小説『FLY ME TO THE MOON』第13話 ミントチョコ
2人は公園に辿り着いた。
周りを確認し、注意しながら園内に入っていった。
この公園は住宅街から離れた場所にあり、
春には桜が咲き乱れ、秋には紅葉を楽しめると言う、
自然を生かしたピクニックの目的地としても好まれる場所。
当然ながら遠足にも使われる、言わば市民の憩いの場所だった。
公園に足を踏み入れると如月は、パイロンが言っていた
幼少の頃のおにぎり事件をうっすら思い出してきた気がした。
それでも負けず嫌いの彼女は『わかんない』と言い、歩を進めた。
憩いの場だけあって、ゾンキーもうろついているので、
木々に隠れつつ水飲み場を目指す2人。
水飲み場を発見。
くずかごを見るとペットボトルがあったので、
こんな状況で汚いとか言ってられないと、2人で目を合わせ、頷き、
口をつける所を入念に洗い、水を満タンに入れ、自分たちも
喉を鳴らして水を飲んだ。
視線の先に問題のUFO型の滑り台があった。
4方向に入口があり、全ては中央でつながっている。
その間、つまり4か所が滑り台となっているのだが、
UFOの形なので下まで滑り下りることはなく、途中で止まるような
なだらかなアールでできている。
そそくさとてっぺんに上り、たたたと走り下りてみる如月。
高校生ともなればタタタで済む程度の距離。
『うーん・・・どうだったかなぁ・・・・』
如月が思い出したくせにごまかしていると、パイロンが
『し!』と何かに気が付いたようだった。
如月も身をかがめて耳を澄まし、周囲を警戒する。
『誰かいるのかー・・・助けてくれないかー・・・』
UFOのトンネルから声がしたようだった。
トンネルをのぞき込むと、如月の鞄を奪った眼鏡に小太りの男だった。
『てめぇ小太りメガネ!鞄返せよ!』
姿勢を低くして右足を滑り込ませ、その後に上半身をほぼ水平にUFOトンネルに入れると、ひったくるように如月は自分の鞄を取り返すと、入る時の逆再生のように外へ出て中を確認した。
『うん、全部ある』
『逃げる途中で足をくじいたみたいで・・・
ここに逃げ込んだんだ・・・・』
そう言う男の足首をパイロンがそっと触れてみると、
小太りの男は『グギィッ!!!!』と唸った。
『折れてて申し訳ございません』
『そんな・・・助けてくれ、おいて行かないでくれ頼む』
小太りの男は必死になって頼んだ。
如月は鞄から千枚通しを取り出し、小太りの男に渡し、
『これ』と一言残し立ち去った。
UFOの中からは『そんな!まってくれ!
どうしろってんだこんなもんで!鞄盗んだだけじゃないか!
その仕返しがこれか!?あんまりじゃないか!頼む!助けてくれ!』
と悲痛な叫び声がUFOの中に響いた。
『睦月・・・私が足を折ったら・・・同じことする?』
『あなたが生きたいと願うなら、背負って走る、
生きることを諦めるなら置いていく』
『睦月らしくて申し訳ございません、行こう!もう少しだから』
ほんの2日で死ぬ思いをし、身をもって助けてくれた人や、
人でなしにも出会った。ゾンキーになる前の人も殺した。
動けない人を見捨てたりもした・・・・
睦月は凄い・・・こんな状況でも冷静な判断を失わない。
私はきっと一人だったらもう食べられてるか、
精神的に壊れてしまっていただろう。
いあ、彼女だって平気なわけがない・・・・
この状況下で平気でいられる人間なんかいるはずがない。
もしかしたら特別な人間なのかも・・・
色々な思考が頭を駆け巡るパイロンだったが、
やはり如月といると安心するのも事実だった。
ふと、パイロンが気づく・・・もしかしたらあの千枚通しは自殺用。。。
そこに如月の優しさを感じたりもした。
先ほど洗ったペットボトルを捨てて、
鞄からスポーツドリンクを出して少し飲んだ如月。
『やっぱさ、気持ち悪ぃよね』
『だね』
木陰を選びながら歩くと、少し涼しかった。
見通しの良い直線を歩く2人の周囲にゾンキーの影はなかった。
先ほどのパイロンの爆破が予想以上に効果を発揮していたのを再度実感したと同時に音に一番の反応を示す実データが取れたこととなる。
ちょっと先にコンビニの看板が見えてきた。
ゼウスマート
ゼウスシティに本社を構えるゼウスマートは
大小様々な店舗があり、大型店には家電や家具まである。
小型店は地域密着型の品揃えとなっており、
ゼウス全体を広くカバー、街を仕切っていると言っても過言ではない。
そのうちの1つ、ここのゼウスマートは小型店。
公園に遊びに行く人々に利用されている、まさに地域密着型だ。
木陰に隠れて周囲を確認するが、ゾンキーは見当たらない。
パイロンを見張りに立てて、如月が乗り込むことにした。
パイロンが外で異常を発見したら叫ぶことになっている。
『にんにちは~・・・・』
そう声で中に誰かいないか確認をしつつ、踏み入った。
特に荒らされた形跡はなく、綺麗に商品が残っていた。
通路を1本1本確認し、レジ裏のスタッフルームも確認、
トイレも確認するが、誰も居なかった。
安心し、鞄に食料と飲み物を詰め込んだ。
こんな事態でも焦ることなく、日持ちするものを中心に。
パイロンと交代して、今度はパイロンがリュックに
必要なものを詰め込んだ。
『これって泥棒で申し訳ございません』
『うん、罪悪感はあるよね、スリルはないけど。
荒廃した世界ならまだしも、まだ・・・始まったばっかりだし、
戻ることがあるのならお縄かもね』
『そうね、始まったばかりなんだよね・・・・
終わりは来るのかな・・・そもそも何が原因なのかな・・・
全然わからなくて申し訳ございません。てかお縄って言い回し古い。』
『私が知っているところだと、軍の生物兵器、未知の力、
謎のウィルス、呪い・・・そんなところかな。
このゼウスシティで考えると、呪いとか未知のチカラとか、
非科学的なものは削除かな・・・近未来的な街だし、
ウィルスとかそういうものへの対応って凄い技術や化学力で、
対応策は揃っていそうなんだよね・・・・消去法で行くと、
生物兵器・・・かなぁ・・・でも自分で作ったのなら
自分で治す方法は用意してあるはずだし・・・
映画っぽく考えるならばー・・・生物兵器が持ち出された的な。
あー!このアイスおいしー!私さーミントチョコさー
大嫌いなんだけどさーこれだけは許すんだよね、許すでおじゃる!』
『生物兵器が持ち出された?例えるならそれを使ってー・・・
誰が得するのかな・・・・わからなくて申し訳ございません』
『んとね、んとね、その症状を治す薬を作ってる会社とかだね、
例えばそー・・・まだ軍に納品せずに、この騒ぎを起こして、
治せるのはわが社だけだけれどどうする?薬買う?みたいな。
その薬が恐ろしく高く取引されて、苦しむ市民を高みの見物?
みたいな・・・・うまっ。あ、でも軍の中の研究室で薬作るのが、
一般的だとは思うけれど、観点を変えれば、A社の風邪薬が
何故か効果があると偶然発見されて・・・とかもあり得るって
話って話、ハムハム・・・うまっ』
『それは酷いですね、そうでないことは祈りたいですね』
『まぁ・・・ゾンビあるあるみたいな話だけれど、
無い話じゃないとは思うんだよね、あ、ごめん、ミントチョコ、
もうひとつ持ってくる!』
『真剣なんだかふざけてるのか睦月はもう・・・』
パイロンはアイスを取りに行った睦月を見て微笑むと、
そのアイスが気になって自分もコンビニに戻った。
このコンビニの電機は自家発電式らしく、アイスも
飲み物もキンキンに冷えたままだった。
だが相変わらず電波は入らず電話も通じない。
電話会社は麻痺していると言う事なのだろうか。
もう一度アイスを2人で開けて食べながら歩いた。
『このアイスCMでやってたよね』
『スースーするけどちゃんとチョコ~♪
だけどたっぷりチョコミント~♪
クゥ~!さわやかぁ~!!!ス~ス~ゥミントっ♪』
2人でスースーミントの歌を歌いながら
木陰を選び、縫うように歩いてパイロンの家へ向かう。
お散歩気分ではあるが、そろそろ家が増えてきたので、
アイスの棒をポイっと捨てると、武器を握りしめた。
『ポイ捨てってなんだか悪いって気はするけど、
気持ちいい気もして申し訳ございません』
『ブエー!なにこれマズゥ!!!!』
慌てて吐き出す如月に何を食べたのか聞くと、
パクチーポッキーだと言う。
『新商品に誘われたけどアカンでこれ、
私の遺伝子が嫌がっとるわ!遺伝子レベルで合わへん!
あれやあれ、カメムシの味すんで!
カメムシ食べたことないけどな!くちん中ガーッってもう
カメムシ祭りやで!』
『擬音出てるし関西弁だし、相当マズかったのね、
どれどれ、私にも1本頂戴』
そう言うとパイロンは口にパクチーポッキーを運んで、
小気味よくポリポリと食べ進めた。
『アカンてパイロン・・・・ウワァ・・・
くーてもーた・・・どや?クソマズいやろ?』
『私これ好きで申し訳ございません』
『嘘やろー!もうお前あれだ、今日からパクチンな!』
『パクチンってなんやねん!パしか合ってへんわ!で、申し訳ございません』そう如月の真似して関西弁で突っ込むと如月の両肩に後ろから手を乗せ、グレイシートレインのような格好で2人はまた木陰から木陰へと移動しながら先を急ぐのだった。。。
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