そういえば「鎮」住まいではなくなった話
先月末に引っ越しをしたことはお伝えしましたが、実はそれによって重大な変化が起きたことをお伝えするのを忘れていました。
以前、僕は「|鎮《zhèn》」に住んでいたのですが、引っ越しによって「鎮」住まいではなくなり、「|街道《jiēdào》」住まいになったのです。
……これだけではなんのことやらさっぱりだと思うので、下に書いていきます。
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「鎮」と「街道」というのは、どちらも中国の行政区画を指します。
中国の行政区分は「省級・地級・県級・郷級」という4つに大きく分かれるのですが、「鎮」と「街道」というのはどちらもこの中の「郷級」に属します。どちらも「〇〇鎮」とか「〇〇街道」というような名前がつきます。規模感的には日本の市町村でいう「町」に近いかと思います。
特に「街道」のほうは、字面的に単なる道の名前のようにも見えてしまいますが、実際にはあるひとまとまりの地域・区画のことを指しているんですね。
では「鎮」と「街道」の違いは何かというと、ざっくりいうとその地区を管轄する政府が存在しているかどうかです。
「中国共産党 世界最強の組織」によると、「鎮」のほうには「〇〇鎮政府」という形で、直接的にその地域の行政を担当する機関が存在しています。
対して「街道」のほうには、その上のレイヤーである県級行政区間の出先機関(街道弁事処)が置かれているのみで、「政府」と呼ばれるものがありません。実際の行政は県級の行政機関が、その出先機関を通じて行います。
また、「鎮」には共産党の基層組織である「党委員会」が設置されますが、「街道」にはそれがありません。代わりに「党工委」(中国共産党〇〇(自治体の名前)工作委員会)という機関が置かれます。
「党委員会」と「党工委」、名前がそっくりで混乱しそうになりますが、「鎮」にある「党委員会」のほうには選挙があり、下から代表を選ぶ制度が存在しているのに対して、「街道」にある「党工委」のほうは上級部門から派遣されてくるものです。「党委員会」、つまりは「鎮」のほうが、自治的な側面を強くもっているということになります。
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……まあ、いろいろと書いてみたところで「鎮」と「街道」が生活者の視点から見て大きく異なっているかというと、別にそうではないのですが。
僕自身の実感としても、片田舎から片田舎からに引っ越したというだけのことであって、生活上の利便性や見える景色はほとんど同じです(騒音から逃げるという目的は達成できましたが)。「重大な変化」とか、しょうもない煽りをして申し訳ございませんでした。
いや、中国関係のツイッタラーなどの間では概念としての「鎮」がある種の自虐を含んだミームと化していまして。なぜなら「鎮」は多くの駐在員が集まるようなキラキラした地域にはあまり見られない区画なので、「鎮」というというだけで田舎であることが想起されるからです。
あとこの「鎮」といういかにも田舎っぽい字面とか、日本語で読んだ時の「ちん」という響きもミーム化の一助となっているでしょう。ほら、結局僕たちってなんやかんやいって「ちん」って言いたい、みたいなところがあるじゃないですか。
僕自身も鎮住まいをアイデンティティとしていたところがあり、過去には鎮をテーマにしたnoteのエントリを書いたこともありました。なぜか100近いスキがついています。みんな鎮が大好きなんですね。
そんな僕が脱鎮(だっちん)したということで、一応はみなさまに報告しておく義務があるかな、ということでこの文章を書きました。
「どうでもええわ」という声が聞こえてきました。どうもすいません。
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一応意味のありそうな話をつけ加えておくと、この「鎮」と「街道」の話からもわかるように、中国の行政区分ってものすごくややこしいんですね。
同じレイヤーでも色々な名前がついていたりするし、それぞれに微妙な違いがあって、とても把握できません。「鎮」と「街道」の違いについても、この文章を書くためにしっかり調べ直さないといけませんでした。
これについても実は同じような話を書いたことがあって、中国の「市」中心にそのややこしさを紹介しました。
たとえば「北京市」と「広州市」はおなじく「市」と呼ばれているにもかかわらず、冒頭に述べた「省級・地級・県級・郷級」のランク分けにおいて差が存在しているのです(北京市は省級、広州市は地級です。ちなみに「県級の市」という訳のわからないものもあります)。ややこしくてたまりません。
改めて思うのは、こういう国とかその社会の本当に基本的なところって、そこに住んでいたとしても実は全然わかっていなかったりするということです。意外と知らなくてもなんとか生きていけてしまうんですね。
でも、こういう制度的なところって実は国が違えば大きく異なっている部分でもあります。僕たちはなんとなく、自分のところにある制度が他の国にもあるか、もしくはちょっと違っていてもまあ大体似たようなもんだろう、と想像しがちです。しかし実際には、考えもしなかった「鎮」と「街道」の違いみたいなものが存在しているわけです。
僕はこのマガジンで中国と日本の違いみたいなことを偉そうに書いていますが、大きな政治体制であったり、人の気質のような曖昧なことを書く前に、ひょっとしたらこういう基本的な制度とかにまつわる違いを紹介していくほうが先なのかも? と思いました。
このマガジンで書いていってもいいし、ひょっとしたら別にブログでも立ち上げて中国にまつわる基本情報のデータベース的なものを作っても面白いかもしれません。
もし何か新しい動きをするのであれば、随時このマガジンでお伝えしていこうと思います。
それではまた来週。
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