第二十一話 個人事業主の節税
さてさて、前回は「経費」についてお話ししました。節税の一つとして、経費の割合を増やして所得額を減らすとよい、ということでした。今回はその補足と、その他の控除を利用して個人事業主ができる節税についてお話しします。
①専従者給与
経費の中に、家族への給与を必要経費にできる「専従者給与」を計上できると言いましたが、もう少し詳しくお話しします。「専従者」というのは、事業主の元で働く家族従業員(配偶者や15歳以上の子供など)です。お店の従業員として働いたり、経理事務を担当するなどのケースもあると思います。
特に青色申告をする事業主の専従者給与は全額を経費として扱うことができます。その他の従業員に対する給与は、源泉徴収して天引きした額を経費にしますが、専従者給与はそれも必要ありません。月20万円なら年240万円を経費に計上できます。
白色申告の場合は、一部、経費にすることができます。配偶者は86万円まで、その他の家族は50万円までです。
ただし、専従者給与を1円でも受け取った家族は扶養家族には入りません。つまり、38万円の配偶者控除や扶養控除などは受け取ることができません。でも個人事業主にはもともと扶養の考え方はありません。国民年金は一律保険料がかかりますし、国民健康保険は世帯合算所得で計算するので、サラリーマンのように「103万円の壁」や「130万円の壁」のことは考えなくていいのです。
また、所得税の税率には段階がありますが、事業主と専従者の税率をなるべく近くした方が良いとの計算が出ているようです。両者の”乖離”が少ないほどトータルの納税額が安くなるそうです。
②開業費
開業届を提出して事業を始めることになると思いますが、開業日までに準備としてお金を使うこともあるでしょう。打ち合わせ費用、旅費、通信費、広告宣伝費、パソコン購入費など。こうした費用は「繰延資産」という資産の科目で一旦処理し、その後毎年経費として償却できます。
ただし、一つあたり10万円以上のものは、固定資産になるため、開業費としては認められません。また、開業して帳簿を付ける前の段階ですが、レシートや領収書などはきちんと保管しておく必要があります。
③青色申告特別控除
青色申告をすることで最大65万円の控除が受けられます。詳しくは青色申告の回をご覧ください。
④小規模企業共済
「小規模企業共済」は「中小機構」という国の機関が運用している、自営業や個人事業主向けの退職金積立制度です。なんと掛金が全額所得控除の対象になります。小規模経営者は、サラリーマンと違って退職金は自分で用意しなければなりません。経営も、いつ何があるかわかりません。そんな人の強い味方なんです!
毎月の掛金は1,000円〜70,000円の範囲で500円刻みで設定でき、手続きすれば変更もできます。つまりMAX84万円を小規模企業共済掛金控除として所得から控除できるのです。また、65歳以上の受取金は、退職金として、または公的年金扱いで”安い税金で”受け取ることができます。トップレヴェルの税制優遇なのです。
集められた掛金は、約8割を”安定資産”と言われる「国内債券」に投資、運用されます。ただ積み立てるのではなく、将来増えて受け取ることになります。予定利回りは約1.0%なのですが、節税効果と合わせると実質利回りはもっと高いでしょう。税制優遇されて投資ができるといえば「NISA」や「iDeCo」を思い浮かべる人もいると思いますが、小規模共済では投資先を選べないことを考えると、「NISA or iDeCo」+「小規模共済」で組み合わせるのもアリです。
ただし、廃業して退職金を受け取る以外の理由で、20年以内に解約する場合は”減額”になってしまう場合があります。経営に波があって、掛金が払えない時期があったとしても解約するのではなく、月1,000円などに変更して継続し、持ち直したら掛金を上げるなどすればいいのです。こんなことは民間の保険会社にはできない芸当ですよね。
また、納付した掛金残高の範囲内で、事業資金の借り入れをすることができます。しかも無担保、無保証!金利は年1.5%です。資金繰りにも配慮してくれているのです。
⑤経営セーフティ共済
こちらも「小規模〜」と同様、中小機構が運用する制度です。取引先の事業所などが倒産して、お金を回収できなくなってしまったときに、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐ積立制度です。
掛金は月5,000円〜200,000円の範囲で選べます。そしてMAX240万円を必要経費に算入できます。取引先が倒産したらすぐに、無担保、無保証人で借り入れを受けることができます。貸付額の上限は、「回収困難となった金額」か「納付した掛金総額の10倍(最高8,000万円)のどちらか少ないほうの金額です。
解約した場合は、12ヶ月以上納めていれば8割以上、40ヶ月以上納めていれば全額が戻ります。すごいですね。
⑥租税公課
経費の回にもお話ししましたが、経費として計上できる、租税公課(そぜいこうか)として認められる税金があります。
租税 → 消費税、固定資産税、自動車関連税、印紙税、登録免許税など。そして個人事業主には個人事業税というものがかかります。年間の事業所得が290万円を超える場合は対象となります。納税した場合も、経費として計上できます。
公課 → 商工会、協同組合などの会費、組合費。印鑑証明書や住民票などの発行手数料、その他公共サービスにかかる手数料などです。
以上、個人事業主ができる節税についてのお話でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?