Vol.13 「純粋なECは消滅する」コロナ禍でも継続し、300店舗へ増加したMicro-fulfillment店
今回のテーマは、中国のアリババグループ傘下の盒马(フーマー)を中心としたニューリテールとMicro-fulfillmentの関係を取り扱います。
Micro-fulfillmentは、フルフィルメントの一種です。EC業界においては、ユーザーからの受注、商品梱包、発送、商品受け渡し、代金回収、カスタマーサポートといった一連のバックヤード業務をフルフィルメントと呼び、顧客体験の向上する上で重視してきました。例えば、古典的なEC事業者は、地方に大型の集中倉庫(フルフィルメント・センター)を持ち、数日かけて購入者の住所まで配送を行います。一方、Micro-fulfillmentは都市部に分散する店舗や、小型倉庫をフルフィルメントセンターとします。つまり、ユーザーは同日(30分〜数時間とサービスによって異なる)に商品を受け取ることができます。当然、ユーザーの利用するデバイスがPCからスマートフォンに移行したことで位置情報の利用が進み、このトレンドは一層強くなりました。
※深センの店舗で著者撮影
アリババは中国最大手のEC事業者です。運営する天猫と淘宝の流通総額は、およそ7.49兆元(およそ140兆円)となり、その規模の大きさが分かります。新小売(ニューリテール)の概念は、最大手のEC事業者アリババの馬雲(ジャック・マー)から2016年に発表されました。これからは「純粋なECは消滅する。そしてオンラインとオフラインが合わさり、物流と融合することで、真のニューリテールが創出される」と説明しました。
何故、EC市場では圧倒的な強者がこのような発表をしたのでしょうか。長年、EC事業に携わっている人であれば気づきますが、EC市場は既に大手に寡占されています。最大手のアリババが運営する天猫、淘宝は市場シェア、50−60%に達しており、次ぐ京东と拼刀刀を合わせると、3社で80%を寡占している市場です。当然、顧客の獲得競争は激化しており、獲得コストが上昇する要因になっています。それにより、結果的にEC市場増加率も年々下がっていました。つまり、小売市場のEC占有率が一定のところで止まることは明らかで、商材によっては店舗流通の方が大きくなることから、これも取り込もうとする戦略です。また、消費者の趣味嗜好情報の取得の観点からも、店舗での流通比率の高い商材は重要です。
代表的な例として取り上げられるのは、スーパーマーケット盒马です。ニューリテールはアリババによって、「消費者体験を中心としたデータドリブンなリテールモデル」と定義されてます。このスーパーマーケットでも、消費者はオンラインでもオフラインでも同じような購買体験を得ることができます。例えば、店頭の商品はAppに登録しているので、周囲の消費者は家や路上でも商品を確認して、30分で配送を受けることができます。つまり、来店したのと同じような情報と速さを得ることができます。一方、店頭でも、全ての商品はAppによってスキャン可能で、商品の説明をApp上で受けることができます。そこで決済すれば、指定の住所まで同日配送してくれるので、持ち帰る必要もありません。
新小売といっても無人店舗などは需要がなかったため、早々にインターネット接続の自動販売機に置き換わりました。盒马のようなMicro-fulfillmentは、コロナ禍の中国でにも大きな役割を果たしています。一般的な店舗がロックダウンによって閉店するところ、盒马は営業を継続し、現在は300店舗まで数を増やしています。現在は会員制店舗や、コンビニ業態、飲食店と多角化することより、後発のライバルに差をつけている状態です。
日本は小売事業やスタートアップではなく、コンサルタントによって新小売やOMOが紹介されたので、その内容が混乱しています。ケースとして学ぶべきは、馬雲の言葉のとおり、物流と情報です。Micro-fulfillmentによって、店舗の床面積に縛られずに顧客を育てることができます。また、顧客情報の一元化によって、より精度の高い需要の把握やサプライチェーンの企画をすることを可能にしています。
次号では美团、饿了吗といったマーケットプレイス型で、これを提供する事例を紹介しますので、合わせて読むとより理解が進むかと思います。