コミュニティを深めるなら、「リソースフルすごろく」をつくろう
【19/10/31 追記】最新版「リソースフルすごろく」の記事を公開しました!
最近すごろくをしたのは、いつのことだか覚えていますか? 5歳の娘がいる兼松家では、すごろくを自分たちでつくってけっこう遊んでいます。
運任せなので子どもでも大人でも対等なゲームであることが一番の理由ですが、自作をオススメしたいのは、たまたま同じところに止まったらハグ、ベッドマークでは一回休み、飴ちゃんマークでは3コマ進む、三重丸マークのところでは魔法の力で(理不尽にも)「一位とビリを入れ替える」などなど、オリジナルのルール作りが楽しいからです。
そんな家族での経験、そしてこのあとご紹介する「当事者研究スゴロク」で実感した経験から、今回は信頼関係を深めるコミュニティづくりのツールとしての「すごろく」づくりについて、まとめてみたいと思います。
意外と深い「すごろく」の歴史
今やボードゲームの定番となっているすごろく。その歴史をとりあえずWikipediaで調べてみたのですが、いやー、意外な深みがありました。
そもそもすごろくは、3500年前のエジプト発祥とされるバックギャモンのような「盤双六」と、私たちに馴染みのある「絵双六」に大きく分かれるそうです。盤双六は日本では古くから賭博に用いられ、『日本書紀』によれば689年に持統天皇によって禁止令も出されています。
また、絵双六についてはこちらの講演記録も参考になりますが、江戸時代の旅行ガイドになったり、明治時代の教育勅語に利用されてきました。「絵双六は、社会状況、時代状況と極めて密接な関係をもって作られてきたものである」というところに、その真価、使い勝手のよさが詰まっているような気がします。
ちなみに僕が特にWikipediaで反応したのは、
5世紀はじめに漢訳された『涅槃経』に見える「波羅塞戯」(はらそくぎ)が盤双六のことであるという。「波羅塞」はサンスクリットprāsaka(さいころ)の音訳。
というところと、
最古のものとされる浄土双六には絵の代わりに仏教の用語や教訓が書かれており、室町時代後期(15世紀後半)には浄土双六が遊ばれていたとされる。
というところです。「浄土双六」とは極楽浄土を目指すすごろくで、最初の絵入りの双六なのだそう。
もっと前の13世紀には既に、天台宗で仏法を新弟子に教える目的で考案された絵無しの「仏法双六」も存在したようですが、とにもかくにも僕が強い興味を持っている仏教とすごろくは、切っても切れない関係があったのでした。(この記述を見つけたとき、鳥肌が立ちました)
すごろくの秘められた力
そんな人類にとって普遍的な遊びであり、学びのツールでもあるすごろくを、現代の参加交流型ソーシャル・ゲームに発展させた一例が、観光家/コモンズ・デザイナー/社会実験者のむつさとしさんが考案した「当事者研究スゴロク」です。
まず、「当事者研究」とは次のようなものです。
【当事者研究について】
北海道浦河町にある「べてるの家」と「浦河赤十字病院精神科」ではじまったアセスメントとリハビリテーションのプログラムである。精神障害当事者の幻聴や幻覚は「治さないといけない病気」ではなくて「その人なりの自助」であると捉えるところに特徴がある。そして、それらを開示し、仲間や関係者と一緒に考えて、さらに「その人なりの生きやすい自助」のパターンを見つけようとする研究のことを指す。
もう少し具体的な研究の一例を挙げれば、べてるの家では精神障害当事者の若者Aが来て、幻聴に苦しんでいるとすると、その幻聴を「幻聴さん」と擬人化して客人のように扱う。そして幻聴が聞こえたとなると、その場にいる精神障害の当事者全員で、その場には見えない幻聴さんに向かって話かけていく。
(...)
これは幻聴という病状がなくなったわけではないので、医学的な「治療」ではない。依然として幻聴は聞こえ続ける。しかし、暴力的、自虐的な幻聴を、みんなで幻聴さんとして迎え入れると、なぜか優しい幻聴さんになってくる。べてるの家の独特の言葉で表現すると、これは「幻聴さんと友達になった」という状況を指す。こういった自分の病気やダメとされる部分…「弱さ」を治そうとするのではなくて、その「弱さ」を受け入れて抱えたまま、みんなで活かしていくことを当事者研究という。
当事者研究スゴロクについて
そして、「精神障害の現場で発生した当事者研究という考え方や思想に共感、インスパイアされて作られた人生スゴロク」が当事者研究スゴロクなのです。
遊び方はオープンソースで公開されていますが、むつさんがまとめた効果・ねらいをいくつかピックアップしてみます。
【当事者研究スゴロクの効果・ねらい】
①過去にあった人生スゴロクの大部分が「上昇していく生き方」を目指すが、当事者研究スゴロクは「下降していく生き方」こそが人生の醍醐味であると捉え、衝撃的な失敗、苦労、挫折の持ち主を「人生の偉大なる先達」「下降人生の達人」として褒め称える。
②失敗・挫折・苦労エピソードを話すが、その「稀少レベル」「衝撃レベル」をみんなで評価することで、自分の失敗、挫折、苦労を「大変だと思ってたけど3コマぐらいなんだ…(自分の失敗や苦労や挫折なんてまだまだである)」とか「6コマレベルですごいといわれた!(失敗のエピソードだが、人生の達人と褒められた。嬉しい)」といったように相対化できる。
当事者研究スゴロクについて
いかがでしょう、ちょっと楽しそう、と思いませんか?
実は先日、京都精華大学の授業にむつさんをゲスト講師としてお招きし、当事者研究スゴロクを実演したいただいたのですが、思っていた以上に学生がオープンに過去の経験を共有してくれたり、「恋人に賭け事にされる」といったエピソードが「3コマすすむ」にすぎなかったことで思わず笑顔になったり、とても豊かな時間となっていたようでした。
ゲームで遊ぶ時間だけでなく、つくる時間も楽しい。何より、すごろくをつくるためにインタビューしあう小一時間くらいのワークによって、コミュニティがさらに深まっていく。この授業でますます、すごろくづくりのポテンシャルを確信したのでした。
「リソースフルすごろく」のすすめ
そこでみなさんに提案したいと思っているのが、「beの肩書き」「スタディホール」につづく、勉強家のワークショップシリーズ第③弾「リソースフルすごろく」です。
以下のスゴロクの盤と、
次の☆★①〜③、♡♥①〜③、△▲①〜③をまとめた「☆♡△シート」
を使ってゲームを進行します。
例えば、♥②にプレイヤーのコマが進んだら、メモの♥②に書かれている内容を共有する、という流れです。
先に図の説明をしておきます。
小話のマスはチェックインです。すごろくをつくった人との出会いや馴れ初めを軽く共有します。
☆★のマスは「衝撃エピソードの共有」です。当事者研究スゴロクに倣って、エピソードの衝撃度を数値化したものが「◯マスすすむ」となります。
♡♥は「偏愛クイズの出題」です。偏愛マップと嘘つき自己紹介を組み合わせて、それぞれが偏愛するものをクイズとして出題します。間違ったら一回休みです。
△▲は「ニーズの表明」です。ギフト・サークルに倣って、それぞれのニーズ(困りごと、頼りたいこと)を表明し、それを解決できそうなギフト(ニーズに対して参加者が貢献できること)を引き出します。
全員がゴールしたら、もったいないので誰も止まらなかった残りのマスの内容もシェアし、最後に残りの3名それぞれに「その人に貢献できそうなこと」をメッセージカードに書いて交換して、ゲーム終了です。
24マスしかないので、すぐに終わってしまうのでは?と思ったかもしれませんが、各マスで1分ずつなどしっかり時間を確保してほしいなと思っています。複数のプレイヤーが同じマスになったとしてもサクッと次に進まずに、もうひとつ掘り下げて対話をしてみてください。
感覚的にはすごろくづくり2時間、プレイ1時間半、チェックイン/アウトをとすると、4時間くらいがちょうどよいかなと思います。となると少し長いので、つくる日とプレイする日を分けた方が現実的かもしれません。
続いて、コミュニティすごろくをつくる段取りをご説明します。
〈コミュニティすごろく〉のレシピ
4人一組になります。A、Bの2ペアに分かれ、それぞれAすごろく、Bすごろくをつくります。(最終的には4人全員でAとB両方のすごろくで遊びます)☆♡△がA、★♥▲がBのマスで、それぞれ3つずつ担当します。
STEP1〜3までありますが、お互いインタビューを重ねて、「☆♡△シート」を完成させてゆきます
STEP1 ☆★マスをつくる(45分)
②衝撃のエピソードを思い出すために、個人ワークとして人生グラフを書きます(10分)
③あなたの人生に大きな影響を与えた衝撃エピソードを3つ選んで、書き出します。(10分)
当事者研究スゴロクでは失敗・挫折・苦労のエピソードだけですが、ここでは☆★①人生のハイライト、☆★②失敗・挫折・苦労、☆★③失敗・挫折・苦労にしようと思います。
例
☆★①〈人生のハイライト〉松長有慶猊下へのインタビューが実現!
☆★②〈失敗・挫折・苦労〉中学生のとき、万引きでつかまって親を泣かせた
☆★③〈失敗・挫折・苦労〉夫婦喧嘩のストレスで顔が帯状発疹のまま人前に
④書き出したエピソードを共有します(7分半×2人=15分)
⑤「稀少レベル」を3段階で評価します(10分)
よくある失敗、挫折、苦労は「1コマすすむ」となり、「聞いたことのない失敗、とんでもない挫折、想像を絶する苦労」は最大「3コマすすむ」となります。
STEP2 ♡♥マスをつくる(45分)
①事前宿題だった偏愛マップを共有し、クイズにしたいテーマを3つ選びます(5分×2人=10分)
そのうち、2つは自分で、1つは相手が選ぶ、でもいいかもしれません
②クイズにしたいテーマについて、ストーリーテリングをします(7分半×2人=15分)
③2択クイズをつくります。(10分×2人=20分)
例
♡♥① 兼松さんは空海が好きですが、空海を知ったきっかけは次のうちどれか
1. 尊敬する先輩たちのあいだで流行り始め、「空海を読まなきゃもぐり」という空気になった
2. 空海についてのドキュメンタリー番組での、「欲望を肯定する」というナレーションにビビビっときた
♡♥② 兼松さんは言葉遊びが好きですが、人生で思い出に残っているしりとりはどれか
1. ありそうでない乗り物しりとり
2. いそうでいない動物しりとり
♡♥③ 兼松さんは連珠(五目並べ)が好きですが、連珠にハマりすぎてうっかりしてしまったことはなにか
1. 京都連珠会に道場破りをして完敗
2. 講演会のあと、打ち上げまでの30分の待ち時間もプレイ
STEP3 △▲マスをつくる(20分)
①いま困っていること、助けてほしいことを個人ワークで3つ書き出します(10分)
②その理由も含めて共有します(10分×2人)
例
△▲① ワークショップの実験につきあってほしい
△▲② 40歳以降のキャリアについて相談にのってほしい
△▲③ 子どもが小学校に入学するときに考えておいたほうがいいこと、用意しておいたほうがいいことを教えてほしい
以上です。おつかれさまでした!
やってみて気づいたこと
「beの肩書き」のときは、最初の実験は大学の授業であり、続けて家族、ご近所コミュニティと少しずつ拡げてゆきました。
今回の「コミュニティすごろく」はまだまだver0.1であり、娘との実験一回だけなので、これから少しずつ試してゆきたいと思っています。
(ちなみに5歳の娘のニーズは「かさおばけがじょうずにかけるように」だったりして、抱きしめたくなりました)
ぜひみなさんも仲間同士、恋人同士、家族同士でもっと深い話をしたいと思ったときは、コミュニティすごろくをつくってみませんか? ぜんぶやると大変なので、☆か♡か△かひとつでもかまいません。
一緒に遊ぶ人がとても身近で、自分にとって大切な人であればあるほど、きっとまだまだ知らない一面を知って、驚いたり、愛おしくなったりするはずです。
はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎