迷う犬

方向音痴は言い訳になるのか

先日、兄とランチに行きました。

兄とはわりと仲が良い方だと思います。異性の兄弟がいない人からするとその関係性を理解するのはなかなか難しいらしいのですが、考え方や癖などがどこか似ていて、自分の異性バージョンがいるみたいな感じです。

その日は12:30に渋谷に待ち合わせということにしていて、直前に兄がお店を決めてくれました。そこまでは順調だったのですが、「現地集合でいい?」と聞かれて、「いいよ」と軽く答えてしまったのが間違いでした。

兄から電話をもらったとき、私は都会のど真ん中で、自信を持って間違った方向に進んでいました。例えるならば、ポケモンのゲームの中で壁の方向にむかって歩いている人、現実世界で言うと壁に向かってアタックしているルンバです。電話で兄に「今何が見える?」と言われたので、自分が見ている景色を自信たっぷりに伝えると、とても驚かれました。私も驚きました。どうやら、駅の出口が既に間違っていて、反対方向に進んでいたようです。私たち兄妹は、違う方向から渋谷駅に集合して、会うこともなく綺麗に渋谷駅で解散していたのでした。異なる2つの力が1点に向かって進み、集まったかと思えば、正反対の方向に進んでいく。ビリヤードでもなかなか起こりえない物理現象です。

その事実を知った兄は電話で、「現地集合にした俺が間違いだったわ、ごめん」と言っていました。

私はたいへん驚きました。
兄が!私を責めることをせずに!!!謝っている!!!!!!

これまで、誰かに「自分は方向音痴です」と言ってしまうのは少しためらいがありました。その台詞を言ってしまうのは、遅刻や迷子における言い訳になってしまうような気がしていたのです。

私のなかに内蔵されている辞書で「ご」を引くと、
ごめん-で-すんだら-けいさつ-いらねえんだよ[ゴメン-デ-スンダラ-ケェサツ-イラネェンダヨ]【御免で済んだら警察いらねえんだよ】(常套句)
と記載されたページが出てくるのですが、類語一覧には「方向音痴って言っておけば許されると思ってんのか」という台詞がばっちり載っています。

しかし、この世に誕生したときから私を知る家族には、さすがに方向音痴がバレてしまっています。秋田にいた頃も、18年間住んでいるのに自宅から半径1km圏内で道に迷っていた私です。もちろん兄も方向音痴のことは知っていて、日頃から「鉛筆で転がして方向決めたほうが当たるんじゃね?」とか「思った方と違う電車に乗ったら?」とか、様々なアドバイスをいただいていました。

そんな兄が「現地集合にした俺が悪かった」と言ってくれて、私は目がさめました。自分の弱みを事前に知らせておくと、周りもそれに対応しようとしてくれることに気が付いたのです。もちろん、方向音痴だぞ!えっへん!と威張り、皆のもの私こそが集合場所じゃ参れ参れ、という態度をとるのは間違っています。しかし、多少の迷惑をかけてしまうことを事前にお伝えしておくのは、相手にも自分にも良い方に働くのだなあと思いました。

ということで、これからはなるべく謙虚に方向音痴を名乗ります。アピールするタイミングと頻度を考えるのはとてもむずかしいので、もはや芸名にしてみようかなあ。オレガシューゴーバショ佐藤。うん、なんだかダレノガレ明美さんみたいで売れそうだし、方向音痴もさりげなくアピールできますね。そして友達が減る。

おわり

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