長公、良い旅を、アルね』

信長の礼に、媽祖は女神の微笑みを見せた。

(続く)

※ 信長公一行に立ちはだかる敵、偽司祭の悪鬼ファルソディオ、という設定は神話や伝説をミックスしたフィクションです。神話×歴史ファンタジーの創作になります。特定の宗教や信仰などを否定するつもりはまったくございません。娯楽作品としてご寛容頂ければ幸いです。

※ 媽祖さまが伝えた神術「氷凍結」や「雨乞」は、現代の技術を戯画化したお遊びです♪

※ 桶狭間の戦いは、2000人から3000人と言われる少数の信長公の軍が、25000人から45000人とも言われるおよそ10倍以上の戦力を持つ敵将、今川義元公を討ち取った合戦です。このいくさの前に信長公は熱田の神々へ勝利を祈願し、どしゃぶりの雨が降って義元公への奇襲が叶った、とも伝わります。勝利した信長公が感謝を込めて奉納した築地塀つきじへいは「信長塀」とも呼ばれ、名古屋市の熱田神宮の境内に現存しています。

次回予告

いよいよ、新たな旅立ちを迎えた信長公一行。その見送りに、ある人物が駆けつけます。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより九十九屋さんたさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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