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夏を過ぎた頃のある日のエッセイ

 玄関を開けるとジリジリと太陽が肌を灼く。
もう9月だというのに真夏と変わらないどころか力を増したかのように太陽が地面を熱していく。
つい先日、台風だと騒いだばかりなのにと思いながら、私は郵便局へ行った。

 着くまで約5分。新品のサンダルの形のまま日焼けをしそうな日差しを受けながら汗を垂らして歩く。こんな日に限って帽子も日傘も持ち合わせてはいなかった。
こういう油断が熱中症に繋がるんだよなんて捨て台詞を飲み込んで目の前に現れた郵便局に早足で入った。
 涼しさに一息。このままここに居たいと思った途端に汗は冷えて極寒と化した。至って簡単な用事を済ませ、また太陽が焼くアスファルトに足を置く。

 次はバスで駅に向かう。
いつもの通り、バスは遅延していた。なんなら前のバスが10分遅延した挙句、私の目の前で発車していった。
次のバスまで15分、ジリジリ瀕死気味の蝉の鳴く中で待ってるのは心にも体にも悪い。バス停すぐのコンビニに入ることにした。

 店内目指すは冷凍スペース。身体は冷たいアイスを求めていた。
だがなんてことだろう、冷凍庫の中にはアイスの実もアイスボックスもない。
お気に入りのアイスが買えない。でも身体が冷めることはない。
諦めようと目線を上げるとフラッペのコーナーが眼前に広がる。
そういえば、ここのフラッペは買ったことなかったな。なんて思いながら棚を物色する。時間を逆算して飲みきれるか計算する。
 よし、と有名チョコレート店とのコラボフラッペを手にする。
そこからは手早く。お会計を済ませてマシンでフラッペを作り完成させる。
残り11分。イートインスペースで時計を眺めながらフラッペを啜る。

 もう夏なんて終わっててもおかしくないのになぁと考える。9月ってこんなにも暑かったっけと。
子供の頃の猛暑といえば30度がいいところだった。気づけば32度、35度、猛暑通り越して酷暑である。
台風の影響で一瞬涼しくなったけれど、まさしく瞬く間のことで、今日も太陽は元気いっぱい。人は疲労困憊。
 フラッペが底をついて、バスまで2分を切ったところで、そんな不毛な考えから抜け出して、日のさすバス停に戻った。

 バスは予想よりも早くついた。3分だけ遅延をしてバス停に着いた。いつもより早い。乗り込み音楽を聴こうとカバンを漁る。なんてこった、AirPodsを忘れた。私の精神安定剤と言っても過言でないイヤホン。今日の予定を思い返してみる。
外仕事とネイルサロン。外仕事での時間だけ耐えられればなんとか乗り越えられるはず。
けれど、考えれば考えるほどにいつもあるはずのものがない事実に息が上がり心臓の鼓動が早まる。薬以外にも精神安定剤は存在するのだ。
 スマホで格安イヤホン比較サイトを速攻で調べる。なんとか近所の店舗で手に入る、なんとか雑音を減らしてくれるイヤホンを求めて。
どうにか近隣店舗で代替品を手に入れられそうな事がわかり、一旦息をつく。
 駅に着いたバスから急いでおり、近所のダイソーに走る。
500円で精神を保てるなら安いものだ。ついでに買い出しも済ませ、安堵とともに店を出た。

 近くのカフェに入ると9割ほどの人で店内は混雑気味で賑わっていた。ひゅっと息を吸うのと同時にイヤホンを購入した自分を褒める事にした。
空いている席を確保し、アイスコーヒーを注文する。そこからは仕事の時間だ。
黙々と仕事をこなしていく。イヤホンは大活躍だ。予想以上に音も悪くない。集中力を上げてくれる精神安定剤。今後は予備の有線イヤホンはカバンから出さない事にしよう。

 きっと帰る時間にはネイルも綺麗になって、仕事も片ついて、ほくほくしながら帰路に着く事だろう。
蝉の声もきっと聞こえないくらいになっているはず。
涼しいとは言い難いけど、生ぬるい秋が来そうな外をきっと歩いて帰るのだろうと、思いながらこのエッセイを書いている。

 最後に怖いことは蝉爆弾が帰り道に落ちてないか、それだけである。

 

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