「ザ・モデル」 福田康隆
「ザ・モデル」で読んだことをメモ。
福田康隆さん
1972年生まれ。早稲田大学卒業。
1996年日本オラクル入社。
2001年米オラクル本社に出向。アメリカの営業と日本の営業の違いを知る。
2004年米セールスフォース・ドットコムに転職。マークベニオフと出会う。研修やSRの経験を経て、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの分業体制による営業を学ぶ。営業プロセスをシステムで管理する術を身につければ、大きな武器になると確信。
2005年同社日本法人に着任。アメリカでプロセス化した営業をもとに、SMB市場向けの組織づくりとオペレーションを実践する。しかし、新規リードが永遠に増え続けることはない。65%にも及ぶ「将来購買の可能性はあるが、今すぐではない」層をいかに商談へリサイクル(循環)させるかが重要だと気づく。しかも、「失注と未商談リード」はこれ以上リード獲得コストがかからない。
2014年マルケト入社。代表取締役社長に着任。古くから存在するMA(マーケティングオートメーション)を活用し、ザ・モデルを完成させる。
プロローグ
2つの変化によって従来の営業が通用しなくなっている。以下、2つの変化を述べる。
<顧客の購買検討プロセスの変化>
顧客の購入、利活用に至る接点をプロセス化すると以下のようになる。
認知 → 興味 → 検索 → 比較検討 → 購入 → 利活用
以前:「顧客の調査・評価」は認知〜興味しかカバーしていなかった。興味〜購入においては、営業が進めていく形であった。だから、営業の人脈や代理店網の広さがそのまま差別化につながった。
現在:「顧客の調査・評価」は認知〜比較検討までをカバーする。営業は比較検討〜購入を進める役割になる。
つまり、製品・サービスの導入検討の主導権が売り手の営業から、買い手の消費者に移ったのである。
ちなみに、人は1日5000ものマーケティングメッセージを目にしているという。しかし、そのような実感はない。いかに「記憶に残る」メッセージが課題であるとともに、主導権が買い手にある現状がよくわかる。
個人的なメモだが、「今後はデータを持っている企業が勝つ」というのも、大きな理由はこれだろう。つまり、顧客が企業に対して優位に立っている今、顧客に関するデータの量は、顧客の購買に寄り添う質の高さに比例する。GAFAが強い理由の1つは膨大なデータ量。日本企業はどう勝つか。
<ビジネスの成長の変化>
企業においても事業が成長していく変化や時間軸を意識する必要がある。
頭に入れておかなければならないのは「営業効率には限界がある」ということだ。SFAを導入することで受注率は向上する。しかし3割に向上しても6割、7割とまで上がっていかない。受注率など量的な壁、リード獲得を目指して人数を増やした時に生じる質的な壁を鑑みると、売上を2倍にしたければリードは4倍〜必要になる。
そこで解決策が「リサイクル」
未商談、失注、未フォロー既存顧客をリードに戻して循環させることだ。これにより、上記の問題点を解決できる。
<分業の副作用>
分業の副作用についても述べておく。
営業プロセスの分業のメリットは、それぞれの専門性が高まり効率が上がること、課題の場所が可視化されることにあった。
しかし、営業が行き詰まった時にほころびが出る。なぜなら、人間はグループに別れた途端、敵対するからだ。
対立する2つのグループの関係を改善するのに最も有効なのは、共業である。共通の目標に向かって共同で作業させることだ。
営業のプロセスでは、「売上向上」という共通の目標を全員に持たせ、共同作業させることが有効だ。「逆の流れ」(フィードバック)を生み出す仕組みがこれを可能にする。
プロセス
プロセスとは何か。
本書では、「顧客ステージの遷移を的確に進めるために、複数の部門が連携してどのように顧客ステージを管理し、適切にアプローチしていくかのルールをまとめたもの」とする。
ちなみにプロセスの導入にあたり、プロセスを動かすのが人である限り、ヒューマニティーを無視してはいけない。
顧客ステージを設定する上で重要な概念が3つある。「チャネル」「施策/コンテンツ」「移行判定基準」だ。(下図)
企業と顧客のコミュニケーションによって顧客を次のステージに動かす。ステージを移行したかどうか客観的に判定する指標となるのが移行判定基準である。コミュニケーションとは、伝えたいメッセージを「コンテンツ」化し、オンライン・オフライン問わず様々なチャネルを通して行われる。
以下、これらのステージを支える「マーケティング」「インサイドセールス」「営業」「カスタマーサクセス」の4つの役割についてまとめる。
マーケティング
現在、マーケティングはカスタマージャーニー全体をサポートする役割に変わっている。
マーケティング部門は指揮者として施策をオーガナイズする必要がある。なぜなら、顧客行動は増え、顧客はさまざまなチャネルを自由に行き来するようになったからだ。
最も大きな変化が起きているのはマーケティングコミュニケーションだ。MAというデータを活用したプラットフォームが登場したことで、見込客について推測するための情報が格段に増えた。
情報の収集と選択の主導権が顧客にある今、顧客のステージに応じて情報提供するやり方が主流になっている。自社のウェブサイトに訪れた顧客に対し、顧客の情報と引き換えに自社の情報を提供するような「門を閉ざす」やり方では通用しない。
<マーケティングのステージ設計>
ステージ設計のポイントは「測定可能にすること」だ。マーケティングのステージ設計例は以下の図。
いきなりステージをとばす「ファストパス」なるものも存在する。
営業の訪問や商談の段階で脱落したリードを再度「リード育成」にリサイクルさせる「迂回路」も作っておくべきだ。
<マーケティングコミュニケーションの役割>
マーケティングコミュニケーションの目的は、見込客を次のステージに移行させることだ。ステージごとに有効なチャネルをマッピングしておくことは有効である。
<マーケティングの評価指標>
現場と経営層の目線の違いは頭に入れておかなければならない。ステージ、チャネル、施策の概念を整理し、経営層、各部門長、担当者のそれぞれがどの指標をみるべきか整理することが重要だ。
インサイドセールス
実際にコンタクトをとるインサイドセールスの仕事は時間が限定される。したがって、どれだけ業務効率を上げられるかが成果に直結する。
<MAの登場によって高度化されたインサイドセールスの変化>
まず、リードスコアリングがある。フォローすべき基準を満たすリードを選別する仕組みで、MAが提供する代表的な機能の1つ。
リードスコアリングは以下の2つの観点から行う。
属性スコア:企業規模、業種、役職など属性情報(理想的なターゲット)
行動スコア:ウェブサイトへのアクセス、コンテンツのダウンロードなど行動情報(購買意欲)
実は属性スコアの精度を高めることのほうがはるかに重要。ターゲット企業でなければ時間を費やす必要がないからだ。
また、絶対値ではなく閾値の設定が鍵になる。範囲を狭めないためだ。
スコアリングを設定する時のポイントは、「こういう行動をとる人は購買意欲が高いとみなせる」という逆算思考。差別化につながる。
次に、リードフォローのタイミングだ。リードソースごとに、適切なフォローのタイミングを設定して自動でアプローチをかけることもできる。
次に事前情報だ。顧客に関する情報の質が高まった。
最後にリサイクルリードである。「将来購買の可能性はあるが、購入は今ではない」という65%の層をいかに商談化するかが重要になる。そこで、MAでは、「検討が半年先」「予算がない」「ヒアリングしたがニーズがなさそう」など理由を分類しリサイクルに回すと、効率的な仕組みが構築できる。
<インサイドセールスのステージ設計>
現場の負担、更新の精度を考え、必要最低限のステータス管理にとどめておくのがよい。
個別のリードではなく、リードのステージという固まりで考えるとフォローの優先順位がつけやすくなる。
<リードアサインの運用ルール>
インサイドセールスのオペレーションに欠かせないのは、細かい点まで想定した運用ルール。事業の成長につれてリードが増えるとインサイドセールスの人数も増える。同時に辞める人も増え、人の入れ替わりが激しくなる。誰がどのリードをフォローするかのルールを明確に決めること、偏りを作らないようにすることが重要だ。
単にルールを決めるだけでなくマネジメントが細かい点まで目を配り、実態との乖離がないかチェックすることが重要。
<インサイドセールスの役割>
インサイドセールスを単にアポイントや商談作成のための組織とみていては価値をフルに発揮できない。
自社製品はどのようにみられ、見込客はどのような製品や情報を求めているかなど市場の肌感覚を掴むこと、経営陣にフィードバックすること、顧客との最初の接点として会社のメッセージ、製品の内容を正しく伝えることも重要な役割になる。
また、インサイドセールス立ち上げ時には営業として一線級のリーダーを任命するべきだ。将来の拡大を見据えて基本的な「型」を作る、顧客の本質的な課題を察知する、社内に建設的にフィードバックする、などインサイドセールスの立ち上げは非常に重要な役割となる。「俺が俺が」という自分中心の人ではなく、組織のために働く献身的な人材がふさわしい。
さまざまな役割を紹介したが、インサイドセールスの真の役割は「商談供給の調節弁」である。
営業は常にこう思っている。
①営業が持っている商談が多い時は、確度の高い案件に絞って欲しい
②商談が少ない時は、多少柔らかくてもいいから早めに営業に渡して欲しい
つなぎ目で起きていることに目を配らなければならない。
営業
<商談のフェーズ管理>
「商談」というステージの中は、さらに細分化してフェーズ管理を行い、パイプラインやフォーキャスト(予測)の管理を行う。
以下は、一般的なITソリューションの商材をモデルにしたフェーズ管理の一例だ。当然のことだが、自社の商材や営業の進め方を研究し、自社にあったフェーズ管理をするべきである。
○フェーズⅠ 「リード以上商談未満」
何をもって商談と判断するのかの基準は決めるべき。
○フェーズⅡ 「ビジネス課題の認識」
営業活動プロセスの中で最も重要。
購買検討フェーズを表現する時に使われる「不信、不要、不適、不急」の中で、「不要」を突破する段階。課題を持っていることがわかっても、顧客がそれを本当に解決したいと思わなければ先に進めない。ここが突き詰められていないと、後工程になって響く。
「顧客のビジネス課題(ビジネスイシュー)」「問題点(プロブレム0」「解決策(ソリューション)」「効果(ベネフィット)」で整理すると、顧客の課題が明確になる。
また、顧客の中でも経営層と担当者では認識のギャップが起きやすい。経営層がその課題を解決したいと思わなければ意味がない。早めに経営層に会うべき。
○フェーズⅢ 「評価と選定」
顧客は競合と比較を行うため、営業はコストだけでなく自社の強みを活かした提案をする必要がある。つまり、選定条件を自ら作り出すことが必要だ。
自社と競合でそれぞれ強みと弱みをかけたマトリクスが有効なフレームワーク。
提案で大事なのは一般論ではなく「当該顧客において」。「その」顧客だからこそ自社の「この」強みが活かせる、という提案が大事。
○フェーズⅣ 「最終交渉と意思決定」
このフェーズの移行判定基準は、正式に稟議プロセスを開始してもらうこと。
営業は「Mutual Close Plan」を提案することが大事。「Mutual Close Plan」とは、自社と顧客の双方で、契約までに必要なタスクをリストアップした一覧表。
また、非生産的な営業時間を最小にするべき。価格提示のミーティングは、結局持ち帰りになることが多い。そのような交渉は、対面である必要がない。
○フェーズⅤ 「稟議決裁プロセス」
高い確率で受注に結びつく。しかし、一定の確率でフェーズ後退、失注となる。それを防ぐために必要なのは「リスク検知能力」に尽きる。
リスクを検知するためのチェックポイント例がいくつか存在する。
「最終承認者は誰か」「発注書へサインする人は誰か」「稟議決裁は電子承認か、紙での回覧か、口頭承認でOKなのか」などである。
<パイプラインミーティング>
実績をあげている営業はパイプラインの数字に敏感である。
パイプラインの数字に対する感度を上げるために、2点意識すると良い。
①「時間軸」
平均商談日数が60日だとする。3月1日に初回訪問をすると、受注できるのは理論上4月30日である。この感覚は重要。
②「確率」
受注率が25%だとすれば、「1件の受注」は「3件の失注」を意味する。つまり、20件商談を持っているとすると、1件受注した時に残りの商談は「16件」しかないという感覚が重要である。
<フォーキャストミーティング(予測)>
フォーキャストミーティングの目的は、当月や当四半期など短期の売上目標に対しての進捗を確認することだ。
商談フェーズ管理は、商談の現状を正しく理解するためのものであり、フォーキャストの読みは必ずしもフェーズとは一致しない。
運用の際は、たとえば以下のようにフェーズとマッチさせる。
フェーズⅡ・・・「パイプライン(商談初期段階で数字としては読めない)」
フェーズⅢとⅣ・・・「アップサイド(数字の上振れ要素になる商談)」
フェーズⅤ・・・「コミット(数字の読みとして固い)」など
しかし、ただフェーズに合わせただけでは受注直前になるまで数字としてコミットしないのか、ということになる。
ある程度フォーキャストで主観が入る分、フェーズ管理の客観性が非常に重要になる。
フォーキャストは、アグレッシブになりすぎて下方修正する羽目になるのもダメだが、コンサバになりすぎて投資に抑制がかかることも許されない。誤差については、上に10%、下に5%の範囲なら許されるだろう。「challenging but achievable」な目標が大事だ。
カスタマーサクセス
SaaSのモデルになると、ベンダー側は毎年の契約更新をしてもらわなければ採算がとれない。一方、ユーザー側も導入したからにはきちんと成果を出したい。カスタマーサクセスは、双方の利害が一致したところに生まれた部署であるというのが画期的であり、競合他社との差別化につながった。
下図の全体の総称がカスタマーサクセスである。
顧客がマチュリティカーブ(活用成熟度)のどの段階にいるのかは、データと主観、オンラインとオフラインを組み合わせた分析が有効である。
これまで顧客がステージを移行していくプロセスについて述べた。理想系は終点がロイヤルカスタマーという直線的なモデルではなく、ロイヤルカスタマーから再び認知拡大へのつながっていくループ型である。