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アマゾンの撤退、新たなプレイヤーの成長…。激化する中国EC市場とは? -China Conference Vol.3イベントレポート-

なぜアマゾンは中国から撤退するのか?

Eric:
今日でChina Conferenceは3回目です。今回はスタイラーの台湾事業を統括している私エリックがモデレータを務めさせていただきます。よろしくお願いします。

それでは早速一つ目のテーマに行きましょう。一つ目は、「なぜアマゾンは中国から撤退するのか」です。今年の4月に米国発の大手EC事業者アマゾンが中国からの撤退を発表しました。

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アマゾンの画面

小関:
日本はEC市場の一角をアマゾンが占拠しているので、日本人から見ると結構ショッキングなニュースかもしれませんね。また、よく言われるように、中国が外資系企業にとってアンフェアな市場だから、撤退に追い込まれたと思っている人も多いかもしれないんです。まず、最初にアマゾンで働いていた僕や、中国でECビジネスを展開されていた路さんの両面から話せれば。

路:
そうですね、僕からは撤退に至る中国ECの歴史的経緯の話をしたいと思います。アマゾンはJoyoというECの企業を2004年に買収して中国に進出しています。Joyoは当時の中国のEC市場ではTOP3に入る会社です。

小関:
実を言うと、アマゾンはそもそもチャレンジャーとして中国に進出したわけではなく、大手企業を買収して進出しているんですよね。弱者というよりむしろ強者としてのポジションです。

路:
そうですね。中国EC市場で存在感のある企業を買収して一気に攻めようという戦略からアマゾンも買収を進めたんですよね。一方、アリババは、まだBtoB向けのイエローページの印象が強く、C向けのEC企業という印象はないです。そのアリババが、中国に進出したアマゾン、eBayに対抗しようとして作ったのが淘宝網です。

結果、2004年の15年後にアマゾンは撤退に追い込まれました。撤退時のマーケットシェアは1%にも満たないです。また、実は日系の楽天やZOZOももっと前に撤退に追い込まれています。むしろアマゾンは中国市場に踏みとどまっていた方なんですね。背景にはもちろんアリババとの競争があります。


中国のEC市場で勝ち残るための2つのキーワードとは?

小関:
会場には、あまり淘宝網を使ったことがない人も多いかと思うので、今日は淘宝網の話もしながら、淘宝網とアマゾンの違いなどについてもお話できればと思います。

例えば、社会背景も違いますね。日本・アメリカにおいて消費社会が成熟してからECが普及しているので、購入した商品がちゃんと届くというのが普通です。一方、当時の中国での淘宝網はマーケットプレイスを提供していたので、買ったものが届かない、お金を振り込んだのに連絡が取れなくなったなどのトラブル、商品に関して売り手と買い手の認識のギャップも大きくあるので、取引をする上で信頼を形成するのが非常に重要です。

路:
中国に進出した日米のECが失敗している理由のほとんどと言っていいですね。中国EC市場における成功のキーワードは「信用」と「決済」の2つがあげられます。淘宝網は現在、中国のECの約8割を占めているサービスですが、この2つの理由なしでは、市場で勝つことができなかったのではないかと考えています。

中国EC黎明期から根本的に写真通りのものがくるかどうかなんてわからなかったんです。商品詳細ページにメッセージというボタンがあるんですね。実際に商品説明文を読むよりも、メッセージで商品について聞くことが多い。ユニクロやサムスンという大手にメッセージで問い合わせても1分以内に返答がくるんですね。

このようにメッセージで商品や納期について気軽に聞くことができるという点も「信用」というキーワードに紐づいている感じがしますね。

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淘宝網のメッセージ画面

小関:
あとは、決済の部分ですね。遠隔地での商取引において、お金が先か、物が先かというのは、非常に重要な問題です。

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路:
そうです。これを見事に解決したのが支付宝のエスクロー決済というものです。取引の第三者であるアリババが介在して、商品の送付が確認できてから送金をするというスキームが必要だったんですね。支付宝も、日本ではオフラインの店舗で使える決済サービスのイメージが強いですが、淘宝網を成功させるための手法として生まれたんですよね。ジャック・マーも開発した当時は、今のような使われ方は想定していなかったと思います。

小関:
一方で、アマゾンは進出地域に対して特殊な機能やデザインを持つのに消極的です。撤退時でもコミュニケーションやエスクローを提供していたわけではないです。これは、ビジネスの根幹と結びついています。

アマゾンは自身を普遍的なサービスプロバイダーだと自負しています。アマゾンは自社を、「地球上で最もユーザーセントリックな会社」だと掲げていて、そのユーザーセントリックとは、「安く(Price)」「多くの種類の商品から(Selection)」「便利に(Convenience)」買えることから構成されています。もちろん、1990年代の米国が背景にあります。カタログ通販を検索できれば良いので、コミュニーケーションや決済などはあまり考慮されないんです。

また、中国や他のアジア諸国が成長すると、スマートフォンしか持たないユーザーが大量に発生します。結果的にモバイル最適化したような体験が、米国よりも中国で出てくるんですね。例えば先ほどのメッセージもそうですし、淘宝網のUIはSNSのようなインターフェースを採用していますね。検索させるというよりは顧客データに基づいて商品を提案してくれます。


淘宝網がアマゾンと決定的に違うのは「副業モデル」⁉

Eric:
なるほど、中国のその他のECプラットフォーム企業の成長にはどんな要因があるのでしょうか?

路:
淘宝網のビジネスモデルは根本的にアマゾンと異なっています。アマゾンは仕入れとプラットフォーム利用料を供給者から獲得するビジネスです。一方、淘宝網は、プラットフォーム利用料は無料。これを初期から成立させたんですね。つまり流通が増加し、より供給側の競争が激化した結果、プラットフォーム内の広告販売が可能になるんです。つまり淘宝網は広告ビジネスなんです。

あとは、支付宝のキャッシュフローです。支付宝がユーザーからお金を受け取って、販売者に送金するまで約一週間。この一週間の間、約30兆円の資金が預かり金として滞留するわけです。つまり流通の本業で勝負しないで、副業の広告、決済などで勝負したんです。


ビッグプレイヤー、淘宝網に迫る脅威

Eric:
逆に淘宝網にとっての今の脅威はなんなのでしょうか?

路:
面白いのが、併多多です。2015年創業のEC企業ですが、既に時価総額では百度を追い抜いています。また、JDはアマゾンのコピーですが、流通金額を大きく伸ばしています。JDはとにかく安い、物流が早いというのが特徴です。所得が上がり、淘宝網上で複数のセラーを比較して、コミュニケーションしながら購入するのが面倒臭いと思うユーザーが使い始めることで一気に興隆してきた印象ですね。

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JDの画面

小関:
少し併多多に話が移りますが、先ほど話に上がった中国の消費の高度化に伴って、もともと淘宝網での個人間取引をしていたユーザーが、上位の天猫や京東に流れてきました。取り残された下の層を埋めるように出てきたのが併多多ですね。

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併多多の画面

路:
所得のピラミッドの下に位置する消費者にアクセスすることで、ここまでマーケットを広げることができるとは思いませんでしたね。あと重要な点は、併多多の成長を支えているのは微信です。つまりユーザーが一つの入り口から商品を探すのではなく、ユーザーがメッセージアプリを利用して商品を紹介しあう分散型の集客を実現しているんです。時間はある一方で、そこまで所得が多くないシニア層に向けて、野菜の集団購入を安価で提供することで微信上のメッセージグループで拡散したんです。

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消費者質問:
中国での越境ECは、モール型か自社ECがいいのか?

路:
中国のEC市場とアメリカや日本で圧倒的に違うのが、中国には自社ECサイトが存在しないことです。シンプルにモール型の方がオンラインのトラフィックが多いです。また、自社ECにトラフィックを連れてくるのも非常に高額なので、自社ECは上手くいきません。

小関:
そういえば、ユニクロなどの集客力のあるブランドも天猫上の公式ページを構えていましたね。加えて、自社ECが厳しいのはアジア全般に共通するかと思います。おそらくPCではなく、いきなりスマホしか使わないユーザーしかいないので、ユーザーも基本的にはブラウザ上のウェブページではなく、ECモールのAppを利用するか、SNSやMessage Appを通してブランドとコミュニケーションします。どちらもプラットフォームなので、結果的に自社ECが参入する余地が極めて小さいのかもしれませんね。

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天猫トップページの画面


今後、「EC」という概念は消える可能性が高い

Eric:
最後に中国ECの現在と今後について聞きたいと思います。ジャック・マーが2016年から提唱しているように、純粋なECは消えていくというニューリテールが話題になっている中、お二人の見解はいかがですか。

小関:
大きな枠組みで話すと、中国の小売は常にアップデートされています。可処分所得や消費が常にアップデートされると、いつものモノを買うというよりも、消費者がより良いもの、新しいものを求めるようになります。

いわゆるミドル層が淘宝網のみでの消費で満足するはずは当然ないです。むしろ、ミドル層の増加に合わせて、増えてくるのがオフラインでの流通に注目が集まっています。

例えば、アリババが運営するニューリテールで有名な盒吗鮮生は、一般的なスーパーマーケットと比較すると、かなり高額なものを販売しています。

路:
例えば、日本ではTiktokで有名な今日头条のような企業があります。元々、今日头条というニュースアプリの会社で、Tiktokのようにノウハウや技術を生かした多くのアプリを運営しています。この会社は公表していないだけで、実は複数のバーティカルECを運営しています。

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今日头条の画面

Eric:
それでは、最後にまとめをお願いします。

路:
まとめると2点ですね。
一つは、今後ECという言葉がなくなるということ。10年後はオールドなリテールとECが融合してニューリテールという概念が普及すると考えています。購入においてはオンラインもオフラインもチャネルの一つでしかない。

二つ目はこれは中国でしか起こらない、特殊事象ではないということです。他のアジア諸国でも中国のコピーキャットが多く生まれており、今日話したマクロトレンドは普遍的なものだと考えています。

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小関:
このイベント自体3回目なんですが、一貫しているメッセージは中国の企業が特殊なのではなく、スマートフォンによる情報環境の変化や、所得の変化に伴うビジネスの誕生や変化は、日本にとっても無縁ではないということですね。
今回はECをテーマにしていたので、バズワードが多いわけでもないですが、歴史的に辿りやすいと思います。例えば、モデレータのEricが出身の台湾だと、アマゾンや楽天のポジションにあたるPC HOME とYahoo! Shopping Taiwanが市場を寡占していた状況から、ここ3年で淘宝網のコピーモデルのShopeeが市場を奪っています。

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