Vol.11 古典的なECがMicro-fulfillmentによって敗北〜韓国CoupangによるEC革命〜
今回のテーマは、Micro-fulfillmentにより韓国のEC業界を刷新したCoupang(クーパン)についてです。
Micro-fulfillmentは、フルフィルメントの一種です。EC業界においては、ユーザーからの受注、商品梱包、発送、商品受け渡し、代金回収、カスタマーサポートといった一連のバックヤード業務をフルフィルメントと呼び、顧客体験の向上する上で重視してきました。例えば、古典的なEC事業者は、地方に大型の集中倉庫(フルフィルメント・センター)を持ち、数日かけて購入者の住所まで配送を行います。一方、Micro-fulfillmentは都市部に分散する店舗や、小型倉庫をフルフィルメントセンターとします。つまり、ユーザーは同日(30分〜数時間とサービスによって異なる)に商品を受け取ることができます。当然、ユーザーの利用するデバイスがPCからスマートフォンに移行したことで位置情報の利用が進み、このトレンドは一層強くなりました。
※画像はCoupang - Investor Relationsより引用
Coupangは2010年に創業された韓国のEC事業者です。当初はGrouponの韓国でのコピーキャットでしたが、徐々に現在の事業モデルへと転換します。2021年にはCoupangの流通総額はおよそ3.5兆円に達しています。韓国よりも小売市場規模の大きい日本の楽天の流通総額が5兆円であることを考えると、いかに大きなプラットフォームか分かります。Coupangの成長を支えたのは、2014年から提供しているロケット配送です。消費者はCoupangで注文したアイテムを同日、もしくは翌朝に手に入れることができます。
以前のメールマガジンで、Micro-fulfillmentは新興国がリードしていると伝えましたが、韓国の情報環境は必ずしも遅れたものではありませんでした。日本から5年ほど遅れて、検索サービスを提供するNaver(日本でもYahoo!やLINEを提供するZ Holdingsの親会社)が誕生しており、以降ECもNaver Shoppingが寡占していました。しかし、Naver Shoppingは古典的なフルフィルメントを行っており、地方の大型配送センターから、都市部の消費者に対して数日かけて商品を届けていました。一方、Coupangはロケット配送によって注文の99.6%を24時間以内に配達しています。これは人口密度の高い韓国で、都市部に小型の配送センターを多数持つことによって、人口の70%を10分圏内に収めています。
小型の配送センターから短時間で手元に届く、ロケット配送を武器に成長してきたと聞くと、生鮮食品や飲食の配送サービスが主だと思われるかもしれません。しかし、Coupangを使ったことがあるユーザーであれば、生鮮食品や飲食だけではなく、アパレルやコスメ、雑貨、電化製品も中心的なカテゴリーであることに気づきます。つまり、消費者にとって今すぐ使わない商品でも、同日に届くのは体験的に全く異なる質を提供していることが分かります。これはAmazonや楽天といった古典的なECで注文した商品を受け取りまでにストレスを感じた消費者には分かるのではないでしょうか。
さて、破竹の勢いで韓国のEC市場を制したCoupangですが、既に挑戦を受ける側になっています。より食品に特化したKurly Marketなどのスタートアップとの競争だけではなく、Lotteといった小売業界の巨人も、Micro-fulfillmentを活用したロケット配送市場に参入をしてきています。今は都市部の店舗や小型倉庫から消費者に即配を行うのは、ごく日常的なサービスになりました。
次号は、日本のMicro-fulfillmentとしてヨドバシエクストリームとその顧客満足度について紹介します。