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『三つ子の魂、百まで』vol.3

ビギナーズラック

野菜作りを始めた場所は、何年も手付かずで放置されっぱなしだった。田畑で使われていた訳でもない荒れ地を畑として使える様にする為、先ずは片付けと整地作業から始めた。整地が終わるとその場所をぐるりと囲むように獣避け対策の柵を張った。

過疎化が進む里山では人間よりも獣の方が多く、柵を設けないと獣に農作物をやられてしまう。集落の人曰く、ほんの20年前までは向こうの山まで見渡せるほど山の全てが畑として利用され、人間が山を管理していたらしい。

パワーバランスが変わり、人間が住みづらい環境になってしまったのかも知れないが、僕はそれよりも動植物たちの回復力の凄さにとても感心した。

全てが初めて尽くしで鍬の振るい方すら知らなかった。力任せに振るもんだから直ぐにへばってしまう始末だったが、汗水垂らしてやってる内に生きている実感みたいなものが込み上げてきて心地好かったのを覚えている。あれから5年の歳月が経った今、少しは上達したかな。

落ち葉を土に漉き混み畝立てを終えてようやく野菜の苗を定植。キュウリ・ナス・トマト・ズッキーニなど、自分達が食べたいものをやたらと植えた。後は自然に任せて、よぼどの日照り続き以外は水やりもしなかった。トウモロコシのみハクビシンに採られてしまったが、最初の年は天候にも恵まれ、どの野菜も程々に収穫できた。

自分達で作ったものを自分達で食べる喜び、自然のままにできた野菜の味に感動した。最初に上手く出来すぎてしまい、野菜作りなんて簡単じゃんと鼻高々に思ったのも束の間、それが単なるビギナーズラックだと知るのは2年目以降の事である。

竹やぶとの格闘

お盆が過ぎて涼しくなってくると野菜作りは冬の準備に取り掛かり始める。小さく手狭な畑一つだったので、次の年以降も見越してもう1つ畑を別の場所の作る事にした。

元は田んぼで米作りをしていた場所が放置されて竹やぶ化していた。重機もないので独り人力で開墾。笹竹を地上部で刈り取り、鍬とツルハシを使い竹の根を掘り起こしていく。地下茎で広がる竹の根っ子は予想以上に手強く、途中、何度も心が折れ掛かったが、なんとか畝立てまでやり切った。

あの時の達成感と充実感はこれから先も忘れないだろう。機械を使ってパッと終らせれば楽なんだろうけど、あの頃の僕はなんでも昔の人の様に人力手作業でやってみたかった。

工夫すればどんな事でも人の手で出来るんだという事実を経験し、日を追う毎に自分の心が研ぎ清まされ豊かになっていく事が嬉しかった。

自分の足で立ち、自分の手で命を育み、食べる事で自分が色んなモノに生かされている事に気付けた。それがどんなに豊かな事なのか東京時代の自分には知る由もなかった。

つづく

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