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生牡蠣のような感受性

私は詩人 茨木のり子さんの作品が好きです。

国語の教科書に載っているので
皆さんもきっと一度は読んだことがあるはず。

1996年版の詩画集。宝物です。


茨木のり子さんの作品の中でも
特に好きで、
時々読み返しては心に留めておきたい
と思っている詩があります。
それがこちら。

汲む
 ―Y・Yに―

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 墜ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなかった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇  柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです 
茨木のり子 

とても素敵ですよね。

私は社会人になってからの数年間、

何事もスマートにこなさなきゃ
隙を作ってはいけない
感情をコントロールしなきゃ

と強がっていた頃がありました。

当時はどこかピリピリとしていて、
心にも余裕がなかったように思います。

その頃にたまたま再読する機会があり、
この詩がものすごく胸に響いたのです。

すれっからしにならず、
初々しさを忘れないこと

緊張したり、傷付いてしまうこともある
やわらかい感受性を守っていくこと

それがきっと仕事でも、恋愛でも、
大切なのではないかなと
今は思います。

自分の中に
幼い頃から持っている
「ピュアさ」や「繊細な感性」

それは欠点なんかじゃなくて、
その人の魅力であり、
愛される理由のひとつなのです。

「生牡蠣のような感受性」を大事に育みながら、
ゆっくり歳を重ねていって、
将来かわいいおばあちゃんになりたい。

これが私の目標です。

時々たちかえって、
ひっそりと汲んでいきたいと思います。

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