見出し画像

システムアーキテクト DXを推進するための情報システムの改善【論文の書き方】(令和5年春問1)

本記事ではシステムアーキテクトの午後II(論文)対策として、令和5年問1で出題された過去問を分析します。
実際に論文を書く上での考え方を整理し論文骨子を設計するところまでやっていきます。

※本記事は、メインである論文の書き方については無料で読めます。論文本文のみ有料部分なので、読みたい方は記事の購入またはメンバーシップの加入をご検討ください。


問題(令和5年問1)

過去問は試験センターから引用しています。


表題:『デジタルトランスフォーメーションを推進するための情報システムの改善について』

設問文は以下の通り。

何が問われているかを把握する


本問ではデジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードが目を引きます。
DXはITストラテジスト区分でよく目にするキーワードです。

ただ問題文をよく見ると
「システムアーキテクトは、DXの推進を支援する必要がある」
と書かれており、あくまでDX推進の補佐的な立場であることが分かります。


DX推進の「補佐的な」立場とはどのような立場でしょうか?

DX推進の「主導的な」立場とは、事業や業界の背景を踏まえ、経営目標とも整合性を取りながら、事業改革を実現するための業務要件・システム要件を定義し、情報システムの構想をまとめます。
ITストラテジストに求められる人材像だと言えます。


対してDX推進の「補佐的な」立場とは、本問題文を読むと、情報システムの連携やデータ構造などにある課題を特定し、解決することによって支援する、とあります。
本問題のシステムアーキテクトに求められる人材像だと読み取れます。



「補佐的な」立場ということに注意して論文を設計しましょう。


設問ア、イ、ウで問われているのはそれぞれ以下の通りです。

  • 設問ア 課題、DXの目的、情報システムの概要

  • 設問イ 情報システムをどのように改善したか、解決できると考えた理由

  • 設問ウ 何のためにどのような工夫をしたか



出題要旨と採点講評からの分析

試験センターから公表されている出題要旨と採点講評を確認して出題の意図と論述のNG例を把握します。


出題要旨

出題要旨の3文目に以下の記述があります。

課題を解決してDXの推進を支援することが求められており、その際には、既存の情報システムの改善が必要になることがある

ここでも問題文と同様、システムアーキテクトはDXの推進の「支援」が求められているとあります。
DXを主導的に推進する立場で論文を書かないように注意しましょう。


また、既存の情報システムという言葉もあることから、新たなシステムの構築が主題となっていないか注意しましょう。
本問題の場合、DXの推進の妨げとなる情報システム上の課題を特定し改善することが主題ですから、新たなシステムの構築だけが登場する論文ですと出題趣旨に沿った論述ができなくなるでしょう。


採点講評

まずは全問共通の採点講評から見てみましょう。
赤線で引いたところには、

問題文に記載してあるプロセスや観点などを抜き出し、一般論と組み合わせただけの表面的な論述も散見された

と書かれており、NG例であることが分かります。


問題文から抜き出し、一般論と組み合わせただけの論文とはどういう論文でしょうか?

本問題の場合の、設問イで問われる「解決できると考えた理由」を論述するケースで考えてみましょう。


問題文には関連する記載として以下があります。

基幹情報システムにPOS情報を連携して、DXの推進に必要な情報を蓄積する

ここで「解決できると考えた理由」を以下のように論述するとします。

POS情報を連携することにより、POS情報に含まれる販売した商品・点数・場所・日時を基幹情報システムから可視化・分析できるため

上記はNG例です。

なぜならデータ連携の一般的なメリットを述べている(=一般論)に過ぎないからです。


試験センターの求める問題の趣旨に沿うには、「解決できると考えた理由」をDXの目的や情報システムの課題などに応じたものにしなければなりません。
具体的にどのように書いていけば良いかは、本記事を読み進めていただければと思います。



次に問1の採点講評も見てみましょう。
2文目に以下の記述があります。

業務の改革や改善を伴わない、現行業務の単純なIT化・デジタル化をDXとしていた論述も散見された

これは試験センターの求めるDXを取り違えるというNG例を示しています。

DXとはデジタル技術による業務の改革や新しい業務・ビジネス・サービスの創造なので、単なる現行業務のデジタル化という論旨になっていないか注意しましょう。


さらに3文目にも問われる要素の論理的整合性がとれていないというNG例が記載されています。

整合性を取るべき要素

本論文において各要素の関係は重要であるため、図で整理しています。

どのように各要素の整合性を取れば良いかは、本記事を読み進めていただければと思います。


論文を設計する

問われていることの概略を把握したら自身の経験や用意してきた論文パーツに当てはめてどのように論述を展開するかを設計します。


設問アの設計


設問アで何が問われているか確認しましょう。

設問アの文章

まず、DXの推進における課題を問われています。そこに、DXの目的と情報システムの概要を含める、という指定があります。


DXの推進における課題とは、どのようなものが想定されているのでしょうか? DXの目的とは、どのようなものが想定されているのでしょう?

問題文を見て、ヒントを探してみましょう。

DXの目的と課題の関係

設問文には「どのような課題があったか。DXの目的と…を含めて」と「課題→目的」の順に記載されていますが、問題文には上図のように「目的→課題」の順に記載されています。

「課題」は「(DXの)目的達成を阻害する課題」を記述することからも、論述する上では「目的→課題」の順に書いた方が書きやすいと思います。


また問題文には「情報システムの課題」として、「飲料の製造販売会社」と「車載機器製造販売会社」の具体例が書かれています。熟読することで、システムアーキテクトがどのような課題に対応することが求められているかが読み取れます。

「問われていることを把握する」節でも述べた通り、DXの推進を支援する「補佐的な」立場で、主に「情報システム」の観点から課題を論じる必要があることに注意しましょう。



情報システムの課題を考える

この節では情報システムの課題を考えるプロセスを説明します。

問題文に記載された情報システムの課題の例

はじめに問題文に書かれている2つの例を確認すると、
前者はデータがシステム間で連携されていないという課題、
後者はデータの体系が不一致であるという課題
を述べています。


問題文に「DXの推進に必要な情報が整備されていないなどの課題」と書かれていることも合わせて考慮すると、情報(データ)に関する課題を取り上げると書きやすいでしょう。

DXの目的と課題の関係

上図のように、DXの目的と課題は整合がとれている必要があります。
「整合がとれている」とは、論じる課題が「DXの目的を妨げる課題」になっている必要があるということです。

DXの目的とは関係のない、単なる既存業務のデジタル化や改善に対する課題設定になっていないか注意しましょう。



私の場合はスーパーマーケットにおける店舗販売とオンライン販売のデータを全社統合的に戦略立案に活用するというDXの目的に対して、両システム(ID情報)が統一されていないことを課題として挙げました。


設問アで記述するには、スーパーマーケットの業態、それぞれの販売業務、利用者管理の方法、関連システムを列挙した上で課題を記載しなければならないので、字数制限の800字ギリギリまで論述する必要がありました。
私の例に限らず、本問題の設問アは具体的なシステムやデータにまで踏み込んで課題を説明する必要があるので、字数に余裕は無いものと考えた方がよいでしょう。


設問アの骨子例

設問アの論文骨子の例を記載します。

■設問ア
 1.DXの目的と情報システムの概要、課題
  1-1.DXの目的
  スーパーマーケットのS社 店舗とオンラインの2つの販売チャネル   DX目的:競争力向上のため全社の販売データを活用した販売戦略を        立てられるようにすること
  1-2.情報システムの概要、課題
  店舗販売:レジ端末の入力データは本社の販売管理システムで管理。        データにはポイントカードの利用者の氏名やポイント        カードID、保有ポイントが含まれる。
  オンライン販売:オンライン販売事業部がECサイトを管理・運用。           ECサイトの利用者にはサイト利用者IDを発行。   課題:ID情報が別々に管理されていること。



設問イの設計


設問イで何が問われているか確認しましょう。

設問イの文章

設問イは「課題の解決のための情報システムの改善」が問われていますが、設問の文章で注目したいのは、次の2つです。

  • 「どのように」改善したかと問われている部分

  • 「解決できると考えた理由を含め」と指定されている部分

はじめに後者から見ていきましょう。


解決できると考えた理由

問題文ではどういった例が記載されているか確認します。

設問アでも確認した「飲料の製造販売会社」「車載機器製造会社」の例で、情報システムの改善内容が書かれています。

重要なのが上図で四角で囲った部分であり、設問でも聞かれている、「解決できると考えた理由」に対応する部分です。

つまり「解決できると考えた理由」とは、「DXの目的を達成できるから」と言えます。

設問イでは、設問アで述べた「DXの目的」を踏まえ、「このように情報システムが改善されることによって、DXの目的が達成できるから、課題を解決することになる」という論法で論述することが求められます。


どのように改善したか

次に、「どのように」改善したかという部分について解説します。

ここでは、単に改善策を述べるのではなく、改善策を策定するために「どのように」手順を踏んだかが重要になります。
問題文には手順の例が書かれていないので、受験者が自分の経験をもとに論じる必要があります。

よくある論述パターンとしては次の通りです。

  • 課題を深堀りして分析する

  • いくつかの改善策を比較し検討する


前者はたとえば関連する組織へのヒアリングなどが考えられます。
後者は改善策を列挙し、最終的に選定する時に、前節で説明した「DXの目的を達成できるから」と理由を述べれば説得力が増すでしょう。



情報システムの改善の例

私の場合はヒアリングを経て、単にIDをどちらかに揃えるという方法では解決しないことを示し、真の問題点を明確にして解決するというステップを論述しました。

情報システムの改善ステップの例

上図のように、独自にIDを活用した既存の業務(経理部と物流部)が存在することを示し、影響の無いように紐づけを利用者自身で行う案を採用したことを述べています。


設問イの骨子例

設問イの論文骨子の例を記載します。

■設問イ
 2.DXの推進を妨げる情報システムの課題と解決策
  2-1.課題の分析
  営業部、オンライン販売事業部、経理部、物流部にヒアリング。
  ①経理部の売上集計業務:
   本社の販売管理システムからはポイントカードID、
   ECサイトの販売管理システムからはサイト利用者ID、
   それぞれに応じた、管理会計に用いる売上情報を集計。
   経理部はIDごとにカテゴライズする台帳ファイルを独自に持っており、
   IDが変わると集計に影響が出る。
  ②物流部の在庫引当業務
   棚番割当ての独自ノウハウにサイト利用者IDを活用。
   サイト利用者IDが変わると棚出し業務に支障が出る。
  2-2.解決策の検討
  案① ポイントカードIDの氏名情報をもとにサイト
     利用者IDをポイントカードIDに寄せる
  案② サイト利用者IDの氏名情報をもとにポイント
     カードIDをサイト利用者IDに寄せる
  既存の業務に影響が出るためいずれも根本解決にはならない。
  →「ECサイトのログイン時に、利用者自身がポイントカードIDを
    入力してサイト利用者IDと紐づけるための画面を設ける」
    という案を採用した。
    いずれのIDも変更しないので既存の業務に影響が出ずに
    DXの目的を達成できるため。

 

設問ウの設計


設問ウで何が問われているか確認しましょう。

設問ウの文章

設問ウでは情報システムの改善における工夫ですが、設問文から気にするべき点としては「何のためにどのような」工夫を検討したかと書かれている点です。

問題文からも確認しましょう。

設問ウに対応する問題文

設問アから例示されている「飲料の製造販売会社」「車載機器製造販売会社」で対応している工夫の箇所を見ると次の通りです。

  • (何のために):購入者の行動履歴を把握しつつ個人を特定できないようにするために → (どのような工夫):情報の一部を匿名化

  • (何のために):業務横断でのデータの活用を推進するために → (どのような工夫):データ項目の意味を標準化

以上のように、設問ウでは「何のために」という目的を明確にした上で
目的を達成するための工夫を論じることが重要です。


私の場合は、DXのための新情報システムをクラウド上で構築することになったことに触れ、IDなどの個人情報をクラウド上で扱うことのリスクを課題としました。
課題を解決するために、複数の解決案を比較検討し、クラウド上では個人を特定する情報は扱わないという案を採用しました。


設問ウの骨子例

設問ウの論文骨子の例を記載します。

■設問ウ
 3.情報システムの改善への工夫
  3-1.改善にあたり生じた課題
 DXのための新情報システムをクラウド上に構築することになった。  この時、次の課題が生じた。
  課題① 個人情報の利用可能範囲を逸脱するおそれ
  課題② クラウド上に構築した新情報システムで個人情報を
      管理するとセキュリティポリシーに抵触してしまう
  3-2.課題解決のための工夫
  案①個人情報の利用目的を修正し、利用者に再告知する。
  案②クラウド上に構築した新情報システムでは個人を特定する情報を     扱わないようにする。
  案②を採用。案①は課題②を解決できないことに加え、
  利用者自身に予め同意を得る必要が生じ、迅速なDXの
  実現の妨げとなるから。


論文骨子

以上を踏まえ、論文骨子は次のようになりました。


■設問ア
 1.DXの目的と情報システムの概要、課題
  1-1.DXの目的
  スーパーマーケットのS社 店舗とオンラインの2つの販売チャネル
  DX目的:競争力向上のため全社の販売データを活用した販売戦略を
       立てられるようにすること
  1-2.情報システムの概要、課題
  店舗販売:レジ端末の入力データは本社の販売管理システムで管理。
       データにはポイントカードの利用者の氏名やポイント
       カードID、保有ポイントが含まれる。
  オンライン販売:オンライン販売事業部がECサイトを管理・運用。
          ECサイトの利用者にはサイト利用者IDを発行。
  課題:ID情報が別々に管理されていること。

■設問イ
 2.DXの推進を妨げる情報システムの課題と解決策
  2-1.課題の分析
  営業部、オンライン販売事業部、経理部、物流部にヒアリング。
  ①経理部の売上集計業務:
   本社の販売管理システムからはポイントカードID、
   ECサイトの販売管理システムからはサイト利用者ID、
   それぞれに応じた、管理会計に用いる売上情報を集計。
   経理部はIDごとにカテゴライズする台帳ファイルを独自に持っており、
   IDが変わると集計に影響が出る。
  ②物流部の在庫引当業務
   棚番割当ての独自ノウハウにサイト利用者IDを活用。
   サイト利用者IDが変わると棚出し業務に支障が出る。
  2-2.解決策の検討
  案① ポイントカードIDの氏名情報をもとにサイト
     利用者IDをポイントカードIDに寄せる
  案② サイト利用者IDの氏名情報をもとにポイント
     カードIDをサイト利用者IDに寄せる
  既存の業務に影響が出るためいずれも根本解決にはならない。
  →「ECサイトのログイン時に、利用者自身がポイントカードIDを
    入力してサイト利用者IDと紐づけるための画面を設ける」
    という案を採用した。
    いずれのIDも変更しないので既存の業務に影響が出ずに
    DXの目的を達成できるため。

■設問ウ
 3.情報システムの改善への工夫
  3-1.改善にあたり生じた課題
 DXのための新情報システムをクラウド上に構築することになった。
 この時、次の課題が生じた。
  課題① 個人情報の利用可能範囲を逸脱するおそれ
  課題② クラウド上に構築した新情報システムで個人
   情報を管理するとセキュリティポリシーに抵触してしまう
  3-2.課題解決のための工夫
  案①個人情報の利用目的を修正し、利用者に再告知する。
  案②クラウド上に構築した新情報システムでは個人を特定する情報を
    扱わないようにする。
  案②を採用。案①は課題②を解決できないことに加え、
  利用者自身に予め同意を得る必要が生じ、迅速なDXの
  実現の妨げとなるから。



まとめ

いかがでしたでしょうか?
本記事ではシステムアーキテクトの午後II(論文)対策として、令和5年問1で出題された論文の書き方を紹介しました。
DXというキーワードが登場したので驚いた受験者の方もいたと思いますが、よく問題文を読むことで求められていることは従来のシステムアーキテクトの試験とさほど変わらないことが理解できると思います。


また、他の区分・過去問の【論文の書き方】の記事については以下リンクを参照ください。

論文の書き方 カテゴリーの記事一覧 - スタディルーム by rolerole


今後も、【論文の書き方】記事を充実して参ります。ではそれまで。

論文全文について

ここまででも十分考え方はお伝え出来たかと思いますが、論文全文を参考にされたい方は有料とはなりますがこの先をご購入ください。

※なお、メンバーシップ(システムアーキテクト合格支援コース 月額800円)にご加入いただければ本記事以外のSA対策有料記事も読み放題となり、さらに専用フォームからのご質問もし放題となります。ぜひご検討ください。

■設問ア
1.DXの目的と情報システムの概要、課題
 1-1.DXの目的
 スーパーマーケットのS社は北陸・東北地方に展開し、
店舗とECサイトによるオンラインの2つの販売チャネ
ルを持っている。S社の経営陣はこのたび経営方針とし
てDXを推進することを掲げているが、目的は競争力向
上のため全社の販売データを活用し販売戦略を立てられ
るようにすることである。具体的には、店舗販売とオン
ライン販売を連携させたキャンペーンを打ち出すことに
より、双方の販売チャネルの顧客数を伸長させ売上向上
を狙うことなどが考えられた。
 私はS社のシステムアーキテクトとして、DXの推進
を支援した。

ここから先は

2,262字
この記事のみ ¥ 490

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?